第37話 悪魔に魅入られし国

はい、じゃあ、十六階層から攻めて行こうか。


現在は六月十四日。


今日中に十六〜二十階層を見て行こう。


とは言え、もう一々見ていくのは非常にかったるいので、流す感じで。


一〜五階層がチュートリアル。


六〜十階層がお得なスキルで冒険者を強化。


十一〜十五階層がテイム可能なモンスターゾーン。


こんなコンセプトだった。


では、十六〜二十階層のコンセプトは?


『状態異常』だ。


ポイズンスコーピオンなどの毒持ち、パラライズスパイダーなどの麻痺攻撃持ちなどが出る。


ここで冒険者は、状態異常の恐ろしさを知る訳だな。


二十一〜二十五階層では、群体で現れる敵を倒す『継戦能力』を問われ、二十六〜三十階層では、様々な『属性攻撃』をしてくる敵が現れる。


うーん……、難易度エラッタのせいで、俺が到達できる階層が伸びちまったぞ。


前までは十階層ごとに周辺環境が変わり、難易度も違ってきたのだが、今は二十階層ごとだ。


だから、俺が前の難易度の時に攻略してきた雪原ステージまで行くには、倍の六十階層まで進む必要があるようだ。


しゃーない、行くか……。




行った(過去形)


ぶっちゃけ、レベルが上がり過ぎて、六十階層まではかすり傷一つ負わなかった。


七十階層辺りから一撃では殺せなくなってきて、八十階層ではわざと敵に突っ込んでみて死闘を演じた。


もうちょい緊張感がある殺し合いがしたいので、レベル上げは控えたいのだが……、研究所の方からドロップアイテム集めを依頼されている以上、それは無理だ。


ドロップアイテムを集めたり、ポイントを貯めたりしているうちに、嫌でもレベルが上がってしまう。


……と言うか、難易度エラッタは本当にクソ困るな。


俺からすると、ただ単に道のりが間延びしただけなんだが、世の中の大多数の人々からすれば、難易度が調整されて嬉しい訳なのがなあ……。


トッププレイヤーだけ割を食う調節だ。仕方ないと涙を飲もう。


あ、雪原エリアのボスはフロストジャイアントだったぞ。


『絶対零度』『吹雪』『金剛』『氷鎧』『百裂拳』『旋風脚』を持つバケモンだった。


絶対零度は、その名の通り絶対零度の氷のブレスで、俺の全力の『放射熱線』と拮抗する威力があった。


吹雪は、フィールド魔法みたいなもんだな。


金剛は、『強化』と『硬化』の合わせ技。


更にその上、氷鎧という、戦艦の装甲板のように硬い氷の鎧を身に纏い、10mの巨人がアクロバティックに動き回って、近寄れば百裂拳と旋風脚をぶちかましてくるのだ。


これを地球の科学力で倒すなら、対艦ミサイルを数十発ぶち込むしかないだろうな。


……いや、無理か?対艦ミサイルがどれほど速く飛ぶのかは知らんが、掴み取られて投げ返されるのがオチかね。


その辺はどうでも良いや。なんかこう、偉い人らが考えるんじゃねえのかな。


下々の人間の税金で食っていってるんだから、難しいことはそっちで処理して欲しいね。


俺も、所得税で十億円くらい持ってかれたからな。


十億円分は働いてもらわなきゃ困る。


……ん?今手元に十億円くらいあるなこれ?


「……と言う訳で、研究所の職員を辞めて、ダンジョン攻略者専業になって良いか?」


俺は、親父にそう言うと……。


そうすると親父は、研究所の椅子をひっくり返して土下座してきた。


「困るゥーーーッ!!!!それ言われると困るゥーーーッ!!!!」


「いやそんなん言われましても……。もう一生分稼いだし……」


普通の男の子に戻ります、ってか?


「そこを何とかァーーーッ!!!!」


えぇ……。


「まあぶっちゃけた話、ここでお前が働くのをやめると、日本が経済的にヤバい説あるぞ」


ケロッとした表情でそう告げる親父。さっきまでの土下座とは打って変わって、いつものようなクソでかい態度。何なのこの人?


ってか、日本経済?そんなレベルの話なのか?


「……そうなのか?」


「まずさ、ダンジョン発生の時、日本の株価がちょっとヤバいレベルで落ちたの知ってるか?」


あー、そんなんあったね。


「でも、回復したんじゃなかったか?」


「ありゃ嘘……、いや、マスコミの過剰な報道だ。正しくは、回復の兆しがある、だ」


んー?


そうなのか?


「ダンジョン発生以降な、海外では『日本は悪魔に魅入られた!』みたいなことを言われて、海外から散々虐められてるのよ」


ふーん?


「日本は、輸入しなけりゃ、食べ物すらろくに得られないのはお前も知ってるだろ?」


「そりゃあ、まあな。食料自給率は六十パーセント?なんだったっけ?」


「うんそれ、生産額ベースでの話ね。カロリーベースでは四十パーセント切るから」


「へえ、そうなのか」


ってことは、日本だけでは、食卓に上がるカロリーのうち六割以上が海外のものってことか。


一日の摂取カロリーを六割も減らされたら死ぬ自信があるな。


「それだけじゃなく、鉄も、石油も、半導体のような機械のベース部品も、全部輸入してるじゃん?」


「そうだな」


だから何なんだ?


「……足元見られるじゃん?」


「……あー?」


つまり、そう言うことか。


「国内に、モンスターが湧くダンジョンとやらがある推定危険国家なんて、どうせ今後潰れるだろうから、良い顔する必要……、ないだろ?」


「……いや、だが、推定なんだろ?」


「世の中の相場は全部推定で動くんだぞ、息子よ」


はあ〜?


「例えば、アメリカのハロルド・チェス前大統領が当選した時、アメリカの株価は目に見えてガクンと下がっただろ?まだ、チェス大統領は何も失策はないのに……」


あー……、そんな話を聞いたような、聞かないような……。


「つまり、外国人からすれば、日本は悪魔に魅入られた国で、滅亡が運命付けられているように見える訳よ」


「悪魔、ねぇ……。まあ、確かにデーモン系のモンスターも出るけど……」


「ん?ああ、いやいや、悪魔っていうのは『明空命』様のことだよ」


……は?


「いや何言ってんだ、あいつは神様だろ?」


「キリスト教イスラム教なんかの一神教の教えでは、聖四文字以外の超常的存在は全部悪魔なんだよなあ……」


あー……?


「つまり何か?キリスト教やらを信じてる外国人連中は、ソラを悪魔だと思っていて、ダンジョンを悪魔が作り出したと考えている、と?」


「そうだよ」


はあ〜〜〜????

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