第52話: エンダアアアァァァアアアアアアアア!!!!イヤアアァァアアアアアアアアア!!!! (∩´∀`)∩ワーイ




 ──結論から述べよう。『ガチャ』の恩恵は偉大であった。




 なにせ、毎回でないし、僅かばかりとはいえ、だ。


 かなりの頻度で、ルーレットが止まるたびに、己の内より湧き出ている力が底上げされていくのを実感したぐらいだ。


 10回や20回なら、ともかく。


 1000回以上も連続してガチャが回れば、何時もなら中々実感しづらいステータス値の上昇も分かるぐらいの変化を彼女に実感させた。


 そう、それは、結果的に『巫女服』の恩恵をもパワーアップさせたのだ。


 『巫女服』は、結局のところ道具でしかない。


 例えるなら、痩せ細った男と、筋肉隆々の男。


 両方に同じサイズのハンマーを持たせた時、どちらがより強い一撃を叩き込めるのかと考えたら、考えるまでもなく筋肉がある男である。


 それと、『巫女服』は同じなのだ。


 現時点で出せる以上の力を出すことは出来るが、それにも限界がある。基礎ステータスが高い方が、身体の負担が小さいまま、より強大な力を引き出せるようになる。


 そのおかげで、最初の頃は集中が途切れたら転覆しちゃうと冷や汗ダラダラだったが、今では、考え事が出来るぐらいには余裕を取り戻せていた。



 ──まあ、その代わり。



 問題になっているのは、そのガチャの前半というか、大部分。


 基礎能力向上によって余裕が出るまでの間、船を制御したり、船員が怪我をしないよう集中していたり。


 そちらに気を取られていたため、ガチャで何が当たったのかほとんど確認できな──ぁ、ぁああ。



(い、いったい何が当たったんだろう……ようやくルーレットが確認出来るようになった時にはもう、950回ぐらい回っていたし……ていうか、まだ回っているし……)



 そう、今もなお、クルクル回っているルーレットを見やりながら、千賀子は軽くため息を零す。


 少なくとも、見た目がハッキリ変わるぐらいの物理的な肉体の変化は、現時点では起こっていない。



(ん~、なんかお腹がチクチクする……いきなり大量に+1が与えられたからかな……まさか、生理? このタイミングで?)



