打倒!バトルサッカーロボ(結成編)

「体育祭が近い!!!!」

 教卓を叩いたのはクラスメイトの敦田。刈り上げた赤い髪が特徴的な男で、スポーツマンシップに溢れた級長である。

 山田達は中学1年生である。親睦を深めよう!という声があちこちから上がってはいるものの、例にもれず山田は体育祭など面倒だという雰囲気を漂わせてていた。

「相変わらず熱いっていうか熱すぎん?あの人」

 山田がこぼした声を敦田が拾った。

「ああ!熱さだけは誰にも負ける気がしないよ!」

「敦田氏が好青年過ぎて何も言えなくなってるでやんすな……」

 鈴木が可哀そうな顔で山田を見る。

「そういえば高橋氏は体育祭は楽しみじゃないのでやんすか?」

「楽しみではあるのだが……」

 口ごもる高橋を見て、山田は言った。

「マッチョはあれだろ。自分が常に1位を取っちまう事になんか罪悪感とか感じてるんだろ」

「そうだ。私の力は圧倒的すぎる」

「はい見たことか、変な謙遜はいけないと思いますぅ」

 そこに敦田が近づいてきた。

「高橋君!」

「敦田」

「君の力を貸してくれないか!」

「だ、だが」

「君の筋肉に対する飽くなきストイックな姿勢、それに僕はいつも感銘を受けているんだ」

「敦田……」

「僕は知っている、その体を維持するための苦労だけじゃない。みんなを巻き込まないように力の制御を行っていることを」

 高橋は感銘を受けた様子で、目に涙をためていた。

「ああ。いくらこの筋肉で治せるとはいえ、やはり一度でも傷つけることは私の主義に反する」

「なあ高橋君。君はこの学校で様々な能力を持った生徒たちを見たかい?」

「……ああ」

「君の力で傷ついてしまう者もいるだろう。けれど大丈夫だ。僕は少なくとも君の力で傷つくことはない」

 敦田は腕をまくると、ぐっと上腕二頭筋に力を込めて見せた。心なしか金属光沢のようなものが見える。

「僕は体の丈夫さには自信がある。たとえ君が全力を出しても、決して痛みに震えることはない」

 高橋と敦田は手を取った。

「さ、みんなも一緒に体育祭を盛り上げていこう!!」

 教室内が沸いた。

「わたしはやっぱりバドかなー」

「カスミは小学校のころからバドやってたもんねー」

 クラスメイト達が次々に自分が出場する競技を決めていく。

「うーん、あっしは卓球でやんすかね、球を見極めること自体は得意でやんすから。山田氏はどうするでやんすか?」

「やんすはいいよなあ、メガネあるし」

「何の話でやんすか!?」

「マッチョはいいよなあ、筋肉あるし」

「どうした山田」

「敦田はいいよなあ、信頼あるし」

「や、山田氏だってあるじゃないでやんすか、多少はいい感じのやつが」

「そうだ、山田の妄想力はすごい」

「妄想だけじゃん!妄想が何の役に立つんだよ!いつもいつもいつもちょっと考えたり妄想してるだけなのに顔に出ちゃってるってみんな言うし!」

「顔どころじゃないぞ」

「空間ごと支配してるでやんすな」

「なんだよ!お前ら俺の妄想見てるとか言うのかよ!」

「「え」」

 途端に二人は目を逸らした。

「……あー……見てるというか見えてしまうというか」

 鈴木が口ごもった。

「これ言っちゃっていいでやんすかこれ」

「先生は言うなと言っていた。現実改変が起こる可能性が高い生徒には真実を伝えない方がよいと」

「でもこれ正直なこと言っていいでやんすか、山田氏に教えたからってなんか変わる気がしないでやんす」

「それはそうだ」

「何の話だい?」

 敦田が高橋と鈴木の間に顔を突っ込んだ。

「び、びっくりしたでやんす」

「山田の能力の件だ」

「能力ってなんだよ!俺はどうせあれだもん、チョコレートをパワーに変えるとかそういう甘党の能力がすごいんだぞ。消化器官なめちゃだめだぞ」

 敦田が少し驚いた顔をしたあと、そういうことかとつぶやいた。

「すごいね、ぼくはチョコレートだけじゃすぐにお腹が空いてしまうよ。君はとても省エネルギーで活動できるんだね!」

 山田は口を閉じた。

「さて、閑話休題。山田君、まだ競技が決まっていないなら、僕と一緒にサッカーをしないかい?」

 差し出された握手とさわやかな笑顔が、山田のひねくれた心を突き刺したのだろう。気が付けば、山田はその手を取ってしまっていた。



「メンバー全員で自己紹介しよっか!僕は敦田。よろしく!」

「高橋だ。仲良くしてくれ」

「所沢だよ。やわらかいからだが特徴的だよ。よろしく」

 円形に体育すわりをした11人は、時計回りに敦田、高橋、半透明な髪を持つ男所沢、いつも目元を隠している藻蓋(もぶた)、ピンク色の髪をもつ春見(はるみ)、なぜかいつも女の子にぶつかってしまう結城、ギガントキプリスの戸田、影の薄い島根、卓球のじゃんけんに負けた鈴木、サッカー部の市川、そして山田である。

