第4話 ゴブリンチャンピオン

次の日。


土曜日なので休みだ。


なので、一日ダンジョンに潜ろうと思う。


さあ、三階層からだ。


三階層は……、ゴブリンと赤犬に引き続き、ゴブリンアーチャー、弓使いが出たな。


うん、危険だ。


「はい一時撤退ー」


「ワフン」




実家の蔵にあった『避来矢(ひらいし)』なる鎧を、神楽舞用の袴の上に着込む。


この避来矢、例の俵藤太のだったとか言ってるが、実際のところはニセモノだろうな。


昔調べたんだが、普通、俵藤太の時代である平安時代の鎧は、馬上戦に適した重い鎧だ。肩で支える感じ。


一方で、ここにあるこの避来矢は、平安より先の時代の鎌倉時代に流行した型の、腰で重さを支える鎧だ。


しかも、それだけじゃなく、方々の作りが完全に未来を先取りしてて、どう見ても平安時代のものとは思えないんだよな。


俺の見解では、明治くらいに作られたニセモノって説が濃厚だ。


恐らくは、この怪しい寺の箔付けのためだろう。


うちが俵藤太の子孫だってのも疑わしいね。


ついでに、実家の蔵にあった小太刀も持って、と。


さあさあ、行こう行こう。




ゴブリンアーチャー。


遠距離攻撃がうざいな。


だが、狙いは下手くそだ。


まず、早足で走って狙いを外して一発射らせる。


そして、モタモタと次の矢をつがえようとしているところに思い切り接近して、両断!


……両断?


「……俺、こんなに力強かったっけ?」


流石に俺も、相手がゴブリンとはいえ、人型の生き物を片手で観音開きにできちゃうほどの剣豪ではないはずだ。


軽く走ってみる。


「……速くね?」


うーん?


「ハヤ」


「ワフ?」


「ひょっとしてお前、俺の言葉を理解してるか?」


「ワン!」


「……ジャンプしろ」


「ワン」


ぴょーん。


「回れ」


「ワン」


グルグル。


うーん????


これ、これさ、アレですか?


「レベルアップ……、してますねぇ」




その後も、ゴブリンアーチャーと何度か戦ったが、俺達は戦えば戦うほど強くなっていった。


三階層のボスは、ゴブリンメイジだった。


なんかこう、杖から火をブワって出してきたが、詠唱っぽいのが必要らしく、一度火を出すと三秒くらいブツブツと呪文を唱え始めるので、簡単に倒せた。


武道家の前で三秒も棒立ちしてくれるとか、ボーナスステージだろ。




次の日、四階層。


まあ、場所は草原だが、出てくる敵はやっぱりゴブリン。


ゴブリンメイジとゴブリンファイターの群れがうざい。


ファイターってのは、胴当てと兜をつけて、錆びたショートソードと鍋の蓋みたいな盾を持ったゴブリン。


こいつらが、盾となり、メイジを守る。


その隙に、メイジが魔法を放ってくる。


ファイターを斬り捨てるのにまあ三秒は欲しい。


しかし、三秒もあれば、メイジの呪文詠唱が終わっている。


じゃあどうするか?


まず、ファイターをぶち殺します。


『ギェ!』


そして、その死体をメイジの火の玉魔法の盾にします。


その隙に後陣のメイジに踏み込めば……?


『ギャッ!』


はい、勝ち!


よし、ボスはーっと。


『グルルルル……!!!』


ゴブリンチャンピオンってところか。


身長180cmくらいで、筋肉ムキムキ。


胴当てと肩鎧、佩楯、手甲、脚甲をつけて、錆びていない鋼のロングソードとヒーターシールドを持っている。


うむ、強敵だな。


「オオオオオオオッ!!!!!」


俺が叫びながら突撃する。


『ガアアアアアアアッ!!!!!』


チャンピオンも、怯まずに襲いかかってきた。


先手はチャンピオンに譲ろう。


『シャガァ!!!』


チャンピオンは、コンパクトな袈裟斬りを放ってきた。


なるほど?中々どうして、様になっているじゃないの。


武術をかじった人間の動きだな、これは。


「だが甘ェッ!!!」


俺は、袈裟斬りを掻い潜るように外側に避ける。


その時、身体はしゃがんで、縮こまる。


縮まるということは、力が入っているということ。


次は、その力を解放する。


「しぇええええあ!!!!」


縮こまった身体を伸ばすように斬り上げ、剣を持った右腕を斬り飛ばす!


『ゲガアアアアッ!!!!』


痛みのあまり叫ぶチャンピオン。


しかし、それも一瞬。


残った左腕のヒーターシールドで殴りかかってきた。


へえ、判断が早い。


だが、俺はもっと速いぞ。


ヒーターシールドの表面に、俺の右手を添えて、受け流す。


その勢いで、チャンピオンはぐりん!と回転させられ、背中をこちらに見せてくれる。


背中には鎧がないのを確認するや否や、俺は左手の刀で即座にチャンピオンの心臓を背後から抉った。


『ガ、ハ……!』


チャンピオンは即死だ。


よし、勝った。


楽勝のように見えるが、剣で斬られれば俺も普通に死ぬので、簡単なことではない。


決着も早かったが、それは真剣を使っているからだ。


真剣を使った殺し合いは一撃必殺が基本。


テレビゲームのようにHPがじわじわ削れて、ゼロになったら死亡!とかではない。


常識的に考えて欲しい、斬られれば死ぬのだ。


しかし……、そんなことより。


「命をかけた斬り合い……!滾るッ!!!」


最高だったなあ!


心臓の高鳴りが今でも抑えられん!


果し合いってのはこんなに気持ちがいいのか!


生きるか死ぬかのギリギリの殺し合い!


突き刺さる殺意の篭った視線!


気合の入った叫び声をぶつけ合いながら、しくじったら即死の戦いをする!


正味な話、勃起していたぞ。


堪らんなあ……。


「ワフン……」


おっと、早太郎がドン引きしていらっしゃる。




よし、下のきかん棒も鎮火されたので、早速次の階層に行こうか。


ドアを開くと……。


「こ、これは……?!」

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