【KAC20246】「とりあえず」禁止令

一帆

 「とりあえず」禁止令

 ある北の島の小さな国のお話です。


 この国大臣は、「とりあえず」というのが癖でした。


 大事な政策について考えがまとまらなくて、目頭を抑えていた王様に大臣が声をかけました。


「とりあえず、王様、コーヒーをお持ちしましょうか?」

「ああ。コーヒーでも飲んで、少し休憩すればいい考えも浮かぶかもしれないな」


 そこで、大臣は、新人メイドに「とりあえず、コーヒーを持ってこい」と命令しました。

 新人メイドは「とりあえず」と言われたので、コーヒーの後にも何か用意しなくてはいけないと思い、コックに「コーヒーと紅茶とハーブティーも用意しておいて」と頼みました。コックはコーヒーと紅茶とハーブティーの三種類に合うお菓子はそれぞれ違うから、お菓子の用意も始めました。

 そんなこんなで、王様のところにコーヒーが届くまでにはかなりの時間がかかり、運ばれてきたものは、コーヒー、紅茶、ハーブティー、クッキーにケーキにスコーンにヨーグルト。とても一人で食べたり飲んだりできる量ではありませんでした。


 そのため王様はたいそう怒ってしまいました。

 

「もう今日から「とりあえず」という言葉を使ってはいけない! ワシは決めたぞ。「とりあえず」と言ったら鞭打ちの刑に処す!ワシは、「とりあえず」禁止令を出すぞ!」

「そんなああ」

「ふん。使わなければよいのじゃ」


 王様の言葉は絶対です。

それから、大臣は「とりあえず」と言う言葉を使わないことを決めました。しかし、口癖がすぐなおるとは限りません。


「大臣、金貨と宝石、どっちを褒美にしようか」

「とりあ……、とりあいになりますから、分けやすい金貨がよろしいかと」


「大臣、神殿への寄付はどのくらいにしようか」

「そうですね。とり……、とりかえすわけにはいきませんから、初めは少なめになさったほうがよろしいかと」


「大臣、姫の結婚相手なんじゃか、どうやって決めようかのお」

「第二王女様はかなりの面食いですからね。とり………、とり急ぎ、近隣の王族の釣り書きを手に入れる手はずをするのがよろしいかと」


とまあ、冷や汗ダラダラ流しながら、なんとかごまかして暮らしていました。


 そんなある日のこと。


 隣の隣の国の公爵がやってきました。表向きは月夜石の販売についてですが、第二王女様との顔合わせもありました。第二王女も交えて和やかに話が進んでいるところで、王様が言いました。


「とりあえず、二人で庭園を歩いてみるのはどうじゃろう?」







後日、「とりあえず禁止令」は王様の鶴の一声で撤廃されたそうです。


              おしまい

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