第八話 北方海域海戦 2

「総員戦闘配置」

 中澤長官が低い声で指示した。

「総員戦闘配置!」

 

 と、命令が各部署でこだました。艦橋にいた砲術科将校が、露天艦橋にある射撃指揮所に繋がるラッタルを上がっていった。砲術長が、敵艦隊の方角を向いたままポケットに手を突っ込み、。自身の秒時計クロノグラフを取り出した。

「敵艦隊、直進してきます!」

 戦闘情報室から声が聞こえてきた。その時だった。艦の向こう側に、弾が勢い良く叩きつけられた。敵弾だ、と誰もが思った。

「敵艦隊への照準開始!」

 レーダーに映る敵艦隊に砲口を向ける。

「右砲戦!目標、敵艦隊旗艦!」

 

 鈍いガガガという金属音を立て、砲が旋回を始めた。彼我の距離は19800mである。しかも、砲撃戦の命中率は10%近くと低く、近づいて命中率を上げる必要がある。今回の場合は、敵艦隊が接近してきている。


 第一艦橋では、観測鏡で敵艦隊を補足しようとしたが、吹雪のせいで何も見えない。また、このタイミングで第三艦隊を分離させた。


 今の状況を整理しよう。第一、第二艦隊が直進中のところに、敵艦隊、四徴海軍の第1軍(四徴では、艦隊を軍、と呼称する。)が横をつくように航行している。つまり、意図せずにT字戦法の形に酷似した状況となっている。そこで、第三艦隊を面舵で分離させ、連合艦隊はV字型となった。そこに、四徴海軍の第1軍が、挟み込まれるようにして進んでいる。


 主砲に、弾薬庫から揚弾筒を通って、砲身に繋がる装弾台に弾が上がられた。そして、その後ろに薬嚢(装薬が詰まった袋)を置いて、それらが砲身に押し込まれた。最後に、閉鎖機(蓋)を閉めた。

「主砲装填完了!」

と、艦橋と射撃指揮所に繋がる電話機の受話器に声が聞こえた。同じくして、射撃指揮所でも、射撃計算を終えていた。


 当時、北大帝海軍では、海軍技術開発研究本部(略して海軍技開研)が開発した、射撃指揮用アナログコンピュータ「タイプⅢ」を標準装備として搭載していた。これで、以前よりも早く、正確な計算が出来るようになった。なので、主砲装填と同時に敵艦隊への射撃計算を終わらせられたのだ。


「砲撃準備完了!」

 と、射撃指揮所から電話で伝えられた。そして、中澤が、

「撃ち方始め!」

 と叫んだ。射撃指揮所についているトリガーが、グッと引かれた。一瞬の沈黙の末、天神の全主砲が火を噴いた。この世の物とは思えない轟音、窓がカタカタと揺れた。天神が斉射をして、それに後続の重装甲打撃艦4隻が続き、さらに後続の2艦隊分の戦艦が続いて斉射をした。大量の大口径砲から、大量の巨弾が、一気に敵艦隊に向けて送られた。

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