第23話 生きる者、死せる者
第23話 生きる者、死せる者
「ギャアアア!」
裂かれた腹が瞬く間に再生していく。
(おそらく内臓はあれほど早くは再生しないはず・・・・・・。体内よりも体外のほうが細胞分裂が早いから)
でも、だからといって悠長にできる訳では無い。
(あくまでそれは人間のハナシや。コイツは例外・・・・・・しかもその中でもイレギュラーな存在。予想できんことには気をつけんとな)
サルベルは再びテスタドランに飛び込んでいく。
(狙いはコア一点!近距離戦ならそこまで毒液も
従来のテスタドランのコアは首の下。恐竜型のテスタドランの一番狙いにくいところだ。
『戦刀術一式 大薙!』
邪魔な両腕を切り払い、一気に首元に迫る。その時、テスタドランは顎を引くことで首元を守った。
「チッ!」
下顎の部分に刀が当たり、奥まで刃が届かない。
(知能も大幅に上がってるようやな。従来のテスタドランとは違う回避の仕方や)
知能レベルも上がっているとすれば、最悪の場合、こちらの技にも対応されてしまう。
(スーツの残りの稼働時間も短い・・・・・・。こっからの三分がターニングポイントになりそうや)
「後方支援部隊!聞いとるか!」
テスタドランの背後に回りながら通信機で連絡する。
「テスタドランの気を引いてくれ!砲撃でもミサイルでもなんでもいい!俺から注意をそらせ!その瞬間に一撃を首に叩き込んでやる!」
「了解」
冷静にそう返したのは紛れもない、サルベルが一番信頼を置いている部下、サーヤだった。
「ミサイル部隊、腰辺りを狙って撃て。あそこにやつを固定する」
その声と同時にミサイルが放たれ、テスタドランの腰辺りに正確に命中する。
「グアッ!?」
急な援護射撃に一瞬、テスタドランは気を取られた。その隙を見逃さず、サルベルが一気に背中を駆け上がる。そして脳天をめがけて剣を振りかざす。だが、
(くそっ!ちょっと遅かったか!)
背中の突起の間から大量の毒液が噴射された。サルベルはとっさの判断で蹴って空中に飛ぶと、テスタドランの下顎と首の境目を切った。そうされたテスタドランは口が無造作にあいた。
「今だ!口に撃ち込め!」
「言われなくても分かってますよ」
サルベルが着地すると同時にミサイルがテスタドランの口内で爆ぜる。だが、
「やっぱ頑丈だな。おまえの剣撃を何発も耐えるだけはある」
「耳が痛いな。そういうことを言うのはやめてや」
(でも俺も意外だったな。まさか、上顎も下顎も吹っ飛ばんとは——)
そこに立っていたテスタドランは、確かに顎に大きな傷を負っている。だが、血を流す程度で倒すまでは至っていない。
(折角下顎の腱を切って大きな隙を作ったのに・・・・・・。これでも弱点を見せてこない!)
「サルベル、何をぼさっとしている!できなかったものは切り捨てて、次へ行くんじゃないのか!」
サーヤの声が無線から響く。
(ああ、そうや。)
「当たり前・・・・・・やないかい!」
直前まで迫っていた毒液を真っ二つにきり、一気に首元に迫る。
(どっちみち時間がない!ここで決める!)
「残りのスーツのエネルギー全部腕にまわせ!」
『戦刀術
彼の使う独自の剣術、“戦刀術”。基本的な技は全て一から二十まで。だが、彼が“決め技”として使っているいわば奥義のようなものも存在する。それらはすべて基本技とは違い、別の漢字で呼称されている。
剣撃によって赤い火花が飛び散る。それほど速い横薙ぎの一撃。急いでテスタドランも首を引いていたがそれよりも速い。
(決まった!)
