激動昭和・UMAハンター千賀子編
第101話: 未知との遭遇
※ちょっと、下品な描写ありです
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UMAとは、なにか。
説明すると長々と文字数を稼ぐことになるけれども、無いとそれはそれで『UMAとは何ぞや?』といった感じで首を傾げる人が出て来るので、簡潔にまとめよう。
要は、生態を始めとして、目撃例ぐらい(それも、真偽不明)しか確認されていない、生物学的に未知の生物を差す言葉だが、特徴がある。
それは、UMAの実物が実際に捕獲された例が極めて少ないこと。そして、その捕獲されたモノも、後の調査で偽物あるいは本物とは断定できない……と、されていることだ。
日本において有名なのは、『ツチノコ』や『河童』だろうか。
河童の方にいたっては相当昔から目撃例があったり、絵巻や伝承などにも登場するぐらいに有名だが、それですらも、確実に本物だと断定されたモノは無いのだ。
実際、千賀子の前世では、その手のブームが起こるたびに大捜索が行われ、大々的に調査が行われたりもしたが……結局、生きた個体が発見されたことは一度としてなかった。
……さて、全てが色々な意味で謎に包まれたUMAだが……なんと、どうやら今生の世界には存在している事が確認された。
女神様曰く、『いろいろあって……』との事らしいが、問題はそこではない。
この世界におけるUMAの問題は……どうやら、大半が肉食であり、そのうえ、人肉を好む傾向にあるらしい。
──殺りまくり、食いまくり。
それが、UMAの基本的な性質らしい。
姿形には大きな違いがあり、生物学的には明らかにおかしく(仮に、ありえなくとも)とも、肉が……人肉が大好きらしい。
そんな物騒な生き物、もっと有名になって大騒ぎしてもおかしくないのでは……そんなんじゃ甘いよ。
UMAとて、馬鹿ではない。伊達に、未確認生物と定められているわけではない。
わざわざ知恵を付けた成体……それも、骨も肉も皮も硬くなっているうえに力もある獲物を狙う馬鹿はいない。
狙うのは、子供だ。それも、親から捨てられた孤児だ。
そう、実は、この頃(1970年代前後、特に1960年代)は……千賀子の前世の話だが、捨て子というのが多かった。
この頃にも有志の善意によって運営されている施設はあったが、どこも経営は苦しく、現代よりも劣悪な環境が多かった。
ちなみに、施設に預けにくる人の割合は、女性の方が多かったらしい。
施設の前にこっそり放置したり、手紙だけ子供に渡して1人で行かせたり、やっぱり我が子を……と考えを改めて迎えに来る子は皆無だったとか。
理由は様々だが、再婚するので前夫の子供が邪魔になったから、浮気相手の子供なので邪魔になったからとか、あるいは、若干ながら知的障害が見られたとか。
貧困を理由にするにしては身なりが良かったとか……話が逸れたので、戻そう。
──とにかく、UMAにとって孤児はとても容易い獲物であり、これ以上ないぐらいの狙い目なのだ。
なにせ、保護者が居ない。厳密には孤児院の院長などが保護者代わりなのだろうが、一般的な保護者とは少し違う。
悲しいかな、90年代、00年代ぐらいならばともかく、この頃は孤児が1人2人いなくなっても、そこまで大した問題として取り扱われなかった。
それを分かっているからこそ、UMAは孤児を狙うのだろうが……言い換えれば、それだけ頭が良いということだ。
仮に子供を取り逃がしたとしても、UMAたちはよほどの例外を除いて、身を隠す術や能力は、十二分に備わっている。
馬鹿正直に真正面から襲い掛かるような個体などおらず、今日までほとんどのUMAは、あくまでもUMAのまま人の目を逃れ続けられている……という話であった。
──さて、やはり長々とした前置きになってしまったわけだが、結局のところは何がしたいのかと言うと。
『 ──第1回:女神信教活動会議中── 』
デデドン、と。
村人がわざわざ夜なべして作ってくれた大きな立て看板が、神社の鳥居前に置かれたのは、少し前。
なんでも、リテイク回数98回らしい。
たかが看板に何をそんなにと思ったが、目の下に真っ黒なクマを作った、村人たちの誇らしげな顔を見て、使わないという選択肢は千賀子にはなかった。
で、そんな看板に書かれた通り、神社の中では会議が行われていた。
そう、冴陀等村にある神社にて、千賀子は相変わらず1人会議ならぬ千賀子会議を行い、『女神信教』の教祖としての行動を決めようとしていた!!!!
