第2話 そうだ、旅立とう

第2話 そうだ、旅立とう


 そして現在この状況である。


 これは、白い結婚となり、3年間子供が出来きずに実家に返されるのはほぼ確定だ。 跡継ぎを生まない女は不要と言われるのが貴族の家の常識だ。


 まあ、元々私には侯爵家の奥方など務まるはずもないと自覚していたことだし、今の事態は私にとってよい状態だと考えよう。

 3年我慢すれば、愛しき魔獣たちと戯れることが出来る生活に戻れるのだ。ここは我慢のしどころだ。

 しかし、3年の間に腕が鈍ったらどうしよう。それだけは避けたい。

 それに3年間の衣食住を保証してくれるマコゴレイ侯爵家に、ご飯の恩だけでも返したい。

 悪いのは夫であるトルストであり、現侯爵のアウグスト財務大臣や侯爵令嬢のクラリス様ではない。ある意味彼らも頭が痛いところに無駄飯ぐらいになりかねない私を抱えてしまった形だ。

 そう考えていた私の悩みは意外と簡単に解消された。


「奥様、旦那様との関係はお気の毒ですが、次期侯爵の婦人として貴族らしい活動もしていただきたいと思います」

 筆頭執事のセバスが結婚の翌日に話してきた。


「はあ、まあ私で出来ることならかまいませんが、具体的にはどんなことがあるのでしょう」


「ありふれたとことでは、慈善団体を訪問して寄付するなどです。

 マコゴレイ侯爵家では領地や王都の辺境に身寄りのない老人を引き受ける施設や病気療養所、孤児院などを経営して貴族の勤めを果たしていますので、そこを訪問するなどはいかがでしょう」


 なるほど。 

 いわゆる慰問と寄付か。

 だが、これはいいかもしれない。

 堂々と外出でき、あわよくば途中で魔獣の一匹でも退治できるかも知れない。

 などと不穏なことも考えつつ、私は快く了承した。希望としては王都のより遠い領地の施設に泊まりがけでの慰問を優先でだ。


 私に無関心な旦那様は、他人のものとなったロザリー様に少しでも役立ちたい、近くにいたいという思いで、朝早くから夜遅くまで王城に勤務している。

 財務大臣を務めるアウグスト・マコゴレイ侯爵は父として指導しているようだが、聞く耳持たず、未だにロザリー様一筋だ。

 夜遅くに帰ってきたとき、領地の施設を巡回慰問したいというと、二つ返事で了承された。






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