第13話 アリスと難破船

🌻

 夏の日、まだ早い時間、アリスは最近興味を持ち初めた絵を描こうと、画材を担ぎ歩いていました。

 最初は飼っている犬を描こうとしましたが、すぐに戯れて来てしまい、モデルになってくれそうになかったからです。


 アリスは優柔不断です、あれも描きたいこれも描きたいと目移りし、街、丘、森を抜け、とうとう海まで着てしまいました。

 少し遠くの沖に潮が引くと歩いて行く事ができる教会が建つ小島が見えます。

 ただその日その時は、潮が引いてないので歩いては、いけませんでした。

 アリスのその事が、何か今日は、その小島に自分が避けられている気がし、その教会小島を描く気は起きませんでした。

 なのでアリスはせめてもと足元の小さいホタテの殻をお土産代わりに拾うと、小島を背にし、砂浜を歩いて行きました。


 浜には、打ち上げられている散乱する木片などが目立ち始めました。

 アリスは、その散らばる木片を辿る様に歩いて行きました。

 フォークやお皿などの生活用具も落ちていました、その中に宝石などを入れる様な綺麗な小箱をアリスは見つけました。

開くと中にロザリオが入っていました。

アリスはそのロザリオを胸に当てて祈ってみました。

📿

 当然と言ったら怒られてしまうかも知れませんが、特に何も起こりませんでした。

 絵が飛躍的に上手くなった気もしません。

 ですが、めげずにアリスは黙々と進みます。

 次は、ワインが入った木箱や缶詰も浜に点々と転がっていました。🍾

 その缶詰のラベルには美味そうな、お肉の料理が描かれいました。

それを見たアリスのお腹はグーと鳴り、アリスは、絵を描く事ばかり考えていたので食べ物を持って来るのを忘れてしまっていた事に気ずきました。

 とりあえずアリスは、先程拾ったホタテの殻の溝に溜まった塩をカリッと爪先で削り取り、舐めるとその塩は少し甘く、アリスは少し元気を取り戻しました。

これも小さい奇跡なのかもしれません。


 ……


🐋

 やがて波打ち際から少し離れた場所に横たわっている大きな白髭鯨を見つけました。

アリスは、無駄とわかっていながら、その鯨に話しかけました。


「もしもし」


「遂に、来られましたか」


『!』


 アリスは鯨が答えた事にビックリし、何か不思議な厄介な事にかかわってしまった気がしました。

 でも鯨の知能は高いと聞いた事があります、なので最近では食べてはいけないと世間では、言われ始めた事をアリスは思い出し、その奇跡を受け入れる事にしました。


 そんな少し混乱しているアリスとは裏腹に、鯨は喋り続けます。


「白い死神と恐れられた鯨の私を迎に来るのは、てっきり見るも恐ろし死神と思っていましたが、こんな可愛い天使さまをお使いにくださるとは、おおー、神よ心から感謝します、全ての罪をお許しになり、私も皆と同じに天の楽園に導いてくださるのですね、長く待った甲斐がありました」


 アリスは大事な事なのでキッパリと言いました。


「私は、天使じゃないわ」


「……私を、安心させようとそう言ってるのですね、大丈夫です、その覚悟は、出来ていますから」


「……」


 アリスは、もう天使の事には触れない方が良いと思うと、本来の自分の目的を、思い出し、思いました。


「鯨さんを、描いていいですか?」


 鯨は目で微笑みました。


 アリスは、鯨から少し離れたヤシの木が一本だけ生えた、それは砂浜の海の中の小島の様な、その木の日陰の草場に座り、その鯨を描き始めました。


 夕方になる前に絵は描き終わり。

 アリスは再び鯨に話しかけました。


「鯨さん、ありがとう、私し帰りますね」


 鯨からの返事は、ありませんでした。

 鯨は寝ているとアリスは思いました。

 アリスは、是非に絵の出来栄えを聞きたいので、鯨を揺すっておこそうとその肌に手をかけると、その手はすり抜けてしまいました。


 ……アリスは、その場でしばらくボーとしていると米噛みに痛みを感じ、少し休もうと思い、絵を描いていた草場の日陰に戻り、頭を抱え込む様にしてその場にしゃがみ込むと、足元に蓋がギザギザに開いた空き缶や古いワインの空き瓶が散乱し転がっているのを目の当たりにしました。

 そこでアリスは目の前の状況を頭の中で整理し、浜に散乱していた缶詰やワインを開け、豪勢にやり初めてしまった事を思い出しました。

 そこからまた思い出した様に鯨を見ると……鯨は、恐竜の骨格標本の様な姿に変わっていました。

 アリスは酔ってまどろみながら描いた、その絵を確認すると、空に昇っていく白鯨を描いていました、その絵に釣られる様に空を見上げると夏の入道雲は二つに割れ、蒼一筋あおいひとすじの道が空へ向かって高く伸びていました。


[END]

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