……。
……。
…………まあ、そんな鼻息荒く宣言をしたところで、やっている事は大したことではない。
要は、せっかく『女神信教』の教祖であり宗主という立場となったので、この立場を使って何かをしよう……というだけの話である。
別に、堅苦しく考える必要はまったくない。
何故ならば、今の千賀子が代表を務める『女神信教』という組織は、名前があるだけで何の実績も肩書きも無いのだ。
そう、宗教法人とは言いつつも、世間的な立場は自称○○業の怪しい女が率いる、怪しさ満点の組織である。
……いや、だって、冷静に考えてみてほしい。
宗教に限らずなんでもそうだが、営業実績が一切無い企業から『うちは技術には自信がありますよ!』なんてセールスを掛けられて、いったいどれだけの人が信用を覚えるだろうか。
そりゃあ、公的に登録はされているわけだが……そこらへんになると、もはや詐欺師の領域に……話が逸れ始めたので、戻そう。
「……では、忌憚なき意見を求む」
会議とは言いつつも、炬燵に温まりながらミカンに手を伸ばし──ロボ子にソッと遮られた千賀子の宣言に、まずは2号が口を開いた。
「とりあえず、他所のUMAの事はいったん他所に置きましょう」
「え、なんで?」
思わずといった様子で聞き返した千賀子に、2号はチラリと視線を向けた。
「依頼されたわけでもないし、お願いされたわけでもない。言うのはなんだけど、どこかで線引きしないと、また他人のために動き続けるような流れになるわよ」
「えぇ……そういうモノなの?」
「私もそう思うよ、本体の私。自己満足の結果、他人が助かるのは良い。でも、順番を逆にしたら、必ずどこかで歪みが出てくるし、逆恨みされる可能性もあるから」
ちょっと納得出来ずに言い返せば、3号からもバッサリ切られてしまった。
「そうですね、マスターのそれは自己犠牲の領域に入ります。他人を助けることに喜びを抱くのもまた人ですが、自らの私生活を犠牲にしてまでとなると、それは異常でしょうね」
駄目押しにロボ子からもキッパリと『おまえ、おかしいよ』みたいに言われてしまった……う~ん、酷い。
「で、でも、私がなんとかしないと危ないじゃん?」
「北海道でクマが大量発生したからといって、わざわざマスターが対処しに向かうのですか? 自己犠牲も程々にするべきかと」
「い、いや、自己犠牲ってほどでは……」
「そりゃあ、喜んでくれるでしょうね。タダでなんとかしてくれるのですから、誰しもがもろ手を上げて万歳するし、称賛の言葉を送るでしょう……まあ、それだけですけど」
「……はい、すみません」
とりあえず、なんとか言いくるめそうなロボ子に食って掛かってみたが、1を撃てば倍以上に返されてしまい、千賀子はションボリするしかなかった。
まさかの、第1話目にしてUMAスレイヤー引退か……そんな空気が流れかけたのだが。
「……別に、本体の私が親身にしている者たちと、その周囲の安全を確保。他は、物の次いででタイミングが合えば助ける……ってので良いのでは?」
ポツリと零した2号の言葉に、千賀子はハッと顔をあげた。
そうだ、そうだったではないか。
千賀子は人々を守る神に成ったわけではない。また、聖人君子に成ったわけでもなく、人々を守る正義の使者になろうと思ったことすらない。
ただ、近しく愛おしい者たちを守りたい、そのために動いているだけだ。
そう、結果的に、近しい人たちが悲しむ結果になってほしくない、その次いでで、他の人々が助かっているだけ。
目の前で死ねば目覚めが悪いから動いているだけで、顔も名も知らぬ誰かのために命がけで動くほど、千賀子は善人ではない。
「そうだね。それなら、皆も文句はないでしょ?」
ゆえに、千賀子がそう分身たち(+ロボ子)に尋ねれば、特に異論はないといった様子であった。
……。
……。
…………で、だ。
とりあえず、何をするにしても『UMA』の生態を知らなくては話にならない。
先ほどの女神様の説明では、UMAは肉食で人肉を好み、見た目とは裏腹に知恵が働き、常人ではまともに相手にならない戦闘能力を持っている……というのは分かった。
知るべきは、その先。
