クラスのグループLINEに「セ○レ欲しいなぁ」と誤爆したら、学校の偶像が立候補してきた
新原(あらばら)
第1話 そんなことがあるのか
「――
7月上旬のとある平日。その日の放課後。昇降口に向かう途中の廊下ですれ違った担任教師の江藤が、そう言って僕の肩をポンと叩いてきた。
「去年からずっと期末1位をキープだな。親御さんもさぞかし鼻が高かろう」
「あ、はい……ありがとうございます」
「この調子で気を抜かんようにな。じゃあまた明日」
そう言って江藤が立ち去っていく。
僕はどこか憂鬱な気分で昇降口に足を運び、下校を開始した。
「――良い成績ですね。今回もよくやってくれました、
家に帰ると、僕が見せた期末テストの通知表を見て母さんが満足げに頷いてみせた。
「あなたはこの橋口家の子なのですから、こうでなくてはなりません。家の名に泥を塗らないようにこれからも存分に励むことです」
「はい、母さん」
一礼して、僕は自分の部屋に向かった。
「……めんどくせえ」
自室にたどり着いた瞬間、僕はリュックをベッドに放り投げ椅子に横柄な感じで座った。
「家のために生きてるんじゃねーっての」
でも僕はそう在るしかない。
僕が生まれた橋口家は、親父が有名な政治家である。
別に親父に続いて政治家になる気なんてさらさらないが、親父の面子のために長男にして一人っ子の僕は優秀であることを求められている。
具体的に言うと、常に成績トップであること、そして素行の良さを強いられている。
そのふたつを保てていれば何も言われないし、小遣いもそこそこ貰えるし生活の自由だってある。
しかし少しでも成績が下がったり、素行になんらかのケチがつけば、小遣いは消えて半ば軟禁される。軟禁とは、学校と家の往復だけを余儀なくされるということだ。小学生時代にそんな目に遭ってから、僕は馬車馬のように勉強し、品を磨き、成績トップと素行の良さを維持するようになった。
もちろん、そんな日々にストレスが溜まらないわけがない。成績が下がったらどうしよう、素行にケチがついたらどうしよう、というプレッシャーが常にある。それがストレスになって、僕を蝕む。
日々のリソースを勉強に割くことが多い僕にとって、ストレス発散にちょうどいい趣味はない。
唯一の発散方法は、自分だけのグループLINEで愚痴ること。
だからこの時間も、思ったことをそこに綴っていく。
【はあ、めんどくせえ】
【ストレス溜まるわ】
【セフレ欲しいなぁ】
セフレ。
そういうのが居れば、親にバレたら面倒にせよ、もうちょっと僕の人生は潤うんじゃないか、みたいに思わないでもない。
だからそんなことを綴ったわけだが――
――お?
――橋口?
――お前何連投しとんw
……ん? となった。
あれ? なんで僕だけのグループなのに反応が……。
と思いつつハッとした。
マズい……これ僕だけの愚痴グループじゃなくて「クラスのグループ」か……!
――ワロタw
――草
――ウケるw
――セフレ欲しいんだってよ女子立候補したれw
ヤバいヤバいヤバい……!
これはなんだか取り返しが付かない事態になりかけているような……!
【違う。これは弟が遊びで勝手にやったんだ】
そんな言い訳を急いで送信してみるが――
――ウソだな(確信)
――まぁそういうことにしといてやるよ笑
――橋口くんちょっとキモいw
だのなんだの、好き放題言われ続けてしまう。
……まぁ実際キモいことを言ってしまったからな。
くそ……明日の学校生活が憂鬱過ぎる。
そして実際、迎えた翌朝の教室では盛大に笑われ、イジられる始末となった。
……親の耳に入らない笑い事の範疇なのがせめてもの救いだろうか。
しかしそんな誤爆事件が思いも寄らぬ方向に動き出すことになるのは、この日の放課後のことだった――。
「――ねえ橋口くん、ちょっといいかしら?」
放課後を迎える頃にもなると、なんだかすっかり僕の誤爆事件は飽きられた感があってイジられることもなくなっていた。
ところが、
「セフレが欲しいって、本当?」
下校中に背後からそんな声を掛けてきたのは、クラスメイトの
クラスで、いや……学校で一番可愛いと評判の、大和撫子然とした黒髪の美少女だ。
高1の去年に初めて遭遇した存在で、別に友達でもないから親しくはない。
期末テストの結果が掲示板に貼り出された際に、いつも僕の下に居る学年2位の存在でもある。
ともあれ、
「その件は……ほっといてくれないか」
なんで篠崎が誤爆の件についてわざわざ触れに来たのかは分からない。
せっかく沈静化したのだから、もう触れないでくれよ。
「アレは本当にただの誤爆なの?」
「そうだよ。弟がやったんだ」
「一人っ子じゃないの?」
「――っ、なんで知って……」
「カマを掛けただけよ」
……やられた。
「ふふ。とにかく、イマジナリーブラザーが誤爆なんて出来るわけがないのだから、昨日のアレは誤爆じゃなくて本心の吐露、ということでいいはずよね?」
「……だったらどうした。みんなに真相を言いふらすってか?」
半ば開き直ってそう問いかけてみると、篠崎は首をゆっくりと横に振ってみせた。
「そんなことはしないわよ。私はただ、こう言いに来ただけ」
そんな前置きのあとに発せられた言葉は、予想だにしないモノだった。
「――あのLINEが単なる誤爆じゃなくて心からの発露なら、私と実際そういう関係になって欲しいのよ」
……あまりにも青天の霹靂と言えた。
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