鳥に取り合ってもらえないのでとりあえず贈り物をする話

松平真

鳥に取り合ってもらえないのでとりあえず贈り物をする話

「頼むよピーちゃん」

 日下弥太郎は、被せられた布の一部がめくられている鳥かごの中にいる白いカラスに頭を下げた。

「ピーちゃんが協力してくれないと困るんだよ」

 カラス、ピーちゃんは取り合わずに嘴でめくられていた布を引き戻し、弥太郎の視線を遮った。

 ピーちゃんに拒否された弥太郎はため息を吐くと、立ち上がった。


 アパートの畳敷きの狭い一室。

 部屋の中央に置かれた大きな鳥かご以外は、最低限の家具以外はない部屋だった。

 弥太郎は、壁にかけられた高校の制服を理由なくブラッシングした。

 考えていることは、ピーちゃんに協力を取り付ける方法であった。


 窓から外を見れば散りかけた桜が見える。新学年の季節であった。

 弥太郎がピーちゃんに、頭を下げていたのはそれが遠因といえた。

 弥太郎は、新クラスの隣に座った女子生徒に一目ぼれしたのである。

 しかし、今まで女性と付き合ったことのない弥太郎である。

 どうやって親交を深めればいいのかがわからないのであった。

 そこで考え抜いた計画が、飼っているカラスにその女子生徒を襲わせ、そこを颯爽と助けようというものであった。

 白いアルビノのカラスなどそうそういないのだから、親しくなって部屋に招いたらすぐにばれることだ。

 猿知恵と言えよう。

 そこまで見抜いたのかはわからないが、この作戦を話すとピーちゃんは弥太郎から顔を背け、それでも頼み込むと冒頭の対応に至ったのである。



 弥太郎はうんうん唸った後に、餌で釣ることを思いついた。

 ピーちゃんは、カラスである。

 カラスは、ごみを漁ることで有名だが、人間の残飯を食べる程度には雑食である。

 普段はドッグフードを与えているが、たまに肉なども与えていた。


 弥太郎は部屋を漁った。

 ナッツの入った袋を見つける。

 鳥なのだからナッツだって好きに違いない。ちなみに弥太郎にとっては普通である。

 さっそくがさがさと鳴らしてみると鳥かごの中でピーちゃんが動いた気配がする。

「ピーちゃん、ピーナッツだよ~」

 そう言いながら布をめくる。

 ピーナッツを見た瞬間、ピーちゃんは舌打ちし、布を引き戻した。

「ピーちゃん!?」

 弥太郎の悲鳴には無反応を貫くピーちゃん。

 取り付く島もない。


 弥太郎は別の食材を探し始めた。

 カラスは、雑食だが特に肉類を好む。どうも脂が好きらしい。

 弥太郎は冷蔵庫を漁った。

 中には100g80円程度の手羽元と高級和牛が入っていた。

 弥太郎は一瞬和牛の納められたパックに目をやる。

 が、首を振り手羽元のパックを掴んだ。

 そのうちの一つを箸で掴んで、ピーちゃんに見せる。

 ピーちゃんは、首を傾げ、手羽元を目で追う。

 弥太郎はにやりと笑う。

 所詮は鳥類。肉の魅力には勝てまい。

 ピーちゃんは布を引き戻した。

「なんで!?」

 衝撃で手羽元が箸から零れ落ちた。


 弥太郎は唸る。

 最終手段である。

 和牛をほんの少し、本当に少しだけ……箸でつまんでかごに差し入れる。

 ピーちゃんは満足げに一度鳴くと、和牛を嘴で受け取った。

「ピーちゃん!協力してくれるんだね!」

 弥太郎は、籠の扉を開け、ピーちゃんを外へと促した。

 ピーちゃんはたっぷり数分の間和牛の味を楽しんだ後に、籠から出、弥太郎の肩に乗って鳴いた。


「ンナワケネーダロ」

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