第2話 変人戦隊キチレンジャー

「ほら見ろ、ハヤ」


「ワフ」


「実家の蔵にあった日本刀だ。銘は『蜈蚣切丸』って言うらしいぜ」


「ワン」


「実家の蔵で腐らせとくより、こうやって俺が有効活用してやる方が刀も喜ぶよな!」


「ワンッ!」


じゃ、行こうか。


晩飯までにホブゴブリン倒すぞー。




「……モンスター斬るの、楽しいッ!!!」


「ワ、ワフ……」


おっと、サイコパス発言をしてしまった。


早太郎が心なしか俺と距離をとった?


いや、犬は人の言葉を解さないだろ。気のせいだ。


「けどさー、何であれさ、他人をぶっ殺せる機会なんて滅多にないぜ?気持ちいいだろ」


「ワ、ワフ」


「ん……?ってかさ、死体消えてない?」


「ワン」


早太郎が辺りを嗅ぎ回る。


「どう?消えてる?」


「ワン」


なるほどな、益々、ここは尋常な世界ではないと痛感したよ。


俺も死ねば消えちまうのかな?


ま、それはどうでも良いが。


身を捨ててこそ浮かぶ瀬あれ、後は野となれ山となれ。


うちの『御影流』の真髄はそれだ。


死の淵に誰よりも近づくこと。


死を恐れずに相手の間合いに突撃して、一撃で斬り捨てること。


流派としてはタイ捨に近いらしい。いや、他の人んところの道場とか、行ったことないんで知らんけど。


要するに、暗殺者を作る流派だからな。刺し違えてでも相手に最大ダメージ与えるのがうちのやり方。


ま、つまりは。


「おおおおおおおっ!!!!」


『ギッ!』


ノーマルゴブリンは、簡単に首を斬り飛ばせる。




さて、ボス。


ホブゴブリン。


よし、行こうか。


「うらああああああっ!!!!」


『ギッ……?!』


大声で相手を威嚇して、それと同時に気合を入れる。


「やああああああっ!!!!」


切っ先を真っ直ぐ相手に向けた、いわゆる『霞の構え』のまま、踏み込んで、手首の柔らかさを生かして回転力を込めた逆胴を浴びせるように放つ。そして、刃を思い切り引く。


『ギッ……?ギアアアアッ!!!!』


ホブゴブリンのはらわたがどばっと溢れる。そして、凄まじい悲鳴を上げる。刃は力を込めずとも、素早く引けば斬れるのだ。


そしてホブゴブリンは、錆びたロングソードを取りこぼし、溢れるはらわたを抱えて胎児のように丸まり、死んだ。


「こんなもんか」




案外弱かったな。


拍子抜けだ。


次、行こうかと思ったところで、もう夜だ。


「やべ、ハヤ!帰るぞ!」


「ワン!」


米は炊いてあるんで、後はおかず……、おかずどうしよ?


そんなことを考えながらダンジョンを脱出。


蔵に鍵をかけて、と。


「さ、飯にしようぜ」


はい、帰宅。


帰宅……、まあ、蔵も家の一部と言われたらそうなんだが。


早太郎を繋ぐ。


飯どーすっかな……。


冷蔵庫カパー。


おっ、豚バラとキャベツ、人参、もやし。


うむ、野菜炒めだな。


犬用の鶏肉を早太郎に与える。


俺はご飯を軽く五合と、野菜炒めを二キロくらい食べてから、風呂に入って寝た。




次の日の朝。


五時に起きて、ご飯を二升炊く。


その間に、軽く四十キロのランニング。二時間かけてゆっくり走るぞ。もちろん、早太郎も一緒にだ。


帰宅してシャワーを浴びる。


そしたら、弁当を作ってから、朝飯。


納豆!ネギ!生卵!ご飯を軽く四合!