冴陀等村周辺にUMAが棲みついているのか、地元の近辺にUMAが棲みついているのか、それはすぐにでも対処しなければならないのか。
「女神様、UMAたちの弱点というか、近付けさせない方法ってある? さすがに、私だけではカバーしきれないから、ある程度はそういうので抑えておきたいのだけど」
率直に、千賀子は女神様に尋ねた。
出来るならば女神様に頼りたくないが、なにせ、UMAという存在を知ったのが先ほどの事だ。
ロボ子も、『さすがに情報が少なすぎる』ということで、実質何も分からない……と、なれば、この場においての唯一の情報源は、女神様以外にいないのだ。
まさしく、背に腹は代えられない、というやつだ。
女神様もそんな千賀子の内心を分かっているのか、それはそれは嬉しそうにグニャグニャと前進を手を蠢かせると、ぬうっと千賀子に顔を近付けた。
──簡単ですよ、愛し子の小便でもまき散らせば怖がって逃げます。
そして、女神様はすぐに方法を教えて──???
「なんて、女神様?」
──なんだろう、今しがたサラッととんでもないことを言われたような……そんな藁にもすがるような思いで、千賀子は再度問い掛けた。
──オシッコ、引っかけてしまえば良いのです。
「私の聞き間違いじゃなかった……!!」
だが、現実は無情……悲しいかな、さっきよりも露骨な表現になってしまった。
一瞬ばかり、女神様の趣味かナニカかと身構えたが、ちゃんと話を聞けば、そういうわけではなかった。
要は、動物などが行うマーキングである。
女神様曰く、どうやら千賀子の小便は、嗅覚の鋭い獣ならば、数百メートル離れていても察知できる特殊な尿水らしい。
言うなれば、獣が臭いを嗅いで、その強さを察するといった感じだ。
まあ、あくまでも尿水でしかないので、劇物の類ではない。
なので、仮に飲んだり浴びたりしても害はないらしく、そこらへんの心配をする必要はないとのこと。
「……なんだろう、欠片も嬉しい気持ちになれない……事態は好転しているというのに」
ただ、千賀子が気にするのは己の尿水の有毒性ではなく、己の尿水を使わなければならないという事なのだが……残念ながら、女神様には欠片も伝わっていなかった。
──あっ、容器に入れて使うとかは止めた方がいいですよ、効果が薄まりますので。
「え、なんで?」
──純粋な生物とは違いますから、何かを介してしまうと……ナチュラルウォーターが一番効果があります。
「ナチュラル言うな」
それどころか、やり方を細かく注文してくる始末。
つまり、あらかじめ容器に入れてUMAが出てきそうなところにばら撒いておくのは意味がない。
千賀子が直接現場に行って、直接その場で小便をしてマーキングをする必要が……え、マジで?
「……私を製造した者たちよりインプットされているデータの中に、そういう類の生命体がいるとあります」
「oh my god 神は、死んだ」
──私には、生も死もありませんよ?
「言葉の綾ってもんですよ、女神様!」
チラリとロボ子を見やれば、目を逸らしたままそんな話をされた。
たま~にロボ子は悪魔のような仕打ちをするが、こういう時に嘘はつかない。つまり、女神様の話を補強していることになる。
……。
……。
…………と、なれば、だ。
とりあえず、効果の程はいかに……ということで、時刻は深夜。事前に、ロボ子よりUMAの存在が観測された辺り。
知恵が働き警戒心が強いUMAはおそらく、昼間は出てこない。
なので、草木も眠る丑三つ時ならば、多少なり気を緩めるし、他者の目も入らないだろう……ということで、作戦開始時刻は深夜になったわけだが。
「……私、何をやっているんだろうか?」
作戦開始直前、千賀子のテンションはかつてない程に下がっていた。まあ、当たり前である。
「UMAへの対応手段として、マスターの尿水散布実験です」
「そういう事じゃなくてね?」
思わず、千賀子はツッコんだ。
2号や3号とは違い、ロボ子には物理的に外敵を排除する機能が備わっている。
言い換えれば、体内に兵器を隠し持っている。
なので、物理的な攻撃力などはロボ子が圧倒的であり、いざとなればロボ子に守ってもらおう……ということで、ロボ子が今回の御伴となった。
……2号と3号はどうしたのかって?