 まあ、見た目には現れなくとも、急激な変化が起こっているのは事実だ。筋肉とか骨とか、何かしらの違和感が出ても不思議ではない。


 ただ、痛みの場所がお腹……というより下腹部で、痛みの質も腹痛というよりは、生理が始まる前に起こる痛みに似ているような……まあ、始まるまでに陸地に到着するだろう。


 何故なら、今の千賀子はガス欠ではなく、既に4割ぐらいまで回復が終わっている。つまり、消耗するよりも自然回復量が上回っているのだ。


 肉体的な変化ではないが、以前に比べて船員たちの祈りが……そう、彼らの祈りが、何らかの形で己のエネルギーに変わっているのが感じ取れるようになったからかもしれない。


 おそらく、『巫女』としての能力が底上げされたからなのだろうが……とまあ、ひとまずガチャの内容は置いといて。


 千賀子のパワーが増したことで、とりあえずは危機的状況を脱した中で、彼女はどうしたものかと頭を悩ませていた。


 理由は、この後に訪れる巫女服の反動。並びに、自宅で何も知らずに……もぬけの殻になっている布団を見た、家族の事だ。


 反動はもうどうしようもないと諦めているが、何も知らない家族の事が気掛かりである。


 なにせ、ワープで夜中の内に全部済ませるつもりだったし……絶対に大騒ぎになっているだろうなあ、と千賀子は申しわけなさに憂鬱であった。



 ……なお、そんな感じで悩んでいる千賀子だが、表面上は澄ました顔で、けして表には出していない。



 助ける側が不安や憂鬱な顔を見せたら、助けられる側もまた不安になってしまう。


 ただでさえ、助からないと覚悟していたような状況で、助かるかもと希望を持ったのが今だ。


 こんな時に絶望して自棄になれば、それは連鎖的に広まる。


 今は、あくまでも台風の危機が去ったというだけであり、まだ船がどれだけのダメージを負っているのかすら、分からない状態なのだ。


 少なくとも、自力で陸へ戻れる位置か、あるいは、陸地の方より気付いて助けに船を出し、この船に到着するまでは……と、千賀子は考えていた。



 ……と、いうのも、だ。



 意外と知られていないが、こういう災害の時、救助されたことで気が緩んでしまい、そのまま気絶してしまうという事例はけっこうある。


 本来はとっくの昔に気絶しているようなダメージ(消耗の場合もある)を負っているが、アドレナリンを始めとした脳内物質が気付けとなり、意識を保っていた場合だ。


 ただ気絶しただけならば良いのだが、問題なのは……そのまま、死亡してしまう場合があるということ。


 これは戦時中にて確認された事例というか、報告されていた話らしいのだが。


 漂流した船員や兵隊などが、命辛々救助された後。そこで安心して気が緩んだことで、そのまま眠るように息を引き取ってしまうという事があったらしい。


 つまり、肉体的にはもう力尽きて死亡してしまうところを、意思の力でなんとか繋ぎとめているような状態だった、という話だ。


 幸いにも、ここにいる船員たちは直ちに問題になる怪我等は負っていないようだが……それでも、楽観視してよい状態ではない。


 肉体的、精神的な消耗もそうだが、沈んでいないだけで船が壊れている場合もある。


 万が一、こんな場所で立ち往生みたいな状態になれば……間違いなく、待っているのは死である。



(……仕方がない、今の内に覚悟を固めておくか)



 だからこそ、彼らを放っておくわけにはいかず……この後で自分の身に起こる大騒動。


 すなわち、家族への言い訳に対して、千賀子は人知れずため息を零したのであった。



 ……。



 ……。



 …………そうして、千賀子を乗せた7隻の漁船が、無事に陸地へと移動を開始。



 万が一にも点検出来ない部位が破損していた場合が怖いので、ゆっくりと慎重に向かい続け……本土側から気付いて、助けの船がやってくるまでの間……色々と大変であった。


 まず、無事に台風が過ぎ去って、ひとまず沈没の危険が去ったのを確認した後。


 船頭に立つ千賀子の下に、あるいは近くに船を寄せて、動ける船員たちが身を乗り出すようにしてやってきたのだが。



「──海神わだつみ様だ」

「え?」

「海神様が俺たちを助けてくださった──ありがとうございます、海神様!」

「え?」



 どういうわけか、海神様と呼び始めた1人に呼応する形で、誰しもが千賀子のことを海神様と呼び始めたことだ。


 それは、冗談とかそういう類ではない。


 誰もが心の底から千賀子のことを『海神様』と思っているようで、その目には敬愛や畏怖やらが多く……情欲といったモノは皆無であった。


 それはおそらく魅力的に感じていない……ではなく、畏れ多いあまり、そういう考えが思考の端にも全く出てこないからだろう。


 なにせ、老いも若きも、千賀子が居る甲板に出る時は、それはもう力強く手を合わせ、深々と千賀子に向かって頭を下げるのだ。


 特に、年配ベテラン船員の反応がすさまじい。


 長い船上生活の中で、唯一の楽しみと言っても過言ではない甘味(あんこの缶詰とか)を持ってくると、それを千賀子の傍に置いて……それはもう深々と、目尻に涙を浮かべて頭を下げていくのである。


 もちろん、千賀子からは、そこまでしなくても良い、元気に貴方たちが本土へ帰る姿を見ることこそが私にとっては嬉しい……と、伝えている。



 伝えているが、それでも来るのだ。



 それはもう、ただの缶詰なのに一目で、一生懸命綺麗な布などで磨いたと分かる、ピカピカに光を反射している缶詰を持ってくるのだ。


 もうね、胸が痛いなんてものではなかった。あと、下腹部のチクチク感が酷くなっているのも、よろしくなかった。


 なんというか、お気持ちは良いのだけど、そのお気持ちが重くて、途中から『早う陸地へ着いてくれ!』という思いで一心になってしまった。


 おかげで、無事に陸地が見えた時には『巫女服』のおかげで体力的にはともかく、精神的な疲労はかなりのもので……別れを済ませて、神社へと戻ってきた時にはもう、しばらくその場から動けないぐらいであった。