それと豚汁。


あーうめー。


早太郎にも豚汁かけご飯を少しと鶏肉をやる。


早太郎、あんまりドッグフードは好きじゃないらしいんだよな。生肉か、おやつ類か、人間用の食べ物を欲しがる。一番好きなのは骨かな?近所の肉屋から骨をもらってくるんだけど、それが好きらしい。


明らかにあげちゃやばいもん以外は大体やるようにしてるぞ。老い先短いんだ、好きにさせてやれ。


おっと、登校時間だ。


「じゃ、行ってくるぜ。不審者がいたら噛み殺して良いからなー」


「ワフ」




外に出る。


「あ!先輩!おはようっス!」


「白崎か」


後輩の白崎が家の前で待ち構えていた。


中等部の三年生、ショートカット巨乳後輩女子、しかもアルビノ。


狙いたいところだが、親しい奴に振られて人間関係がギスると面倒なので……。


「えっ、何すかその目は?!」


「いや……」


「な、なんか言ってくださいよ!ちょっとー!」


まー、やかましいし、何故か俺に付き纏うし。


なんなんだろうなこいつは。




小うるさい後輩と別れて教室へ。


「やは、赤堀くん」


「よう、青峯」


このご時世に丸メガネ。大正時代にいそうな痩せぎすの書生そのものって感じのこの男。


文学系スリム眼鏡っ子ではなく、男である。


「今日は素敵な小春日和だね」


「そうね」


「こんな日は、読書も捗るね」


「……読まないぞ」


「まあまあまあまあ、そう言わずに。こちらのエログロ・ナンセンスな読み本を是非に。是非に」


こいつは、趣味の古い本を勧めてくるのだが、それらはどれも、クソ難解なミステリや、大正モダンのエログロ・ナンセンス本、耽美同性愛ものから、ねっっっとりとしたエロ描写の特殊性癖官能小説みたいな癖のある本を押し付けてくる。


総評してクソ野郎だ。


「あ、おはようございます、赤堀さん」


「よう、黄場」


こいつは黄場。


黒髪美少女である。


しかし、青峯の彼女なので攻略キャラではない。


青峯に彼女がいてどうして俺に彼女ができないのか?コレガワカラナイ。


いやぶっちゃけ、童貞じゃあねえんだよ?でも、何故か彼女が長続きしないんだ。


おっと、黄場はサラサラ黒髪に控えめながら整ったプロポーションの美女だ。


だが。


「相変わらず逞しいお身体ですね。どうですか?私を青峯君からNTR孕ませセックスなどは?赤堀君は青峯君と違って、性欲がお強そうで、オマ◯コがぶっ壊れるまで突いていただけそうですね」


こいつはド変態だ。


「おー、赤堀クン!おはようさん!」


「よう、緑門」


この、猫のように細い目で、真緑の髪をした上に、ごてごてとアクセサリーをつけたこの男は、緑門。


「赤堀クン!赤堀クンのアホみたいな戦闘能力を見込んで頼みがあるんや!儲かるでぇ〜?」


こいつは銭ゲバだ。


しかも、まともじゃない手段で稼ごうとする、タチの悪いタイプ。


前の学校で、体育祭でトトカルチョを開催して退学を食らった変人だ。


「断る、ろくな事にならんのが目に見えてる」


「んな殺生な!変人戦隊キチレンジャーの仲間やろ?!」


あ、変人戦隊キチレンジャーってのは俺達の渾名だ。


俺はそんなに変人ではないんだが……。


「おっはよー!みんなー!」


「よう、桃瀬」


こちらの、頭どピンクギャル女。


緑門の彼女の桃瀬である。


何でこんな銭ゲバに彼女がいて、俺に彼女ができないのか?コレガワカラナイ。


「いやー、昨日、パパ活で東京に遠征しててさー」


こいつも割と銭ゲバである。


売春はしない、ただ話すだけのパパ活で儲けてるらしい。


総評してクズだ。


俺こと赤堀と、青峯、黄場、緑門、桃瀬。この五人が、変人戦隊キチレンジャーである。

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