【声劇台本】浮気

澄田ゆきこ

本編

彼女:ねえ。

彼氏:んー? 俺今忙しいんだけど。……っしゃ、1キルぅ。

彼女:ねえ! ちゃんとこっち見て。

彼氏:んだよ、そんな大声出さなくても聞こえてるっての。……で、何? どーしたのさ、怖い顔しちゃって。

彼女:話があるの。

彼氏:それ今しなきゃいけない?

彼女:大事な話なの。

彼氏:……なんだよ。

彼女:たっくん、浮気してるでしょ。

彼氏:……は? 浮気? ないないないない。え、何、何を根拠にそんなこと言ってるわけ?

彼女:これ見て。ここに写ってるの、たっくんだよね?

彼氏:写真? は? 何、隠れて撮ったわけ? うわ、ねえわ。ストーカーですかあんた。

彼女:友達と飲むって言ってたけど、心配で。……でも、やっぱりそうだったんだ。女の子と二人。私、何も聞いてないよ。

彼氏:(溜息と、舌打ち)あのさぁ、彼女だからって全部事細かに話す必要ある?

だいたいね、違うから。確かにこの子とごはん行ったのは事実だよ? けど、この子はただの後輩っつーか、マジ妹みたいなもんだから。第一、この子彼氏持ちだし。俺は相談を聞いてただけなの。わかる?

彼女:「妹みたいなもん」ねえ。前に連れ込んでた女の子にも、同じこと言ってたよね。

彼氏:そんな昔のこと持ち出してくんなよ。あの時のことは許してくれたじゃん。今回はマジでなんもないから。

彼女:許したけど、忘れたわけじゃないよ。言ったよね、次はないって。

彼氏:つか何? 俺は好きなように人とメシ行く自由もないわけ?

彼女:別に、事前にちゃんと説明してくれてたら、こんなこと言わない。でもさ……(泣きだしながら)あたし、彼女じゃん。女の子とサシでごはんなんて心配に決まってるじゃん。

彼氏:彼女じゃんって……彼女だからなんでも優先されるって?

(鼻で笑う)

彼女:(嗚咽)

彼氏:んだよ、泣くなよ……。

彼女:だって――

彼氏:そもそもさ、毎回毎回そうやって俺だけが悪いみたいに被害者ヅラするけどさ、自分で反省することとかないわけ?

彼女:はあ? 反省? なんで彼氏が浮気してあたしが反省しなきゃいけないの?

彼氏:だから浮気じゃねえって言ってんだろ!(怒鳴る)

彼女:……っ。

彼氏:ごめんって。……でもさ、ちょっとは考えてみてよ。お前、自分では普通だと思ってるかもしれないけど、けっこう神経質なんだよ。今回のことだけじゃなくてさ、食べた後の皿がどうとか、電気がどうとか、俺、普段からけっこう窮屈な思いしてるわけ。それでたまの息抜きに誰かと出かけただけで、そんな言われ方しなきゃいけないわけ? そうやって口うるさく言うことで俺がますます離れるとか思わないの?

彼女:……もういい。別れましょう。

彼氏:(溜息)あのさぁ。ちょっとは冷静になれって。そうやって何かあるたびに俺を振り回すのそろそろやめてくれない?

彼女:もうあなたとは付き合いきれない。そんなに自由になりたいならどうぞお好きに。私は本気だから。

彼氏:え……? マジ?

彼女:うん。

彼氏:(明るい声色で)もー何言ってんだって、冗談、冗談だってば。機嫌なおせよ。アイス買ってくるからさ。 何がいい? お前の好きなやつ買ってくるから。な? 一緒にコンビニ行こ。

彼女:……馬鹿にしないで。(小声で)

彼氏:うん?

彼女:馬鹿にしないでって言ってんの! 何かあるたびにそうやって誤魔化してさぁ! 何? 甘いものでもあげておけば女は勝手に機嫌がよくなるとか思ってる?

彼氏:だからぁ、落ち着けって。俺も悪かったから。

彼女:俺「も」って何!? いい加減にして! もう無理、つき合いきれない。……鍵は置いてくから。さようなら。

彼氏:おい、ちょっと待てって……!(舌打ち)あー、もしもし?カホちゃん? 聞いてよ、彼女がさあ……そう、喧嘩。だからさ、これからうちで飲まない?

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