誰もがそう思った。だが、たった二人だけそう思ってはいなかった。
——そう。テスタドランとサルベルだけは。
「は?」
顎を突き出すようにしてサルベルは吹っ飛ばされた。
「彼のシールドを全開にしろ!地面に対してシールド全開!」
スーツのシールドが起動し、サルベルを落下の衝撃から守る。
(でもこれで——)
「まだや!」
サルベルの声が響く。
「アイツ・・・・・・!ここまで小癪やとは・・・・・・!くそっ!アイツのコアは首じゃない!」
見ると、テスタドランの首元には大きな斬撃の跡があったが、確かにコアのようなものは見当たらない。
「やられた・・・・・・!ここまで人間の心理を読んでくるとは・・・・・・っ!」
おそらくテスタドランはここを狙ってくるだろうとふんで逆にやられたふりをしたのだ。敵を狩る最大のチャンスを待つために。
「馬鹿な・・・・・・そんな高度な事がアイツにできるはずがない!」
サーヤが納得できない声を挙げる。
「それこそこんな個体は今までいなかった!もはやSHと変わらない知能レベルじゃないか!」
確かにこの個体の知能レベルは桁外れだ。それこそ我々人間と同程度か少し低い程度だろう。
(あー完全にやらかしたな。もうスーツに残ってるエネルギーも少ない。最大駆動はもう無理だ。でも、コイツを倒すには最大駆動は最低条件だ。どうする・・・・・・?)
その様子を見ていたエヴィルは思ったことを口にする。
「なんか・・・・・・さっきの腹の部分、異様に再生速度が速くありません?」
その言葉に興味をもったのはサーヤだ。
(コイツ・・・・・・私と同じ疑問を・・・・・・)
それはサーヤも同じことを感じている。
(確かにそうだ。コイツの再生能力は下半身ほど高い。蓄電器官の部位や尾の再生速度は異常なほどに速かったのに、首元はまだ再生できていない・・・・・・)
考えたことをサルベルに伝える。
「サルベル。よく聞くんだ」
「なんや。もう最大駆動はできんで」
「そうじゃない。やつの弱点だ」
その言葉を聞くと、サルベルは起き上がった。
「分かったんか?」
「いや、細かくはわからんが、おそらくの目処はたった」
「どこや?」
「おそらく下半身、尾以外の部分だろうと思う」
「なんでや?」
「下半身のほうが再生速度が速い、下半身に攻撃を受けたときに悲鳴をあげていた。主にはこの2つだ」
「なるほどな・・・・・・」
サルベルは立ち上がると、こう言った。
「ミサイルと砲撃を上半身に集中させろ。煙でやつの視界を奪う」
「その隙に下半身を削るわけだね。了解した」
サーヤは部下に命令する。
「砲撃部隊、ミサイル部隊。両隊、砲撃準備!照準、対象の頭部!できれば眼球を狙え!」
砲撃が始まると、テスタドランは手で砲撃を防ごうとしている。その動きを見てサルベルは感じた。
(コイツ、さっきよりも遅いぞ・・・・・・)
おそらくさっきの一撃がかなり大きかったようだ。弱点ではないにしても削りはある。再生のために体力をかなり使ったようだ。
(この状態ならヒットアンドアウェイはできそうやな)
サルベルは刀を構え、一気に距離を詰める。テスタドランはそれを視界の端で感知した。だが、サルベルは気にせずに狙いを定める。
(まずは足!)
『戦刀術六式
クロスするように二連撃。足の内側を削り、足元を不安定にする。
(できれば横に倒したい。倒れた相手なら多少は戦える)
サルベルは振り下ろされる尾を剣で防ぎながら次の一太刀を考える。
(肉体の限界も近い・・・・・・。このラッシュで決めきれんかったら大人しく退くしかない)
剣を構え直し、再び近づいていく。足にラッシュをかけ、砲撃を誘導する。
「下半身を一気に狙え!」
合図で一斉に下半身に砲撃が炸裂し、テスタドランは大きな音を立てて倒れた。
(いい感じに横に倒してくれた!これなら“あそこ”を狙える!)
サルベルが最初に蓄電器官を破壊した一撃、その時に蓄電器官ともう一つ、おかしい手応えを感じていた。
(場所的には蓄電器官の内側・・・・・・。そんなところにコアがあるとしたら・・・・・・)
確かにそこは普段狙わない場所だ。なら隠し場所としてはうってつけだ。
(最初にあの無茶をしてよかったぜ)
サルベルは横たわったテスタドランの上から剣を振り下ろす。
「俺の全身全霊の一撃だ!死ぬぐらい感じろ!」
『戦刀術
地を穿つ剣撃。それは、あらゆるものを破壊する天帝の一撃のようだった。
「うおおおおおおおお!」
テスタドランの腰の部分を穿つ。
(あった!)
蓄電器官からすこし見えている赤い球体。
「終わりだあああ!」
だが、テスタドランの背中の突起が発光した。テスタドランも必死に抵抗しているようだ。やはり死は万人共通で怖いらしい。
「急げ!サルベル!!」
血飛沫が、舞った——
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます