第38話 ダンジョンショック

衝撃の新事実。


日本さん、国際社会から孤立していた!


なるほどな、そういうことだったのか。


親父は、説明を続ける。


「だもんで、悪魔に魅入られた国とか、いくら叩いてもOKでしょ?」


「いや良くはないぞ????」


「いやそりゃ彼らの価値観ではってことよ。まあ、そんな訳だからね、今日本はクッソ足元見られてて、最近なんて輸入品の値段はもう倍くらいになってるよ」


はあ〜〜〜????


「論理的思考できねーのか?」


「論理的に考えても、GDP世界三位だった大国とか、隙あらば叩いて金を引っ張り出そうとするのは当たり前だよなぁ?」


まあ……、そうだな。


痩せても枯れても金持ち国家。


調子が悪い時にぶっ叩いてカツアゲしようってのは間違いじゃない。


国際関係はおてて繋いで仲良しこよし、なんて訳がない。そんなの、田舎の高校生である俺でも理解している。


表面上は仲良くして、今回みたいに隙を見せたら全力でボコる。当然だ。


けどよ……。


「どう考えても、ダンジョンなんて宝の山だろ。日本と仲良くして、利益を得ようとは思わないもんなのか?」


「そんなの、まだ分かんないじゃん」


……まあ、そうだな。


ダンジョンが宝の山だと知っているのは、俺達、研究所のメンバーだけだ。


未だに自衛隊は三十階層辺りでウダウダやってるしな。


「マジな話、俺達研究所が、お前がダンジョンの深層から取ってきたアイテムを解析して、その結果を小出しにしてるから、まだ何とか日本は国際社会から見捨てられないで済んでいる、って感じのレベルの話よ?」


うおぉ……、マジか……。


気付かぬうちに日本を支えていたとは……。


「因みに、七月には、冒険者資格の試験が緩くなって有名無実化、生活保護者やニートにフリーターなんかを半強制的に冒険者にして、更には予備冒険者制度とか言って冒険者の採用年齢を十三歳まで引き下げるってさ!いやぁ、終わってんねこの国ィ!」


本当に終わってんな……。


中坊のガキにダンジョン行かせんのか……?マジで……?


学徒出陣ってレベルじゃねーぞ。


「だから、お前が研究所の仕事をやめると、ワンチャン日本壊滅な訳。ドューユーアンダスタ〜ン?」


「理解した。流石に俺も、日本がなくなると困るからな。仕事は続けてやるよ」


「助かるー」


クッソ怖い話を聞いてしまった。


そうなのか、俺が働くのをやめると、日本が滅亡するかもしれないのか。


愛国心なんてものは持ち合わせていないが、日本の米と酒がないと死ぬからな、俺は。


しばらく頑張ろうか。




「……とまあ、そんな感じでな。俺が仕事をやめると大変なことになるらしい」


「えぇ……。そりゃもう、なんて言うか……、ヤバいっすね!」


その後……。


時節は八月を迎え、ニートやらナマポやら日雇い労働者やらが無理矢理ダンジョンにぶち込まれ、大量に死んだりなんだりしている夏のある日。


研究所の仕事を終えた俺は、最早ほぼ同棲している杜和と飯を食っていた。


「でも、そう言えば、スーパーのお肉がめちゃくちゃ高くなってたっすよ。ブラジル産の鶏肉400gが1100円だったっす」


「マジかよ……、ヤベェな」


「まあ、ウチは、先輩がとってきたモンスターのお肉が食べ放題なんで、あんまり関係ないっすけどね」


「でも、その辺で菓子類を買うのにも躊躇う物価ってのはなあ……」


「カントリィマゥムがまた小さくなっちゃうっす……。キッドカッドもまた短く……」


「あれもう値上げして良いから昔のサイズに戻してくれんもんかね?」


「ねー」


くだらない話をしながら、杜和が作ったファングボア肉の生姜焼きを食う。


うむ、ちゃんと言われた通りに味濃いめにしてくれてるな。


我々武道家は、毎日アホみたいに汗を流すから、塩辛く、カロリーの高いものを大量に食わなきゃならんのだ。


「あっ、そう言えば、お義父さんからこの時間に宇治テレビをつけろって言われてたんで、つけるっすね!」


んー?


『テテテテーンテーンテーンテーン……!こんばんは、ニュースの時間です』


ニュース……?


『本日の午後七時、赤堀ダンジョン研究所の赤堀紫電氏、小雛氏から、重大発表があります』


『『やあやあやあ、ハローハロー!赤堀でーす!』』


んんんんんー……?


『『研究所からの重大発表なのですが……。まず、現在の日本は、GDPランキングが世界七位までに転落し、失業率は11.3%を超え、輸入品の物価はほぼ倍の大惨事となっております』』


「親父……?何でテレビに……?」


『『しかし!もう、何も心配することはありません!我々、赤堀ダンジョン研究所は、日本を復活させるための新技術を複数発見しました!!!』』


そう言って、親父は、ダンジョンからとれる超常的な物質について説明を始めた。


六十階層のポーションは万病を治し、現行の発電施設で使えば発電効率を何十倍にも引き上げる新燃料、飲食物、金銀財宝……。


その他にも、ミスリルやアダマンタイト、モンスターの体組織やダンジョンそのものから取れる新素材などの特性を発表。


これらの物品は全て、百年二百年どころじゃないレベルで時代を先取りした物質なんだとか。


なんか難しいこと言ってて良くわからんな……。


えー、エントロピーの減少による宇宙の延命?重力制御?反物質の制御?量子コンピュータ?サイボーグ技術?


何言ってんだか良くわからんね。高学歴共はこれだから。こちとら脳筋サムライだぞ。


「す……、凄いっすよ!夢の技術っす!」


「知っているのか、杜和?」


「どれもこれも、SF小説の超技術みたいな感じっす!それが、実験室レベルで成功しているってことは、お金がたくさんあれば大規模なのを作れるってことっすよ!!!」


ほーん。


その後は、親父の解説の元、SF的な装置がガシャガシャ動くところがテレビに流された。


SFとか良く分かんない俺は、まあなんか凄いんだね、みたいな感じだったが、高学歴の偉い人達はそう思わなかったらしい。


今日この瞬間から、日本始まって以来の最低値を記録する株価は、倍に跳ね上がったそうだ。

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