異世界グランドホテル ~転生したらホテル経営者になりました。スタッフは調伏したゴーストです!?~

四葦二鳥

001号室 転生した先は、〇〇でした

「星野 理央りおさん、18歳。強盗犯に標的と間違われ殺害される、と。いや~、それにしてもあなた、結構ハードで不幸な人生を歩んでこられたんですねぇ~」


 目の前で女性が、からかうような口調で僕の人生について語っている。

 この人が言うように、僕は死んだし、不幸な星の下に生まれたと言っても反論できないだろう。


 父は事故で亡くなり、母も最近病気で亡くなった。泣きっ面に蜂とばかりに、僕も手違いで強盗に殺された。

 ……まぁ、手違いで殺されたって言うのは今知ったんだけど。


 それで気付いたら、この真っ白な空間にこの女性と二人っきりでいるという状況になっていたわけだ。


「さて、本題に入ります。そもそも現世は理不尽な物で、一部の人に幸福が集中し、しわ寄せのように別の人々に不幸が集中しているような状態が慢性的に続いています」


「それは、まぁ、理解できます」


 僕の家は父の死をきっかけに、かなり苦労したからね。

 昔から修学旅行なんか行くか行けないかの境目で揺らいでいるような状態で、本当に行けないこともままあったし……。


「ですが、それはいびつすぎるのです。本来、人の幸福と不幸はほぼ半々でなければなりません。そこで不幸の集中を解消するため、来世でいっぱい幸せになって貰おうというシステムがあるのです」


「『異世界転生』ってことですか?」


 娯楽と言えばネットの中くらいしか無かったし、ネット小説も結構読んでいたんだよね、僕。

 もしかして、目の前の人は神様的な存在だったり!?


「ざっくり言えばその通りです。以前は完全に現地の人として生まれ変わることを『転生』、前世の身体を再現して来世に向かうことを『転移』と言っていたのですが、結局一度死んで来世で身体を作り替えることに変わりは無いと言うことで『転生』と呼称を統一しています。

 それと、私は神様ではありません。転生システムを運営するためのスタッフ、役所の公務員みたいなものですよ」


 なるほど、役所の公務員、か……。それはそうと、異世界転生は少し楽しみかも。


「では、来世で幸せに成っていただくためにいくつか質問をさせていただきます。まず、来世で完全に生まれ変わるか今の身体を再現して来世に向かっていただくかのご希望をお聞きします。

 一応、10代以下でお亡くなりになった場合は身体の再現、二十代以上の場合は現地人としての生まれ変わりを推奨していますが」


「じゃあ、身体の再現で」


 おそらくどちらもメリット、デメリットあるんだろうけど、とりあえず推奨に従っておいた方がいいと思った。


「なるほど~。では、来世ではどのように生きたいのでしょう?」


 どのように、か。転生システムの意義で考えれば、僕にとっての幸せとは何か、ってことだよな。

 答えじゃないかもしれないけど、唯一幸せだと感じたのは、家族で一度だけ行った旅行のことかな。

 在来線で行ける距離だったけど、小さいホテルに泊まれて非日常を家族と一緒に味わえて、本当に楽しくてしあわせだった。

 それに影響されてか、観光地、特にホテルについて色々調べたなぁ。もしまたみんなで行けたときのために。


 ……まぁ、その日は訪れなかったけどね。


「……そうか。僕はホテルに興味があったんだ。いろんなホテルを泊まり尽くして、いろんな非日常を体験したかったんだ。

 そこに家族が居ればもっと最高、だけど」


「は~い。オーダー承りました~。では、その願いにピッタリの世界を探しますので、少々お待ちくださ~い」


 そう言うと、女性は目を閉じ動かなくなった。

 再び動き出したのは、数分経った後だった。


「お待たせしました~。あなたのご希望にピッタリの世界が見つかり、ご希望の人生を送れるような能力のフィッティングも完了しましたので、これから転生していただきま~す」


「わ、わかりました。ありがとうございます」


「いえいえ~。これも私のお仕事ですから。では、よい来世を遅れるよう、お祈りしてま~す」


 そう言うと、僕の目に強い光が差し込んだ。




 目を開けると、先程までいた空間とは全く異なる世界が広がっていた。

 ただ、その世界はネット小説によくあるような、草原でも森でも、はたまた街でもなかった。

 ……いや、ある意味街、なのかな?


 とりあえず、異世界転生後の第一声を叫ばせてくれ。


「転生先が、なんで廃墟なんだよおおおおおぉぉぉぉぉっ!!」

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