トリあえず好きって事で
三愛紫月
告白
「優吾君が好きです」
「トリあえず好きって事で」
大好きな彼は、空を眺めながらそう言った。
はあ?
人が勇気を出して、告白したのに「トリあえず」って何?
空を見てるのは、何?
今まで、好きになって告白したやつの中で一番最低な回答に私は驚いていた。
「それって、付き合ってくれるって事?」
「そこまでは、考えてないって言うか」
「じゃあ、どこまで考えてるのか言ってくれる?」
「どこまでって言われても困るって言うか」
「ってか、さっきから何してんの?」
優吾君は、私の話など上の空で聞いてなどいない。
天を仰いで、ポケットから何かを取り出そうとしているだけ。
「いや、別に何もないよ」
「じゃあ、こっち見てよ」
「いや、それは出来ないって言うか」
「はあ?何で?さっきから、空見てるのも何なの?」
優吾君は、私の話に一瞬だけ目線をこっちに向けて、またすぐに空を見る。
「冗談みたいな話なんだけどさ」
「何?」
「昨日、飼ってるトリが逃げたんだ」
「はあ?」
「それがさ、黄緑の変わったトリでさ。こっち来て、空見てみてよ。いるんだ」
優吾君に言われて、空を見上げると確かに黄緑色の珍しいトリがスズメに混じって飛んでいる。
「あのさ……。まさかとは、思うんだけど。さっきのトリあえずって、このトリとかけた何て事はないよね?」
「……。まさか、あるわけないだろ」
「あるんじゃん。このトリを見てたから言った言葉なんじゃん」
優吾君が、私を好きだと勝手に思っていたから何だかショックだった。
トリあえず好きって事でって、このトリが好きだからじゃん。
最悪。
勇気を出したのに……。
何で、こんな思いしなくちゃいけないの。
「頑張ってトリを捕まえて。じゃあ、私帰るから」
「ちょっ、ちょっと待って」
優吾君を無視して歩き出した瞬間だ。
「待ってよ。ジュリア」
「えっ?」
私の名前を呼ばれて立ち止まる。
(ピーピーピー)
耳元でトリの鳴き声が聞こえる。
横を見るとさっきの黄緑色のトリが私の耳元で飛んでいる。
「佐久間さん。どうやら、ジュリアは君の事が好きみたいだ」
「ジュリアってまさか……」
「そのトリの名前なんだけどね」
「それってつまり……」
優吾君は、私の横を飛んでいた黄緑色のトリを優しく捕まえる。
「トリあえず好きって事で」
「何?その言い方」
「面と向かって言うのが少し。恥ずかしかったから……ごめんね」
「じゃあ、トリあえず一緒に帰る?」
「家に来る?ジュリアを籠に入れないといけないから」
「行きたい」
私と優吾君は、並んで歩く。
今日、世界で一番。
トリあえずって言葉が好きになった。
トリあえず好きって事で 三愛紫月 @shizuki-r
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