4.世界大戦-1

『ヒト』族の群は、そのいずれもが版図面積を拡大していく過程で共喰いを繰り返した。

 大が小を呑み込み、より『強さ』を増していく一種の成長であり進化である。

 常に『強者』でありつづけること――己が安定して生き残るためには、それは必要な行為に他ならなかった。

 しかし、そうした生存戦略は、『世界』というペトリ皿がついには己をふくむ『ヒト』族の群で埋め尽くされてしまうと方向を変えざるを得なくなる。

 互いに互いが境界を接するようになってしまった段階で、それまでと同じ調子の捕食行動をつづけたならば、おそらくは己も無傷ではすまない。

 そうして傷をおってしまえば、もはや『世界』に余白は残っていないのだ。

 弱ったところを狙われ、今度は己が他の群から捕食の対象にされかねない。

 と、

 群の数が減った結果、生き残った群はそのいずれもが、三すくみ、四すくみの状態に陥ってしまったのだった。

 くして、争闘のおきる頻度は減少した。

 否応なしに、そうならざるを得なかった。

 皮肉だったのは、一見すると『平和』と思えるその時期に、平和であるからこそ『技術』がますます発展し、新たに進化していったことだろう。

 世が『平和』であったから『技術』の進化は滞ることなく、むしろ加速さえされ、結果として『社会』――『国家』は栄え、『国民』は富み、

 つまり、『資源』の消費量が、それまでにも増して増大していくこととなり、将来にわたって『平和』を維持していくためには、不足する『資源』の調達行動は絶対的に必要不可欠で……、


 だから、

 全世界をまきこんだ史上初めてとなる大戦争のぼっぱつは、だから、かりそめに得た『平和』によって強要された――避けようもないものであったと、そうも言えるのだ。

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