第32話: だいたいのランニングコストを0に出来る強み



 ミンミンと鳴きわめくセミのやかましさが、ピークへと登り始めた頃。


 ──相談したい事がある。


 そう、千賀子が手紙にしたためてから道子が店を訪れたのは、それから時間が流れて日曜日のことであった。



「お久しぶりだね~、千賀子~」



 黒塗りのクラシックな車(昭和のこの頃では最先端である)に乗って来た道子は、以前有った時よりもはるかに大人びていた。


 具体的には、おっぱいである。


 身長やら体格やらも成長しているが、胸はその比ではない。


 着ている衣服が全体的にゆったりとした作りなのに、胸だけが……服の上から見る限り、道子の頭ぐらい大きく見えた。



「……道子?」

「うん、そうだよ~」

「……写真と、違わない?」

「成長期だから、伸びたんだよ~」



 朗らかに笑う道子を他所に、以前送られてきた写真とは明らかに違う部位を、思わず千賀子は二度見する。


 いや、だって、仕方がない。


 千賀子自身、小学生時代ならいざ知らず、今は同世代(に、限らず)で己より大きい女性を一度として見ていない。



 というか、己と同等レベルすら見かけた覚えがない。


 別に自慢するわけではないが、事実としてそうだった。



 ギリギリ張り合えそうな女子も居るにはいるが、そうういう女性は例外なく千賀子より30kg以上は体重がありそうな感じであり。


 千賀子のように、ボディラインがスッキリしているのに要所のサイズだけが大きい女性を、今生の世界では一度も見掛けなかったのである。



 その例外が、目の前に現れたのだ。



 それも、服の上からでも分かる、千賀子よりも多いな胸をゆさゆさと揺らしながら……千賀子でなくとも、おおうっと注意が引き付けられるのも、仕方がないというものだ。



「千賀子も背が伸びたね~、凄い美人になって驚いたよ~」

「え、あ、うん、ありがとう」



 大きめな帽子を被った道子も大概な美人だが、褒められるのは素直に嬉しい千賀子は頭を下げる……っと。



「やっほー、千賀子」

「え、明美?」

「そうよ、道子に誘われたから、私も来ちゃった」



 車の窓から明美が、ひょこっと身を乗り出すように顔を見せた。


 なんで明美が……と思ったが、理由は単純明快。


 せっかく会いに来たのだから片方だけは嫌だ、という道子の独断である。


 チラリと視線を向ければ、運転手であるおじいさんより会釈され、ついでにウインクもされた……うん。



「で、駄目なら家まで送ってもらうけど、どう?」



 そう、尋ねられた千賀子は、明美に軽く頭を下げた。



「ううん、ごめんね」

「別にいいわよ。で、どうなの?」

「──お願いしたい。相談、乗ってくれる?」



 にっこりと、明美は笑みを浮かべた。



「そうこなくっちゃ。それじゃあ早く乗りなさいよ」

「は~い」

「なんで明美が命令すんの? これ、道子の車でしょ? 道子もなんで手を挙げるの?」

「細かい事を気にしなさんな」



 ──なんだか、小学生の時に戻ったみたいだな。



 何とも言えない懐かしさを覚えつつ、千賀子は……初めて、道子の家に向かったのであった。






「はえ~、話しには聞いていたけど、本当に凄い豪邸ね……」



 そうして、道子の家の前で降りた明美が最初に零した感想が、それであった。


 実際、道子の家は本当に大きく広かった。


 現代の感覚で言えば、昔ながらの和の豪邸。


 敷地を囲っている壁もそうだが、表の正門から続く石畳の左右には日常的に手入れが成されているのが分かる、美しい庭。


 分類的には庭なのだろうが、広い。ぶっちゃけると、庭の広さだけで千賀子の家がすっぽり収まるぐらいには広い。


 落ち葉はおろかゴミ一つなく、年期を感じさせながらも綺麗にされているのが分かる広々とした玄関の向こうには、山にある神社にも匹敵する広々とした雰囲気を感じ取れた。


 雰囲気だけなのは、道子に案内されて寄り道出来ないから。


 そっと、女中さんと思われる女性が何時の間にか後ろに控えているせいで、下手に寄り道を提案するのも忍びない。


 一瞬ばかり視界に入る廊下の突き当たり。先は相当に長く、と着するまで幾つもの部屋が設けられているのが見えた。



(はて、あの部屋……なんか、気配がするような……)



 その途中、ふと。


 道子の自室へ向かう最中、たまたま見えた中庭(そこも広い)の奥……立ち並ぶ木々に隠されるようにして、ポツンと建っている小屋が目に留まる。


 一見するばかりでは物置の類に見えるが、千賀子にはそう見えない。『巫女』としてのジョブを得た千賀子には、その中に居るナニカの気配を感じ取った。



(……たぶん、触れては駄目な部分、かな?)



 でも、それだけであった。


 なんとなく、そこに触れてしまえば道子との交友に悪影響が及ぶ……そう思えてならなかった千賀子は、そのまま静かに小屋から意識を外した。



「…………?」



 なので、同様に小屋に気付いた明美が、チラリと千賀子を見て来た……から、千賀子は無言のままに首を横に振った。


 言葉には出さなくとも、明美はこういう時、色々と察しが良い。


 それで十二分に意図を理解した明美は、千賀子と同じようにそっと視線を外すと、道子の後に続いた。


 おそらく、それが正解だったのだろう。


 明美はそちらに気を取られていて気付いていなかったが、千賀子は気付いていた。


 背後の女中から向けられる視線というか圧が、緩やかに和らいだのを。


 お金持ちには、お金持ちの、触れられたくないナニカがあるのだろう……そう思った千賀子は、最後まで気付いていないフリを続けるのであった。



 ……。



 ……。



 …………そうして、案内された道子の部屋は……家の外観とは裏腹に、質素で静かな空気が満ちている和室であった。


 加えて、室内が涼しい。


 見やれば、なんとエアコンが設置されていて、冷たい風が室内を冷やしていた。


 今はまだ一般家庭どころか、特定の施設や会社以外ではほとんど普及していない家電の存在に、明美はおおっと恐れ戦いていた。



 ……千賀子は、どうなのかって? 



 驚きはしているが、その驚きの中身はエアコンの登場ではなく、『この頃のエアコン、こんな形なんだな』という、そういう意味の驚きであった。



『……あの掛け軸、たぶん、かなり高いやつだと思う』

『奇遇だね、私も同意見かな』



 ちなみに、だ。


 エアコンがある時点で薄々察するけれども、質素に見えるけれども、実際は違うのだろう。


 壁に取り付けられた掛け軸とか、ハイカラな置時計とか、お高そうな勉強机とか、実は……と想像させてしまうポイントがチラホラ見え隠れしていた。



「あ、その掛け軸は高いし貰い物だから、触らないでね~」



 と、思っていると、普通に道子の方から注意というか、忠告された。



「……なんで、そんなのわざわざ飾っているのよ」


 気になった明美が尋ねれば、「ん~、話せば長くなるんだけど~」道子は特に気にした様子もなく教えてくれた。


 理由は、『お爺ちゃんからプレゼントとして送られた』から。


 道子曰く、『お爺ちゃん、子供に渡すプレゼントが全く思いつかなくて、迷って迷って……自分のお気に入りを送る事にしたのではないか?』とのことらしい。


 だから、自室の中で見える場所に飾っているのだとか……で、だ。


 先ほどの女中さん(実際に、女中の人だった)が持ってきてくれた紅茶とクッキーに頬を緩ませつつ、少し休憩を挟んでから始まったのは……件の、千賀子の相談事であった。



「──で、私はあんまり事情というか経緯を知らないわけだけど、今日はどういう話なの?」

「えっと、東京でお店をやりたいから、なんか使い道に困っている物件とか持っていないかなって道子に聞いているのが現状かな」

「ちょっと待って、何を言っているか分からないんだけど?」



 最初に話を切り出したのは、明美からだった。


 そして、止めたのも明美からだった。



 いや、まあ、常識的に考えて、そりゃあそうである。



 なにせ、千賀子はこれまで一度としてそういった話題を出した事がないし、そういった事をしたいといった話も、素振りすら見せていなかった。


 そのうえで、ある日いきなり、『私、東京で店を始めたい!』と友人が言い出したらどうなるか……応援とかそれ以前に、『どうした、いきなり?』と首を傾げて当たり前である。