 ──で、その後。



 あまりにも精神的に疲れていたし、この際一日帰るのが遅れたところで……という甘えもあり、戻ってきた千賀子はその日、『神社』に泊まった。


 なにせ、千賀子の身体は潮臭いというか、磯臭かった。


 さすがの千賀子の体臭も、それには勝てなかったようで……潮風に晒された身体はとにかくベタベタとした不快感が伴ったこともあって、入浴の欲求に勝てなかった。


 そうなれば、気が緩んだことで疲労が眠気に変わるのも必然で……相も変わらず続いていた下腹部のちりちりとした痛みでストレスを感じていた千賀子は、最低限の寝支度を済ませてから、すやーっと深い眠りについたのであった。




 ……。



 ……。



 …………千賀子の受難は、その翌日から始まった。




 まず、千賀子は身体を起こそうとしたが、起きられなかった。


 理由は、『巫女服の反動』。


 長時間の不眠不休も合わさり、文字通り身動き一つ取る事すら辛いぐらいの……筋肉痛にも似た痛みが全身を駆け巡っていた。


 トイレに向かうために立ち上がろうとしたが、誇張でもなんでもなくヒィヒィ痛みで喘いでしまうぐらいに酷く、結局は寝床から一歩も出られないまま。


 不幸中の幸いというべきか、この痛みは物理的な損傷から来るものではない。つまり、この痛みが原因で発熱するとか、そういう事は起こらない。


 けれども、動けないのはどちらも同じで……これには、さすがの千賀子も困ってしまった。


 というのも、反動が起きている最中は神通力が上手く使えないのだ。無理に使おうとすると反動の期間が長くなってしまうばかりか、発動しない。


 前回この状態になった時も大概酷かったが、今回は前回とは比べ物にならないぐらいに酷い。今だけ、痛みが治まるまで全身麻酔をしてほしいと思ったぐらいに痛みが強い。


 これでは、自宅に戻ることはおろか、痛みが治まるまで寝たきりを余儀なくされてしまう。


 さすがに寝小便を垂れるのは嫌なので、それだけは気合で動くつもりだが……気持ちだけで、最悪はこのまま放出してしまう可能性が高い。



(マジで、どうしようか?)



 ロウシに頼もうにも、さすがに水を汲んでくるといった事は出来ない。かといって、神社周辺の動物たちはも無理。


 女神様……に頼むのはあまりに畏れ多い。


 と、なれば、家族や友人に事情を説明し、世話をしてもらうしかないのだが……それをするには、千賀子の秘密を洗いざらい話す必要があるわけで。



 ……本当に、どうしよう? 



