母がサポート詐欺にあいそうになった話

島本 葉

一、始まりは一本の電話から

 それはある日の平日の午前のことだ。職場でメールチェックやらタスクの確認とかが一段落した頃、マナーモードにしていた携帯電話が震えた。驚いたことに表示されているのは父親の番号だった。

 

 母になにかあったのだろうか?

 

 私の場合、実家から何か連絡があるときは基本母親からだ。だから、この時点で、なにか良くないことが起こったのだと感じていた。

 

「もしもし」

 

 普段なら少し席を外すのだが、この時は自席に座ったまま電話に出た。

 

「もしもし、ようちゃん?」

 

 すると聞こえてきたのは、予想に反して母親の声だった。てっきり母になにかあったのかと思ったが、事故とか急病とか、そういうことでは無かったと少しだけ安心した。とすると、なにがあったというのか。

 

 少し冷静になった私は、どことなく母の声が慌てているように早口で、少し様子がおかしいことに気づいた。

 

「どうしたん?」

 

 いったいなにがあったんだろうか。


「トロイの木馬っていうのに罹ったんよ」

 

 先日七十八歳の誕生日を迎えた母の口から飛び出したのはそんな言葉だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る