「ん~、パパにはもう話を通しているし、後は私の一存で決めていいって言われているけど……千賀子は、無事に店を始めたとして、どうやって採算を取るつもりか教えてくれる~?」



 そんな中で、道子だけは相変わらずだった。



「こっちから通うにしても、向こうに住むとしても、資金の目途は~? 物価はまだしも家賃の高さがこっちとは段違いだけど、返済までの道筋は出来ているの~?」



 いや、というより、道子だけは全くの冷静で、友人だからという理由で過度の忖度を行うつもりはない……そう、暗に語っていた。


 言うまでもなく、当たり前の話である。


 人によっては人情味だとか薄情者だとか騒ぎそうだが、お金というのは、そんな軽々しく扱ってよいものではない。


 お金持ちであるからこそ、道子は『お金の価値』について厳しく教育を受けている。


 教育を受けているからこそ、友人だからという理由で『融資』はしない。


 何故なら、それで失敗した後に残るのは、道子自身の損失だけではなく、融資した相手が持っていた信頼や信用……それらが失われた現実である。


 そう、お金の価値を知っているからこそ、夢見がちに突っ込むだけの相手に融資はしない。


 それで、成功する者はいるだろう。だが、全員ではない。


 1000人居て1人成功すれば御の字といっても過言ではないし、夢破れた999人がサッパリした顔で戻ってくるわけでもない。



「応援したい気持ちはあるけど~、でも、お金は大事だから……千賀子の頼みでも、そう簡単には首を縦に振れないわよ~」



 そんな残酷な現実を知っているからこそ、道子は真正面から千賀子を見つめた。



「だから、説得してね~。返済の目途が具体的に言えないなら、とりあえずは東京でやっていけるっていう千賀子なりの強みを教えて欲しいな~」



 それを、今の言葉でだいたい察した明美も、複雑そうな顔をしつつも千賀子の加勢に回ろうとはしなかった。


 家族経営の一員として過ごしてきた明美もまた、お金の大事さは身に染みて理解している。


 だからこそ、軽々しく口を挟めない。友人であるからこそ、余計に……どうするのだろうと、明美は千賀子と道子を交互に見つめるだけであった。



「…………」



 そして、渦中の人というか、事の発端である千賀子はと言うと。



(どうしよう、どう説明すればいいのか……)



 内心、けっこう頭を抱えていた。



 と、いうのも、だ。



 確かに千賀子は道子に相談の手紙を綴ったが、気持ちとしてはけっこう軽い感じであった。


 いや、まあ、冗談ではなく、本気ではある。そのために相談をお願いしたのだから。


 しかし、即決するつもりはなかったし、有ったら良いなあ……という軽い感覚であり、千賀子としても選択肢の一つとしてでしか考えていなかった。



(お金持ちの人ってとにかく即断即決ってどこかで聞いた覚えがあるけど、本当だったな……しかし、本当にどうしよう)



 千賀子は、考える。


 道子が真剣に聞いている以上は、千賀子も真剣に応えねば無礼であるし、道子だけでなく明美も傷付けてしまうだろう。



 でも、どこから説明をすれば良いのだろうか? 



