カークヨームの森の民
文月みつか
第1話 トリあえずエール!
「トリあえずエール!」
場末の酒場にふらりとひとり現れたその女性は威勢のいい声でそう叫ぶと、隣の席に腰を下ろした。目鼻立ちのくっきりした人で、金色の長い髪の毛を無造作な太い一本結びにしている。僕の目を引いたのは、彼女が美人だったからというだけじゃない。その人は青地に白の鍵括弧のようなラインが入った不思議なデザインのローブを着て、茶色っぽい羽の首飾りをしていた。つまり、かなり奇抜な恰好だった。
彼女はやさぐれた表情でエールを一気にぐいっと飲み干した。思わず「すごい」とつぶやくと、「ふふーん」とにっこり笑って見せた。
「いい飲みっぷりですね」
「ようやく一仕事終えたところでね。こうして祝杯を上げているんだよ」
「お仕事は何を?」
「祭りのにぎやかし」
「えっ、そんな仕事があるんですか?」
「あるんだよ。まあ、稼ぎになるかどうかは腕次第だが。ちなみに私は今まで一度も金をもらったことはない」
それは仕事と言えるのか……?
困惑がもろに顔に出ていたのだろう。彼女はにやにやしてエールのおかわりを頼んだ。
「KACっていうお祭りだよ。ここから少し先の村でやってるんだ。知らない?」
「さあ? あいにく、僕は放浪中の身なので」
「そうなんだ。じゃあ、来てみる?」
美女の誘いを断る理由などなかったので、ほろ酔い気分の僕は頷いた。
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