022号室 その他の意見と今後の展開

 新しく建ったグランピング場『エンカント』だが、アルフレド、セシリオ、ブルーノさん、リリアーヌさんに試しに泊まって貰い、意見を聞いてみた。


「冒険者ギルドの関係者として言わせて貰えば、冒険者の野営訓練には使えないな。居心地やサービスが良すぎる」


「俺もギルドマスターの意見に賛成。それに付け足すと、居心地を良くしてまで野営をしよう、楽しもうっていうコンセプトがよくわからない」


 というのがブルーノさんとアルフレドの意見。

 ただ、リリアーヌさんとセシリオの意見は少し違っていた。


「私も商機を求めて世界各地を旅してきましたから、野営の苦労はよくわかります。夜道を歩くよりかは留まって夜を明かした方が『比較的』安全だから野営をするのであって、野生動物や魔物、盗賊などを常に警戒しなければなりませんので、なるべくなら避けたいものなんです。

 ですが、こうして安全で快適な野営を提示していただいたことで、野営の魅力を少し理解できたかもしれません。普段野営をしない方にとっては、非日常的で魅力的に映るのではないでしょうか」


「自分もリリアーヌさんの意見に賛成だ。野営の魅力はぼとんど理解できなかったが、刺さる人には刺さるのは確実だと思う」


「ホントかよ、セシリオ」


「本当だ、アルフレド。事実、貴族の中にこの豪華な野営――『グランピング』と言うのだったか。これに興味を持ちそうな貴族を何人か知っている」


「私も商人の方でグランピングに興味を持たれそうな方に心当たりがあります。もちろん、私の様に頻繁に旅をするような方ではなく、1つの街に留まってあまり移動しないような業務をやられている方ですよ」


 この世界において、グランピングは万人受けする物ではなくニッチな需要がある感じなのか。

 さて、僕が経営するホテルが3つに増えたことで、懸念点が1つある。それにリリアーヌさんは気付いていた。


「ところでリオさん、これからホテルの管理をどうされるおつもりですか? さすがに3軒もホテルを管理するとなると、今までのようなやり方では限界を迎えると思いますが……」


「それならすでに考えてある。これを」


 僕がスキルの力で召喚したのは、コンビニで見かける大型プリンターのような機械だった。


「これは、ホテルの宿泊予約などを行う『予約機』。このパネルを操作して宿泊したいホテルと期間を指定して、宿泊予約を取る。予約が完了すると紙に予約情報が印刷されて出てくる仕組みだよ。ちなみに宿泊予約以外にもホテルが提供しているアクティビティなんかの予約も出来る。

 この予約機の最大の特徴は、何台でも出現させることが出来て、しかもリアルタイムで情報が共有されること。例えばパラドール王国でエンカントを1泊2日で予約したとして、その直後にリッツ王国で予約しようとするとその予約済みの期間は予約出来ないようになっている」


「そんなに早く反映されるんですか!?」


 リリアーヌさんを始め、ここに居る人物は全員驚いていた。

 そもそも、この世界の情報伝達速度は前世に比べて圧倒的に遅い。遠隔通信に特化したスキルを持つ人がいたり通信用の魔導具とかはあるらしいのだが、高度な情報伝達システムを構築するにはハードルが高すぎる。前者はスキルの所持者が少ないし、後者は余裕で大国の予算を超えてしまう。


 そういう事情もあり、この世界の宿屋やホテルは基本的に予約システムは存在しない。飛び込みで部屋が空いていれば泊まれるという感じ。

 王族や貴族が利用するような高級ホテルとなるとさすがに予約システムは存在しているようだが、それでも数ヶ月前から予約するのが普通だ。手紙のやりとりに時間がかかるから。


 実は今回召喚した予約機、最初から使えた能力だ。あえて使わなかったのは、この世界のホテル事情から考えて予約システムが馴染まないと思ったので、あえて使わず飛び込みで宿泊させるスタイルでやってきた。

 ところが、開業するホテルが3軒になったことで飛び込み宿泊スタイルに限界が見え始めたので、満を持して予約機の導入を提案したのだ。


「これを世界中の商業ギルドに貸与する。そこで予約してもらえれば、こっちとしても管理が楽になる」


「そうですね。この話は父経由で商業ギルドに伝えましょう。その方が話の通りが良いですし、信用もありますから」


「冒険者ギルドにも頼むぜ。ホテルを使いたいのは冒険者も同じなんだ」


 こうして、世界中の商業ギルドと冒険者ギルドに予約機を貸し出す運びとなった。

 もちろん様々な制約からすぐに世界中のギルドに予約機を送り出すのは無理だが、禁じられた領域に近いパラドール王国とリッツ王国に関しては3ヶ月で貸し出しを完了した。


 そしてギルドの様々な人々の努力の甲斐もあり、予約機とホテルの予約システムは徐々にこの世界の人々へと浸透することになった。

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