田舎剣士の現代ダンジョン 〜田舎の武術家高校生はダンジョンで楽しむ〜

飴と無知@ハードオン

β版ダンジョンクローズドテスト

第1話 田舎剣士ダンジョンと出会う

「赤堀」


「ぐがー」


「赤堀藤吾」


「ぐごー」


「起きろ、赤堀!」


「んがっ……、おお、おはよう」


「授業中に寝て良い夢は見れたか?」


「おう、うちの犬と遊ぶ夢を見たぞ」


「ほうほう、そうかそうか……。内申点は覚悟しておけよ!」


ひゃー怖い。




ここは栃木県の真ん中、日光市。


ほら、あれだよ、東照宮があるところだよ。


まあぶっちゃけクソ田舎……ゲフンゲフン、古き良き!古き良き街並みの残る街だ。


俺、赤堀藤吾は、そんな街の郊外の一軒家に、ほぼ一人で住んでいる。


ほぼってのは、早太郎って言う俺の飼い犬がいるからだ。甲斐犬の十歳、老犬だ。


父親は冒険家で、先日、ペルーから手紙が届いた。


母親は生物学者で、先日、赴任先のボストンからメールが届いた。


親には、人生の中で合計で一年も会っていないから、親という感覚がほぼない。


そんな俺はこの広い一軒家で、中学生の頃から一人暮らしをしている。


隣に父方の祖父母が住む実家があり、そこは、『六光寺』という小さな寺をやっている。


何でも、うちの先祖は、俵藤太って言う偉い藤原氏の侍の家系らしい。


単なる寺ではなく、古武道やら神楽やらをやっている。伝統の武術と、それに関係する剣舞が、後継者に相伝されている。


念のため言っておくが、別に炎っぽい痣とかはない。特殊な呼吸法は使えるが。


今、俺は高校生だ。


だが、子供の頃から、たくさん勉強して大学とか、就活とかはかったるいなと思っていて……。


故に、俺は実家の寺を継がせてもらえないかとうちの爺さんに頼んでいた。


するとその後、実家を継ぐための知識……、地鎮の儀式のやり方や、伝統の神楽なんかを叩き込まれ、高校二年生になったつい先日、免許皆伝。継ぐことを許された。


まあこの神楽も、そう言う名目での儀礼用剣での暗殺術なので、正確に言えば武術兵法でしかなく、形式上以上のことはやってないし習ってない。なんか知らんが、うちは、剣の振り方さえ知っていればそれで良いらしい。


確かに、寺で神楽を?とは思うもんな。


ま、こんな田舎の怪しげな武術なんて大したことねーだろ。子供の頃からの修行があれども、高二で免許皆伝しちゃう温い稽古だもんな。


やっぱりこう、システマとかの軍格の方が強えって。


ああ言うのはほら、人間工学ってぇの?なんかそう言う、賢い人らが頭捻って考えたんだろ?


その方が効率的で強えってばよ。


「……997!998!999!1000!!!」


とか何とか考えながら、日課の型稽古と素振りを終わらせて、汗を拭いた。


俺は、一息ついて、重さ60kgくらいの軽い木刀(鉛製)を置く。


「ワン!ワン!」


そんな時に、珍しく早太郎が吠えたのを聞いた。


大人しい奴なのに、どうしたんだろうか?


「どうしたー、ハヤ!」


「ワン!ワンワン!」


「何だ何だ?」


早太郎のところに行く。


すると早太郎は、俺の袴の裾を噛んで、そのまま蔵に引っ張っていった。


「何だ?ここになんか……、いや、強盗か?」


俺は、木刀を握る。


早太郎は滅多に吠えない。こんなに吠えるってことは、最早、強盗が潜んでいるとか、そういう異常事態しか思い浮かばない。


「オラアアアッ!!!!出てこい!!!!」


蔵に押し入って木刀を構える俺。


しかし……。


「……何もいないじゃん」


何もなかった。


「ワンッ!」


「んー?何だ?」


早太郎はまだまだ引っ張る。そのまま、蔵の奥へと連れてこられた。


と、そこには……。


「……扉?」


謎の扉があった。




「うーむ?」


「ワン!」


「そうかそうか」


よく分からんが、早太郎が扉をタシタシ叩いている。


開けろってことか。


「うん、じゃあ、行くか」


「ワンッ!」


はい、扉オープン。


……うん、謎の洞窟だぁ。


「そんな訳ないだろ!良い加減にしろ!」って気持ちと、「せやろなぁ……」って気持ち、半々だ。


「ワン!」


「あっ!こらっ!走るな!」


早太郎が走ってっちゃったよ……。


追いかけよっと。




『ギギギィイ!ギイッ!』


おんやー?


ゴブリンだ。


ゴブリンだな?


黄ばんだ醜い乱杭歯、緑の肌に、人体ではありえないくらいにでかい鼻。


薄汚れた腰布に、棍棒らしきものを持った矮躯の人型。


ゴブリンとしか言いようのない化け物だ。


『ゲ……?ガギャッ!ギギイッ!!!』


うわ、襲いかかってきた。


んまあ……、俺も伊達に武道やってないんで……。


自分が木刀を持った状態で、真正面から襲い掛かられて対処できないんなら、そいつは武道家の看板を下ろすべきだな。


「はあっ!!!」


『ギャッ!!!』


大上段に棍棒を構えたまま、ベタ足でドテドテ走ってきた馬鹿なゴブリンの、喉元に思い切り突きを打ち込む。


それで、気管を破壊され、ゴブリンはしばらくもがいた後、動かなくなった。


「はーん?こんなもんなのね」


と、その時。


「ワンッ!!!」


早太郎が吠えた。


「ああ、気付いてるよ……。そりゃあ!!!」


『ギエエッ!!!』


背後から、また別のゴブリンが襲いかかって来ていたのだ。


だが、荒い息遣いや、視線、足音、空気の動き……。


隠す気はゼロだ。


振り返り様に首元目掛けて横薙ぎをかまして、頸椎をへし折る。


……とは言え、気が動転してる素人さんならやられてたかもな?


だが、俺は戦闘のプロだぜ!なんちゃって。


ま、とにかく、このくらいの奇襲ならどうにかなるっての。


薄暗いとは言え見えないほどじゃないし。


「ガルルルルッ!!!!」


『グゲギャーッ!!!』


早太郎もサポートしてくれてるし。


早太郎は、別のゴブリンの喉笛を噛みちぎった。


「偉いぞハヤ。よし、折角だし、もっと行ってみるか?」


「ワン!」




しばらく、ゴブリンを蹴散らしながら道を行く。


すると……。


『グギィ……!』


「お、デカイのがいるぞ」


「ワフ」


普通のゴブリンは、身長がおよそ120cmってところなんだが、このゴブリンは150cmはある。


とは言え、俺より30cmくらい小さくて、フィジカルもそこまでないように見えるな。まあ、普通のゴブリンがチビの上ヒョロガリなだけか?


それに、このデカいゴブリン……、多分ホブゴブリンかな。このホブゴブリンは、錆びてはいるが、鉄のロングソードを持っている。


「うーん、木刀じゃキツいかね?」


「ワフ」


はい、撤退。

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