 1から説明をするには余計な部分が多過ぎるし、万が一、女神様に目を付けられるような事態になれば、きっと千賀子は死んでも死にきれないぐらいの後悔を覚えるだろう。


 そう、背負うのは己だけでいい。


 それを独占と評価するのか、犠牲と評価するのか、あるいは、別のナニカで評価するのか……千賀子には、分からなかった。



「……えっと、信じてほしいとしか言えないし、どう説明をしたら良いのか私にも思いつかないから、話せる範囲を語るけど……それでいい?」

「うん、いいよ~。誰かを傷付けたり、陥れるためだったり、千賀子はそういう嘘はつかないからね~」

「……ありがとう」



 信じてもらえることに、少しばかりの喜びと罪悪感を覚えながらも、千賀子は……とりあえず、言える範囲の事だけは伝える事にする。



 ……。



 ……。



 …………で、話せる範囲ではあるが、一通り千賀子より話を聞いた道子(あと、明美も)は……困ったように、首を傾げた。



「ええっと……千賀子の話をまとめると~……千賀子は、飲食店をやろうとしているわけね~」

「うん」



 そこは一切偽りが無い。



「千賀子は神様の寵愛を受けているから神通力が使えて~、その神通力のおかげで東京とこっちをすぐに移動できる……のよね?」

「うん」



 そこも、偽りは無い。


 女神様のアレを寵愛と取るべきか、執着と取るべきかは、些か判断に迷うけど。



「で、店の改装代は別として、材料費などはほとんど原価0円で用意出来るし、輸送費も掛からない……のよね?」

「うん」



 ここも、偽り無し。


 実は、『遊びに行こう』の能力の範囲はけっこう幅広く、己の身体に接触している物を任意で一緒にワープさせる事が出来る。


 これに気付いたのは、ふと脳裏に浮かんだ、『己だけしかワープ出来ないなら、ワープする度に素っ裸になるはずでは?』という小さな疑問からだった。


 もちろん、これにはデメリットがある。


 それは、千賀子1人だけでワープするよりも精神力を消耗し、ワープさせる物体が大きければ大きいほど、重ければ重いほど、より度合いが増すということ。


 精神力というのがどういうモノなのかは未だに千賀子にも分からないが、とりあえず、己の内のナニカが減ったような感覚を覚えるので、消耗が増えるというのは感じ取れた


 ……で、だ。



「それで、材料とかその他諸々は、このまえにおやっさんから譲り受けた『山』の頂上、神様が作ってくれた神社で用意される……で、合っているわよね~」

「うん」



 これも、特に偽りが無いので素直に頷く。


 普通に考えたら、こいつ頭オカシクなったんじゃないのか……そう思われても仕方がない内容である。



「……どう思う~、明美~?」

「率直に言わせてもらうなら、頭オカシクなったんじゃないのって感じ?」

「だよね~」

「相手が千賀子じゃなかったら、愛想笑いで別れた後に塩撒いて絶縁するところね」

「だよね~、私も同じ事をするな~」

「……信じてもらえたのは嬉しいけど、本人を前にそういう事を言うのはやめてね?」


 頷き合う二人を前に、千賀子は……二人を見下ろしながら、苦笑を零した。



「いや、だってさあ……前々から、千賀子はなんかそういう人なのかなって思っていたけど……」



「こんなの見ちゃったら、『ああ、やっぱりね~』って、色々と納得しちゃうよね~」



 けれども、それ以上の苦笑を互いに見合わせた2人は、天井のあたり……空中で静止したままの千賀子に、キッパリと答えたのであった。


 そう、千賀子は己が持つ『力』の一端を見せた。



 それは人類の夢、空中浮遊。



 論より証拠、百聞は一見にしかず。


 もともと、信じられる理由が2人にはあった。


 そして、実際にその目で超常的な現象を容易く起こしているのを見てしまえばもう、納得するしかないのであった。


 ……って、え、ちょっと待って、『やっぱり』って? 



「え、いや、だって、昔から天気を当てたり、さすったところの痛みが消えたり、色々とあったじゃん?」

「そうよね~、どういうわけか、千賀子の傍に具合の悪い人がいたら、急に良くなったりとか~急に考えを改めたりとか~」

「ほとんどの人は気付いていないけど、私と道子はなんとなく、千賀子には不思議なナニカがあるんじゃないかなって思っていたし……」

「台風の時もそうだけど、思い返せば、それっぽい感じのこと、ちらほらやっていたよね~」



 聞き捨てならない単語に対して尋ねれば、逆に二人から、『え、いまさら?』みたいな目で見られた。



 ……。



 ……。



 …………え、マジで? 本当に、そういうのバレていたの? 



