第12話 カラスとフラペチーノ
二人は二、三と服屋を巡り、カフェでくつろいでいた。
「美味しいね、これ」
「うん、オレも久しぶりに飲んだな……」
全国的に人気なコーヒー店。
だが、近場にはここ以外の店はなく、いつも混みあっている。
平日の夕方であれば、席の一つや二つは空いているのだが、今日はガラガラだった。
「それにしても、話には聞いてたけど、早口言葉みたいな商品名だね」
商品名はカタカナで、おまけに長い。
覚えていないと、目で追ってそれを口にするのは難しい。
「その割にはすらすら読んでたな」
「まあね」
瑞葵が飲んでいるのは、バナナのフラペチーノ。
店の前に出ていた、新作発売の看板を見ていたため、事前準備ができていた。
だから瑞葵は、普段飲みなれてますよという顔で、スムーズに注文できた。
アステリアはコーヒー系のフラペチーノ。
少し苦いやつだ。
なぜ二人はスーパーへ行かず、カフェでのんびりしているのか。
アステリアは体力もあるためさほど疲れていないが、瑞葵を労わって、疲れたフリをし、カフェに誘ったのだ。
そもそもアステリアはスーパーに寄るつもりはなかった。
デートで疲れたらカフェで優雅に休憩、後に解散、とはクラスメイトからの助言だ。
「――あれ、瑞葵じゃん!」
カフェの外から、澄んだ声が瑞葵たちの耳に届く。
声のした方へ目を向けると、そこには二人組の男女が、瑞葵たちに視線を向けていた。
「おお、
同じクラスで、侑暉とあともう一人、
ちなみに海翔は今、流行りの感染症によりダウンしている。
「あれ、その
「スペイン」
「ああ、失礼」
すかさず瑞葵が訂正し、春樹はアステリアに頭を軽く下げた。
「それにしても、どういう繋がり? 今日来たばかりの転校生と。おまけに二人で」
「もともと知り合いだったんだよ」
「そうそう! いろいろよくしてもらってたんだよ」
アステリアが会話に入ってきた。
だが、間違いではない。空腹……魔力切れで行き倒れていたカラス(アステリア)を保護したのは瑞葵だ。
「へぇ……。ああ、黒羽さん。同じクラスの斎藤 春樹です。二年近く一緒だろうから、以後よろしく」
「うん、もう今朝の自己紹介で知ってるだろうけど、改めて、アステリア・クロバ・ステーラーです。よろしく。で、そちらの彼女さんは?」
アステリアは春樹と軽く挨拶を交わし、春樹の隣に立っている彼女に視線を向けた。
「あ、春樹の彼女の、
「うん、よろしく! 時間あるなら、二人とも入っておいでよ」
体育は、瑞葵たち3組と5組の合同授業」だ。
ちなみに、月渚と瑞葵も知り合いだ。一年生のときに同じクラスだった。
「んじゃ、月渚。お言葉に甘えて、俺らも少し休憩して帰るか」
「うん」
二人とも瑞葵たち同様、放課後デートのため、制服を着てかばんを背負っている。
ちなみに春樹カップルは、アステリアが日本の文化に馴染むために、転校以前からの知り合いである瑞葵と遊んでいると思っている。
正解だが、
百点満点の回答はこうだ。
――文化を知るためと言う名目で瑞葵をデートに誘い、彼をオトそうとしている。
もちろん、この回答はアステリアと3組の女子の一部にしか導き出せない。
だから上記の、春樹カップルの回答も、本来ならば満点をつけられるべき回答だった。
ちなみに、瑞葵がアステリアのことをどう思っているか。
――面白い、一緒にいると脳の皺が増える
…………だそう。
だが、これも仕方のないことだろう。
瑞葵にとってアステリアは、異性である以前に魔女であり、カラスなのだ。
まずはその認識を正さないと、アステリアに
四人はそのカフェで優雅なひと時を過ごし、ショッピングモールを後にした。
春樹は月渚を送り届け、瑞葵はアステリアと共に、途中でスーパーで買い物をして帰った。
アステリア的には大・大・大満足の一日だった。
――追加情報・7――
彼女は自身の異空間を作りだしている。
出入口は自分の意志で、どこにでも出せるのだが、自然に見えるということで、ポケットの中で入り口を開くことが多い。
異空間は、次元の壁の中にできた気泡のようなものであり、そこにあるのは純粋な彼女の魔力である。
あくまで次元の内にあるため、時間という縛りは健在だが、空気(酸化)による劣化は防げる。
そこは、彼女にしか扉を開けない、絶対的な独立空間。
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