とりあえず、ロウシたちは神社に待機。2号は実家と明美の家を、3号は道子たちを警備するので、この場にはいなかった。
「何が悲しくて、生まれ育った町でひっそり深夜に息を潜めて立小便をしなければならないのかと思いましてね」
「??? 緊張を解しましょうか?」
「ごめん、私の言い方が悪かった。とりあえず、さっさと済ませよう……」
特大の溜め息を吐いた千賀子は、脱ぎやすく隠し易いようにとロングスカートをまくると、剥き出しのケツをプリッと震わせながら……震わせながら……???
「ロボ子」
「はい」
「立小便って、どうやるの? 予感からして、足とかに伝って汚れそうな気がするんだけど……」
素直に尋ねれば、ロボ子は一つ頷いた。
「それならば、衣服等が濡れないよう胸の辺りまでまくってください」
「うん」
「次に、軽くおじぎをするように前傾姿勢になり、両足より心もち外側へ開いて……その姿勢のままなら、汚しにくいかと」
「あ、なるほど、これなら……」
それから、改めて周囲に人の気配や視線が無いことを念入りに確認した千賀子は……チョロチョロ、ジョジョ―、と排尿を始めた。
「……甘い、に該当する臭いを感知」
「え? 気のせいでしょ」
「いえ、センサーでは、そのように感じ取れる類の物質が検知されています」
「……さすがに小便まで甘い匂いとか、糖尿が心配になるんですがそれは……」
「ウキャー、ウキャー」
「その心配はないそうです。非常に健康的で活力に満ちたオシッコなので、気にするだけ無駄でしょう、とのことです」
「あ、そう──っていうか、なんかソムリエみたいな──?????」
なんか専門家みたいな事を言い始めたぞコイツと思ってそちらに目を向けた瞬間、千賀子は──何時の間にか傍まで来ているヒバゴンの存在に、ビクッと総身を震わせた。
いや、だって、考えてもみてほしい。
人間がその場にいただけでも悲鳴をあげるぐらい驚くところなのに、明らかに人外が傍にいるのだ。
むしろ、悲鳴を上げずにビクッと総身を震わせるだけで留めた千賀子の胆力を褒め称えるべき場面だろう……っと。
チョロチョロ、チョロ、チョ……ポタポタ、ポタ。
唖然&呆然としているうちに、オシッコタイムが終わる。
後はもう、漏れ出たオシッコぐらいしか……という段階までスッキリした千賀子を尻目に、ヒバゴンは……なにやら、何度も何度も深く頷いては、千賀子の股間の辺りを見やると、ソッと……毛むくじゃらの胸元より、くしゃくしゃになった紙幣を……傍のロボ子に差し出した。
「ウキャー、ウキャー」
一つ、二つ、鳴いたヒバゴンは、後ろ手に千賀子へ手を振ると、小走りになり……あっという間に、夜の闇の向こうへと姿を隠してしまった。
……。
……。
…………まくりあげたスカートの裾を戻す余裕もなく、呆けるしかない千賀子を他所に、ロボ子は「はい、マスター、料金です」そう言って千賀子に紙幣を差し出した。
「先ほどのヒバゴン曰く、『たいへん良いモノを見せてもらった。命の輝き、生きるとはこういう事なのだと教えてもらった。次は顔にかけてほしい』、とのことです」
……。
……。
…………とりあえずは、だ。
(……へ、変態だー!!!!)
千賀子は、そう心の中で叫ぶことしかできなかった。
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