放課後のひと時

譚月遊生季

第1話

「あー、暇」

「暇だね」

「なんかする?」

「何しよ……疲れてるしなぁ」

「とりあえず、しりとりとかは?」

「良いよ。固有名詞あり?」

「あり。あ、でも『ンジャメナ』とかはなし」

「固有名詞あり、『ん』は即負け?」

「それで良いよ。時間制限もなし」

「了解。じゃあ先手そっちからで。『しりとり』で開始な」

「りんご」

「ゴリアテ」

「テスカトリポカ」

「カノッサの屈辱」

「く……くびき

救苦渡厄真君きゅうくどやくしんくん

「それゲームのじゃん!! 賢いこと言おうとしてカッコつけたな!」

「ちっ、バレたか」

「しかも『ん』ついてるし!」

「……ちっ、バレたか……。仕方ない。『ンジャメナ』解禁していいよ」

「ねぇそれ何目線? 勝ったのはこっちなんだけど?」

「うるせー」


「ねぇ」

「なに」

「いつまでこうしてられるかな」

「…………」

「聞いてる? うちら、いつまでこうしてられるかな」

「さぁ。恋人できるまでとか?」

「……好きな人、いるの?」

「どうだろ。よくわかんない」

「そっか。……わかんないよね。そうだよね」

「……とりあえず、しりとりする?」

「また?」

「楽しかったから」

「……うん、そうだね。やろっか」

「そんでしりとり飽きたら、マジカルバナナしよ」

「マジカルバナナも飽きたら?」

「愛してるゲームとか?」

「えっ」

「……冗談に決まってるじゃん。ばーか」

「……バカはそっちだよ。ばーか!」


 

 ***



 場所は、公園の噴水前。

 最後まで語り終えたところで、少女はメガネを指で押し上げ、カッと目を見開いた。

 

「……という会話を、この白い鳩二匹はやっていると見た!!!!」

「長っ。アイス溶けるよ」


 今の今まで寸劇すんげきを語り聞かせていた相手に、かたわらの少女は呆れた様子で肩をすくめる。


「このエモさ、伝わんないかなあ」

「だからアイス溶けるって。さっさと食べなよ」

 

 ベンチに座るは制服姿の少女二人。 

 日は既に傾き、オレンジ色の空が二人の頭上を彩っている。

 

「っていうか、『いつまでこうしてられるかな』って何?」

「あるじゃん。思春期特有の距離感とその不安定さ」

「いや知らんし……」


 悪態をつきながらも、少女はちらりと傍らの親友を見やる。

 相手のかけたメガネの向こうで、空は、次第に夜へと変わりかけている。

 こうやって放課後にアイスを食べて、他愛たあいのない話で笑い合える時間は、限られたものだろうか。

 ……いつまで、二人はこうしていられるのだろう。


「ああ、そっか。私らのこと言いたかったとか?」

「へ? 普通にBLのつもりだったんだけど」

「…………このバカタレ!」

「なんで!?」


「とりあえずアイス食べようか」で始まった他愛のない時間は、刻一刻こくいっこくと過ぎ去っていく。

 かけがえのない煌めきを、二人の瞳に宿して。

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放課後のひと時 譚月遊生季 @under_moon

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