空色な物語
矪(くるり)
正体不明
「実は僕、人間じゃないんだ」
唐突に彼は言った。夕日を背にして、その表情は見えない。エイプリルフールには、まだ二週間も早かった。
「簡単に言うと天使、いや死神かな。魂を天に返す存在なんだ」
映画を観た、帰りの電車の中だった。ありきたりの恋愛映画で、けれど涙が止まらなかった。彼は黙って、私の頭を撫でてくれた。
「仕事に嫌気がさしたっていうのかな。君が僕を救ってくれたんだ」
救われたのは私の方だった。仕事に嫌気がさして、命を絶とうとして、そこに先客がいただけ。
「君のためならこの命なんて」
彼の背中に真っ白な翼が見えた気がした。さっきまで隣にいた彼が遠くに行くような気がして、手を伸ばして、でも掴めなくて。
ねえ、ありきたりな結末なら、いっそ私も。
「さようなら」
ʚɞ
「大丈夫ですか?」
目を開けると医療従事者と思しき女性がいた。彼女によると乗っていた電車が脱線事故を起こし、たくさんの怪我人が出ているらしい。
「どこか痛みます?」
大丈夫です、と私は答えた。けれど彼女はその場から動かなかった。
「だって、涙が」
彼女に言われて初めて泣いていることに気付いた。不思議だった。
悲しいことなんて、なにもない、のに。
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