新たな神の物語

新世界の始まり

 彼は普通だった…と自身は思う


 中流家庭に生まれて小中高と学力は常に平均

 性格ら良く言うと真面目で悪く言うと無個性

 交友関係は浅く狭く手の届く範囲しか望まず


 そんな生き方をしていた自分は偽りと彼が気付いたのは幸か不幸か

 目の前に非日常が現れたとき記憶が戻り目が覚めてしまった…


 ゲームの中で見るような怪物が突然空間を引き裂いて街中で暴れる

 それを拳一つで華麗な動きで倒してしまう正義の味方

 創作物でしか見ない非現実が彼の前で起きてしまった…


 記憶を取り戻し本当の自分を思い出した彼の第一声は…


「何でみんな髪の毛の色がカラフルなんだよ!?」


 彼の名前は浜松翔、紆余曲折あり新しい世界で記憶を消されて普通に生活を提供されていた。

 しかし自分を取り戻した彼は新しい世界への違和感にツッコミ衝動を抑えられなかった。

 白い目で見られるのに気付いた彼は逃げるように帰路につく。


 一軒家の自宅についた彼は抑えていた言葉を叫びながら床を叩く。


「なんで怪物がいるんだよ、なんで超人がいるんだよ、なんで今まで記憶消えてたんだよぉー!」


 しかし叫ぶ彼を咎める両親もいない。


「なんで親がいないんだ!畜生!居るんだろ?どうせ見て笑っているんだろ!?神鳴かなりぃ!」


 半狂乱の彼を慰めるように居間の扉を開けて角付き金髪碧眼の赤い着物属性盛り盛りの少女が現れる。


「何で記憶戻ってるのよ、せっかく元の生活に近くしたのに」


「やっぱり居やがった!母さんと父さんをどこへやった!」


「落ち着きなさい、世界一周よ」


 粋な計らいと言いたげに両親は世界一周、実質一人暮らしである。


「それは普通じゃないし元の生活じゃない!」


「生活資金はあるからいいじゃない」


 自分の生活環境の設定がいい加減なことにツッコミ疲れた彼は諦めて別の話をする。


「あーもう、怪物は出るわ超人はいるわ…それはもう俺の知る地球じゃあない!」


「仕方ないじゃない、攻撃されてるんだから」


 頭が痛くなる言葉に神鳴の顔を思わず二度見する。


「攻…撃…?攻撃ぃ!?待て、俺達は敵を倒したはず、終わったんじゃないのか?」


「そのはずだったんだけどねー、目覚めちゃったなら仕方ないまた頑張ってね、はい」


 何食わぬ顔で朱塗りの鞘の刀を手渡してくる。


「俺にも怪物退治させる気かよ!そもそも退治してるのは誰なんだよ!」


「あら?モンスター退治したら一攫千金よ!なんたってそういう設定にしてるんだから!」


 世界の構築の際にそう作られたらしい。いい加減な神様である。


「…金?マジか…いや、ダメだ俺には帰りたい世界が…いや、でも…」


「さあ、さあ!高校も三年になり就職先が不安でしょう?正義の味方やりましょう?」


「いや、大学生もありなんじゃないか…でも一攫千金…」


 金の誘惑と将来の不安に負けて刀を受けとる。懐かしい手にしっくり来る刀だった。


「これは焰鬼か…よし、次の敵を倒すまでだ!絶対、そしたら世界元に戻せよ!」


「はいはい、どういう呼び方がいい?」


 目を輝かせる神鳴に何の話だと翔は顔を歪める。


「呼び方?」


「そう!正義の味方、怪物…いえ魔物退治するから退魔士とか?」


 ツッコミに疲れた翔は諦めたように肩を落とす。


「もう好きにしろよ…」


「そう、正式に私の世界だから好きにさせてもらうわ!」


 こうして彼の日常はまた壊れたのであった…

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