 衝撃の事実に、思わずぺたんと尻餅をつく。



「あ、でも、心配しないで、私も道子も、誰にも話していないし、これからも誰かに言うつもりはないから」



 それを見た明美から、ちょっと慌てた様子でフォローが……うん、慰めてほしいところはソコじゃないけど、ちょっと落ち着く。


 しかし、改めて考えてみて……千賀子は、己がけっこう迂闊な事をしてきたことを、今さらな話ではあるけれども、反省する。



 ──千賀子にとって、己の力が他所にバレてしまうのは非常にマズイことだ。



 自分たちとは異なる存在に対して行う、否定の対応。人というのは何時だって、それはおおよそ四つに別れる。



 それは、『拒絶』、『無視』、『崇拝』、『利用』の四つだ。



 拒絶と無視は似ていて、積極的な否定か、消極的な否定かの違い。まあ、それならば、最悪は他所へ行けばいい。


 崇拝は一見、受け入れてもらえるように見えるだろう。


 だが、それは各々が抱く想像上の千賀子を受け入れているだけで、なにか手違いが起これば、すぐに拒絶なり無視に変わるだろう。



 その中で、『利用』が一番マズイ。



 何故なら『利用』を企む時点で、そいつの目は欲で眩んでいるからで、本質的には千賀子の自由意思を認めないからだ。


 そして、欲に目が眩んでいるやつは、例外なく話が通じない。


 考え尽く限りの卑怯で残酷な手を使うし、失敗すれば逆恨みは当然、一方的に責任をおっ被せようとすらしてくるだろう。


 それこそ、全く関係のない家族をも、無理やり巻き込んで。


 誇張抜きで、『儲けさせてやるのに!?』という、被害者意識すら持って接してくる。


 それを、千賀子は前世にて……欲に目が眩んで酷い有様になった人たちを何人も見て来たからこそ、これまで隠そうと考えていたわけである。



「ところで、千賀子? 御家族さんには……?」

「…………」



 そんな中で、ふと……道子は、聞かなければならないことを尋ねた。


 それに対する千賀子の返答は、無言。それで、千賀子の内心を察した道子は、フッと微笑んだ。



「そっか、それじゃあ、いつか千賀子から御家族に話をするまで表向きは、こっちで諸々を誤魔化しておくからね~」

「……ごめん、ありがとう」



 だからこそ、千賀子は……勝手で傲慢な考えではあるけれども、家族にだけは……まだ、言えそうになかった。



「それじゃあ、話を戻すけど、いい~?」

「……うん、ごめん」



 まあ、ここでグチグチ考えたところで、何も問題は解決しない。


 とりあえず、明美と道子が以前から受け入れてくれていたこと、己がいかに恵まれているのかを再確認しつつ……居住まいを正した。



 ……で、だ。



 説得というには些か……な、千賀子の話を聞いた道子の結論は、『私が任されている範囲に限り、全面的に協力する』、であった。



「それでね、期待させちゃって申し訳ないんだけど~……その、用意してある物件がね、二つあるんだけど~」

「ん?」

「人通りもあるし立地的にとっても良いんだけどワケありな場所と、人通りは悪いし立地的にあまりよろしくないけど、ワケが無い場所……どっちがいい~?」

「え?」

「どっちを選んでも良いけど、すぐに始めたいなら、ワケありな場所かな~。ワケ無しの方は、まだ準備が終わっていないからね~」

「……それ、どういう感じのワケありなの?」

「ん~、ビルの1階なんだけど、喫茶店をやっていた人が博打に精を出しすぎちゃって夜逃げしちゃったらしくて、ちょこっと掃除するだけで使えるってやつ~」

「えぇ……」

「2階が高利貸しで~、3階がヤクザの事務所かな~。場所は良いらしいのだけど、時々怒鳴り声が聞こえるんだってね~」

「えぇ……(絶句)」

「他に空いている物件は、ちょっと改修工事をしてからじゃないとって話らしいから、そうすると来年以降になるよ~」

「え、いや、うん、ありがとう、色々と考えていてくれて……」



 でも、そんな道子の結論に対して、千賀子は……辛うじて、そう言うだけで精一杯であった。






 ──────────────────






 千賀子の知らない神社の秘密・その2




 神社の境内に限らず、神社周辺には季節を示す樹木が設置されており、一年を通して今がいつの季節なのかを教えてくれる


 基本的に一年を通して外よりも過ごし易い空間になっているが、実は桜が咲く時期にだけ、身籠り易いという効果を巫女に与える。


 この時期に限り、たとえ指一本触れずとも、神社内に限り、同じ部屋で男と就寝をしただけで三つ子を孕むようになっている。


 また、同じ部屋で就寝していない場合は、必ずどちらかが夜這いを行うようになっており、その時は互いが夫婦になるので、たとえ燃え盛る炎の中でも無事に出産が可能となる




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