大きな魚

雨世界

1 あなたに届いたらいいな。

 大きな魚


 春原咲 陸上部。神社の跡取り娘。十六歳。


 秋月仁 帰宅部。咲の幼馴染。十六歳。


 あなたに届いたらいいな。


 あなたは運命という言葉を信じますか? 私は運命という言葉を信じません。だって運命が初めから決まっているなんて、もしそれがとても悲しい運命だったら、本当に辛い運命だったとしたら、そんな運命が起こると決まっているとしたら、とてもつまらないと思いませんか? 悲しいことだって思いませんか? そんな運命なら『力ずくてぶっ壊してやる』ってそう思いませんか?

 私ならそう思います。


 どうしよう? 何度やっても結果が変わらない。

 春原咲は正座のままで、床の上にひたいを当てるようにして目を閉じる。おかしい。この占いは絶対に間違っている。でも、……。

 もう一度だけやろう。もう一度やって、今度も同じ占いの結果が出たら今度こそ『その未来』を信じよう。

 頭を上げた咲は真剣な顔をしてもう一度占いをする。

 咲の座っている床の前には炎がある。小さな炎だ。咲はその炎の中に木の札をくべる。榊の葉を炎の中にくべる。それから咲は立ち上がって舞を舞う。神様に奉納するための舞だ。咲は赤と白の巫女服を着ている。その上に今日は儀式用の羽織を纏い、頭には飾りをつけている。場所は神社の境内の中。咲の生まれた家である『春原神社』の境内の中だ。

 春原神社は古くて小さな(有名でもない)名もない忘れられてしまったような神社だったのだけど、ひとつだけとても強い力を継承している神社でもあった。

 その強い力とは『占い』だった。未来を知ることができるのだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る