道中

神白ジュン

第1話

 「話は後でしますから、とりあえずそこを、どいてくれませんか?」


 俺はある予定に遅刻しそうで、急いで道を走り抜けていたのだが、その最中、見知らぬ男に道を塞がれてしまっていた。


 「……あの、何か言ったらどうなんですか?」


 そう質問を投げかけるも、男はこちらをじっと見つめたまま、うんともすんとも口を開かない。聞こえるような声でしっかりと言ったはずなのだが、全くといって良いほど反応が無かった。


 近道を選んだばかりに、道は細く、通り抜けられそうにもない。それに、ここから迂回しようとすれば間違いなく遅刻するに違いない。つまり俺はここを通る必要があるのだけれど、通れる気配が全くと言っていいほどしなかった。



 「ちょっとこのままじゃ予定に間に合わなさそうなんで、いい加減通してもらっても良いですか?」

 

 全く退く気配のない男にイラついてしまった俺は、少し強めの口調でそう言い放った。けれども男は表情一つ変えず、仁王立ちのままだった。

 無理矢理通ることも考えついたが、明らかに相手の方が大きく生半可では通してくれそうになかったため、却下。


 痺れを切らして再度口を開こうとした瞬間、ついに男が口を開いた。



 「────この先に向かうのは、とりあえずで置いておいた課題を終わらせてからにしたらどうだ?」


 それはいかにも、まるで俺にまだやるべきことがあるのではないか、と問いかけるような言葉だった。


 そして男はそれだけ呟いて、再度口を閉じてしまった。よくよく見ると、その顔にはどこか見覚えがあるような気がした。




 不意に手元の時計を見ると、時刻は既に予定の時間を過ぎてしまっていた。俺は思わず天を仰いだ。結局、予定には間に合わなかった。それどころかここまでの徒労が一気に押し寄せてきたのか、視界が暗転して意識を失ってしまった。




 

 

 目を覚まし急いで飛び起きると、そこは見慣れた光景だった。つい先程まで外にいたはずだが、気づけば自分の部屋へと戻ってきていたのだ。



 急いで辺りを見回した。そして俺はあることに気づいてしまった。




 机の上には山積みの課題が連なっていた。

 


 「遊びに行くのは……とりあえず、これを片付けてからにするか」

 

 

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道中 神白ジュン @kamisiroj

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