『アーカンフェイル戦記』第一話/鐵(くろがね)の花は血に染まる

幸塚良寛

PROLOGUE

1.史劇の舞台

 この惑星において支配者層であり知的生命体でもある『人間』種族は、更に細分化すると、『ヒト』族、それから『妖精』族の二つの亜種に分けられる。

 差異となるのは『魔法』と呼ばれる超常のちからを有するか否か。

 しかし、『魔法』をその身に宿さぬが故、弱者と遇されてきた『ヒト』族は、しかし、それ故、群としての行動に優れ、また、己が非力を補わんと発達、発展させた『技術力』により、ついには『人間』種族のなかで最大多数、また、最強の座を占めるに至った。

 他方、『妖精』族――『風精エルフ』族、『ドワーフ』族をその筆頭とする者たちは、現実に対する干渉力としての『魔法』が衰微してゆくにつれ、その勢力を減じていくこととなる。


 ローレンシア大陸西部域――これが、これより以下に記すこととなる一連の記録の舞台名称である。

 有史以前より『人間』種族が住みつき、やがては世界の中心とも目されるようになっていった地だ。

 東西方向が約四〇〇〇キロ、南北方向が約一五〇〇キロの、大ざっぱに言うと横方向に長い長方形の地塊は、ほぼその中央を東西にはしる大山脈、アーカンフェイルによって南北に分断されている。

 北の厳寒、南の温暖、東の広漠、西の湿潤。

 荒野、沃野、森林、砂漠――様々な気候、また地勢。

『人間』種族は、こうした広大な領域の各処に集落を築き、世代を重ねていったのだった。

 地のおもてには『獣』の群が跳梁ちょうりょうし、『魔』なるモノが跋扈ばっこしていたいにしえである。

 ある意味、調和のとれた――創世の頃のおもかげを残していた時代でもあり、この頃を指して、だから、『上代』と呼ぶ歴史家もいる。

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