「やんす、お前卓球は」

「しかたないでやんしょ、じゃんけんに負けたんでやんすから」

「じゃ、自己紹介も終わったことだし、作戦を考えていこう!目指すは優勝、かのバトルサッカーロボ先輩を打倒するんだ!!」

「「「うおおおおおお」」」

 敦田の声に高橋をはじめとするチームメイトが呼応した。勿論山田はおいてきぼりである。

「ば、バトルサッカーロボぉ???」

「噂の先輩、やっぱりこの学校にいたんですね」と市川。

「サッカー界の異端児とは彼のこと」と藻蓋。

「おれ、雑誌で見たことあるぅー!」と春見。

 どうやらとても有名な選手らしい。

「バトルサッカーロボは通称名さ。本名は馬取咲花(うまとりさっか)さんと言う方で、その正確無比なプレイを見た人々がつけたんだ」

「性格無比」

「でもね、彼は常勝の男。最近はサッカーへの愛も情熱も失ってしまったんだ。だからこそ僕たちは彼に勝つ。普通のサッカーならいざ知らず、この学園では違う。能力を駆使すれば、彼に楽しいという気持ちを思い起こさせることだって可能なはずだ」

 山田以外の9人は、その目に涙を見せた。山田以外の9人は。

「よし、俺がんばるよ。サッカー部のやつが幼馴染でさ」と結城。

「僕のこの体、うまく使えばどうだろう。ゼリー状の部分ならどんなボールも受けきれるよ」と所沢。

「サッカーはあまり経験がないけれど、人込みを避けるのは得意だよ」と戸田。

 皆どうやら気合が入っているらしい。

「所沢君やべえな、その体どうなってるの?」

 と、聞いたのは山田。所沢は気を悪くすることもなく明るく答えた。

「僕の体は詰めの部分が寒天のようなゼリー状の物体になる能力があるんだ」

「すげー、ゼリー毎日食ったらこうなるのかなー」

「ほんとこの人どれだけ馬鹿でやんすか」

「馬鹿ってなんだよ!だってすごくね?身近にこんないろいろ能力者いるとかすごくない?」

「……」

「ここで山田氏について解説しておこう。彼はこの世界にい能力者がいることは知っている。そう、知ってはいるのでやんす」

「どうしたんだ鈴木」

「なんでもないでやんす」

「そこで高橋君だ!」

 敦田が声を上げた。

「高橋君は筋肉の申し子、エルフの末裔。だからこそ我々にはできなかった壁を越えられる可能性がある。そして鈴木君だ」

「あっしでやんすか?」

「君の眼はすごい。あらゆるものをとらえて離さない。動体視力が群を抜いている」

「て、照れるでやんす」

「市川君はサッカーの経験が長いし、藻蓋君はキーパーとしてその能力を活かせる。戸田君はボールに対する執着がすごい。春見君は足が長いし、結城君はサッカー部の女子とやりあえる運動神経を持ってる。所沢君はさっき話した通りだ」

「俺は?」

「山田君はすごい。なんかが」

「適当過ぎないか!?」

「さて、この11人でやっていくわけだけれど、いい作戦はあるかな」

 高橋が手を挙げた。

「作戦も大事だが、練習はもっと大事だ。まずは皆で練習するところから始めるのはどうだろう」

「確かにそうだね!!よし、まずはグラウンドに行こう!」


 グラウンドでは、先輩方が練習をしているようだった。

「練習時間のスケジュールはあと10分で交代みたいだ。1年生の時間を有意義に使っていこう!」

「あと10分ねえ」

 山田が様子を見ると、ひとりだけ異様にサッカーの上手そうな肉体の男がいた。等身は11を超え、足は体の5分の3近いのではないだろうか。とかく長い。

「あれが生バトルサッカーロボでやんすか……」

「なまって言うな、なんかきもいだろ」

「でも、練習試合ですら上の空に見えるな」

 高橋の声に改めて確認してみると、肩からは力が抜け、目は虚ろである。

「よし、交代の時間だ!入ろう!」

 先輩方が出ていくのを待ってから、グラウンドに走りこんだ。

「まずは5対5に分けて試合っぽくしてみようか」

 最初のボールを取り合うべく、敦田と高橋が睨みあった。チームメンバーは高橋、山田、戸田、結城、市川。敦田チームは春見、藻蓋、所沢、鈴木の5人である。

「キックオフ!」

 言葉が発せられた瞬間。ボールが消えた。

 続いて風圧。ゴールには巨大な穴が開いている。

「え」

 呆然としている山田の隣で、大きな声を出したのは市川だった。

「きょ、強化繊維で作られたゴールに穴が!?」

「鈴木君、一体何があったか教えてくれないか!」

 敦田の声に鈴木が振り返った。

「ボールが纏う真空の刃でゴールの一部が切り取られ、ボールごと飛んで行ってしまったのでやんす」

「すまない」

 高橋が頭を下げた。

「大丈夫さ!最初はうまくいかないことだってある。一緒に調整していこう!」

 二人は握手をすると、もう一度ボールに向き直った。いつの間にかボールが戻ってきている。誰かが拾ったのだろうかと山田は思ったが口にはしなかった。

「もう一度やってみよう!じゃ、いくよ……」

「プレイボール!」と今度は聞こえて、同時にボールは真上に蹴り上げられていた。

「走るぞ!」

 サッカー部の市川の声に、山田は全力疾走を決めた。ドッ、という音と共にボールが敦田チームのゴール方向に飛んでいく。そして、そのままゴールした。

 山田以外はゴール前で万が一に備えて待機しており、体力のない山田は中央から10mほどの位置でぜえはあと肩を上下させた。


「なあこれ、ほんと俺いらねくね!?!?」

 山田以外は、自身に満ち溢れた顔をしていた。

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本当ですか山田君 円盤 @Saikun_9

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