 久方ぶりに途方に暮れるしかない千賀子は、とにかく少しでも身体の痛みよ軽くなれ~……と、己に言い聞かせるように念じ続けた。



 ……。



 ……。



 …………そんな時であった。



 とてとてとて、と足音が自室まで近づいて来たのは。


 己以外の人間の足音がすることに、ギョッと目を見開いた千賀子は、「あいたたたっ!?」直後に痛みに呻き……合わせて、スルリと自室の障子がスライドすれば、だ。



「あら、起きていたのね」

「──はっ? 私、の顔?」



 姿を見せたのは、学生服を着た『千賀子』であった。


 千賀子の目から見ても、思わず何が起こったのか思考が止まるぐらいに、『千賀子』の見た目は千賀子であった。



「あ~……その反応で色々と察したわ。本体の私、船に乗っている時にはもう反動が起こっていたようね」

「え、あ、あの、どういうこと?」

「分からないってことは、そういうことよ」

「その、御免だけど、本当に分からないんだけど?」



 苦笑する『千賀子』と、状況が読み込めずに困惑する千賀子。


 まるで鏡から飛び出してきたかのようなそっくりさんを前に、千賀子はそう尋ねる事しか出来なかった。



「隠す必要もないから言うけど、『ガチャ』の恩恵。本体の私が確認しそびれてしまった『SSR』のスキルよ、私の正体はね」

「え、あ、ふ~ん(察し)」

「『SSR:鏡の中のミラー・ワン。詳細は、本体の分身を作る』」

「え、それって……」

「安心なさい、分身である私は、ちゃんと自分が分身だと理解しているから。反逆とかそんなの起こさないわよ、古臭いSFではあるまいし、そういう能力なんだから」

「えぇ……」

「本来なら、分身の私と諸々共有出来るから、説明する必要なんてないんだけど……反動で力が使えなくなっているから、上手く同期出来ないのでしょうね」



 でも、それで十分だった。


 ややこしいので、分身の千賀子の方を『2号(千賀子命名)』と称し……その後で、2号より説明を受けた。


 まず、2号は千賀子が船の上で悪戦苦闘している時にはもう、能力が発動して出現していたらしい。



 ただし、2号の出現した場所は『神社』。



 どうやら分身の出現位置、そのデフォルト設定は『神社』になっていたせいだ……で、だ。


 2号は千賀子の『力』を流用して動いているので、下手に本体のところへ向かっても、無駄に千賀子を消耗させるだけ。


 その時点で、既に反動の影響から同期出来なくなっていたので、新たな情報が入らない。しかし、直前の情報から考えれば、今日明日には戻って来られない。


 何も分からないからこそ、それを察した2号は、本体である千賀子が戻ってくるまで、千賀子のフリをして日常生活を送っていた。


 そして、テレビで例の船が保護されたのを見たが、本体とは相変わらず同期出来ず、戻って来ない……おそらく、神社で動けなくなっているかもと当たりを付けて、やってきた……というわけである。



「とりあえず、私自身は神通力の電池で動いているから、変に反動を長引かせることはない。これでも、ちょっとぐらいなら本体の能力も使えるし、動けるようになるまでは私がお世話をするから」

