アイの聖戦

リンノ マワル

プロローグ:【予言の軍師】の最期

 議事堂前の広場に集まった数多の民が大声を上げる。その声は、歓喜、増悪、痛哭、同調、反発などの様々な感情が混ざり合っている。

 しかし、1つ共通点があるとしたら『予言の軍師』レスト・クリティクレの処刑に対しての反応という所だろう。


 背が高く、短髪で眼鏡をかけている軍服の男が中央の処刑台の上へと上がり騒がしく叫く国民達を見下ろし、拡声魔術を発動する。


「静粛に!」


 短いながらも、覇気をも感じる様々な感情のある声を聞き気持ちの荒ぶる国民達を一斉に黙らせる。


「これより、大罪人であるレスト・クリティクレの処刑を執り行う。罪人を執行台へ。」


 そこらの平民の方がまだマシだと思えるほどのボロボロの服を着ており、手には錠がかけられていて、目隠しもつけている。

 整えられていない黒い長髪が風でたなびく。天候さえも、彼の味方では無く唯彼の処刑を待ちわびている傍観者なのだと言っている様だ。


 全身シワの無い清潔な軍服を着た男が手錠を引き、レストを処刑台の中央へと荒っぽく膝を突かせる。


「このレスト・クリティクレは、たった1人の人間の為に偉大なる皇帝陛下を暗殺しこの国の全てを滅ぼそうとした!よって、この男を大逆罪と国家反逆罪とし銃殺刑とする!」


 瞬間、虫の羽音すら聞こえなかった広場が国民達の声によって破かれる。まるで大地が揺れ、空も割れる様だった。


 しかしレストは処刑台の中央で膝を突きながらもどこか満ち足りた様な満足感を感じている様に見える、そして自身の最期を待つ国賊の後頭部に5挺の帝国式魔銃が突き付けられる。


 引き金に指がかかり、国民は息を呑む。あるものは絶望し、あるものは狂喜した、そして皆が思った、ついにこの瞬間ときが来たのだと。


 眼鏡の男が、短いながらもはっきりと命令を下す。


「執行。」


 刹那、幾重にも重なる銃声が広場へと鳴り響く。確実に罪人の命を刈り取る音が全ての観客の耳へと届く。

 男だった肉塊が、ゴッという鈍い音を立てて倒れる。


 今までとは比べものにならない程の轟音が国民達の口から鳴り響く。

 国賊はもうこの世にいないのだ!英雄はもうこの世にはいないのだ!そこにあるのは物言わぬ唯の屍。


 後生の歴史家は皆この時の事をこう呼んだ。


 『鉄血帝国の最期』と。


───レスト・クリティクレ、享年25歳。

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