「うう、ありがとう……まさか、自分にシモの世話をしてもらう日が来ようとは……」

「私だって、本体のシモの世話をする日が来るだなんて思ったことないわよ」

「ううう、ごめんよ、2号……」

「別に謝らなくていいわよ。この調子だと、お尻の方も世話をする必要があるだろうし」

「え、あっ……そ、そっちはさすがに恥ずかしい……」



 ──じょろじょろじょろ、と。


 2号曰く、『遠出してこっそり買って来た』という尿瓶の中へ、寝たまま小便をする千賀子。


 気付かなかったが身体は相当我慢していたようで、自分の身体にこれほど溜まっていたのかと驚いたぐらいに出た。


 相手が、自分の分身だからだろうか。


 これが家族だったら顔から火が出るぐらいに恥ずかしいところだが、不思議と、ちょっと気恥ずかしいという感覚で治まっていた。



「ほら、身体を起こしなさい。あんた気付いていないけど、寝汗で布団も寝間着もビシャビシャよ」

「あいたた、いたたたた!! 優しく! もっと優しく!」

「ぷるんぷるん乳を震えさすな! 拭き辛いったらありゃしないのよ、こっちは!」

「す、好きでデカくなったわけじゃないんだけど!?」

「知っているわよ、それぐらい」



 なので、素っ裸に向かれて全身を濡れタオルで拭き拭きされても平気で。



「か、粥の柔らかい塩気が、梅干しの酸っぱさが、身体に浸みる……!」

「そりゃあ、そんだけ汗を掻いたら塩気だって欲しくなるでしょ。ほら、口を開けなさい」

「あ、桃だ、取って来てくれたの?」

「体力回復には、御神木の桃が一番よ。ほら、小さく切ってあげたから、ゆっくり食べなさい」



 病人同然ではあるので、口は本体に似て悪いが、甲斐甲斐しく世話をしてくれて。



「……なんか、強烈に眠くなってきたんだけど?」

「回復のために、身体が休もうとしているのよ。グダグダ言わず、さっさと眠りなさい」

「学校とか、家の事とか……」

「そっちは私が取り繕ってあげるから、とにかく休みなさい。本体が回復してくれないと、どうにもならないでしょ」

「あい、色々とあり……が……すやぁ……」



 結局、そのまま2週間、ずっと世話を受けることになった。



「……ところで、『ガチャ』のSSR以上っていくつ取れたか分かる?」

「回復して同期出来たら分かるけど、今は何も分からない」

「それって、見方を変えたら反動のおかげで自動発動する能力とかも止まっているってこと?」

「可能性は極めて高いと思う。そっちに回せるだけ身体が回復した途端、発動する能力が手に入っているかもね」

「……なんだろう、身体が治るのが怖くなってきた」

「あきらめなさい」



 寝たきりの千賀子は、ただひたすら食っちゃ寝するしかなく、それが回復への近道なのもあって、本当に大人しくしていたのであった。




 ……そして、その翌日。




 2週間と、1日。


 その日、フッと目が覚めた千賀子は、障子の向こうより差し込む朝の日差しに、ふわあっと欠伸を零し……次いで、気付いた。



 ──身体の痛みが消えている、と。



 どうやら、反動が終わったようだ。


 負傷や病の類ではないので、治る時は始めから痛みなど無かったぐらいに跡形も無くなる。



(はあ、ようやっと1人でトイレも行けるしご飯も食えるし、やっぱり自由に動かせる身体って最高だなぁ)



 気分も晴れやか、なんだか散歩がしたくなった千賀子は、よっこらせと身体を起こそう……として、ふと、違和感に動きを止めた。



「……え?」



 違和感の正体は、すぐに分かった。


 それは、下腹部。


 昨日までスッキリと細かったその部分は、まるで内側から空気を入れられたみたいにパンパンに膨らみ、乳房よりも大きく張っていた。



「……え、なにこれ?」



 まるで状況が分からず、恐る恐る膨らんだ腹に触れる。


 それは夢でも何でもなく、確かな弾力が指先より伝わる。温かく、力を入れればけっこう固く、合わせて鈍い痛みがそこから広がった。



(な、なんか中に入って……?)



 思い返いしてみても、昨日まで腹はこんな状態ではなかった。


 指先ではなく掌を置けば、やはり温かい。そして、うっすらとだが……ぽこん、ぽこん、と中から返事をするかのような振動を、千賀子は感じ取れ──え? 



(……え、いや、待って、待て待て待て、これって……いや、待って、これってもしかして!?)



 ──脳裏を過った、嫌な予感。


 サーッと、血の気が引いて行くのを、変わらずお腹の中で動いている気配を、どこか他人事のように感じながら。



「──本体の私、外が凄い事になっているわよ。季節に関係なくいろんな花が咲いて、町中が花の匂いで溢れて、むせ返り……そう……よ……」



 何時ものように介護のためにやってきた2号が、膨らんだ千賀子の腹を見て、ドスンと鞄を落とし。



 ……。



 ……。



 …………しばし、何をするわけでもなく、互いを見つめ合った後。



「……あ~、その、たったいま同期出来たから、言っちゃうけど」

「うん……」



 耳を澄ませても聞こえないぐらいに小さな声で返事をする千賀子を他所に、2号は非常に気まずそうに視線をさ迷わせた後。



「それ、『ガチャ』で当たった、『UR:祈りの落としウェルカム・ベイビー』っていう能力……でね」

「うん……」

「詳細は私にも不明だから分からないけど、条件を満たすと子供が出来るみたい。言うなれば、処女懐胎しょじょかいたいってやつ」

「…………」

「生まれてくる子は精霊の一種になるらしくて、ちゃんとした人間を生む場合は、もっと細かく条件を達成する必要が──って」

「    」

「ちょ、前のめりに気絶しちゃ駄目! お腹の子が潰れちゃう!」



 千賀子は、無言のままに気絶したのであった。



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