とりあえず、が口癖の新人に対して上司が思うこと

雲条翔

とりあえず、が口癖の新人に対して上司が思うこと

 会社組織の中でも、管理職ともなると、上司の顔色を窺うのも大事だが、厄介なのは後輩の育成だ。


 入ってきた新人は、有名大学卒だったが、社長の親戚のコネ入社。


 完全に会社を舐めていた。


「ちーっす。とりあえず、言われた通りコピーしてきたっすー。そんじゃ、ちょっとタバコ休憩いいっすかー」


「おい、待て。キミ、タバコ吸わないだろう?」


「喫煙者はタバコ休憩するんだから、非喫煙者だって、タバコ休憩の名を借りて、五分くらい抜けちゃダメなんすか? 係長も昔はタバコ吸ってたんでしょ? ってことは、分煙化されていない時代に副流煙撒き散らしていた側の人間代表っすね! そんな人に、とやかく言われたくないんで俺。とりあえず行ってきまっす!」


 屁理屈ばかり一人前の彼は、行ってしまった。


(やれやれ、俺が会社に入った頃は、もっと先輩の話を聞いたものだったが……)


 ◆ ◆ ◆


 勤務時間は昼休憩に入り、俺が昼食を取りに、社屋から外出した時。


 通りの工事現場で、交通誘導している疲れた顔の男性に、見覚えがあった。


(あれは、俺が新入社員の頃、厳しかった教育係の先輩だ……)

 

 新手のビジネスを立ち上げると息巻いて、会社を去っていった先輩。


 夢は頓挫して、多額の借金を背負い、離婚して独りになったと聞いてはいたが、こんなところで姿を見かけるとは……。


(そういえば、あの先輩、俺が「とりあえず」って言うと、「その場しのぎの言葉を使うんじゃない!」って怒ったっけなあ……)


 ◆ ◆ ◆


 チームで手がけていたプロジェクトが一段落し、近所の居酒屋で慰労会を行うことになった。


 新入りの彼は、テーブルの中でも出入り口に近い席に座り、呼び出しのチャイムをすぐに押す。


「おいおい、皆の注文も聞いてないのに」


「こういうのは、最初はビールで乾杯、それで決まりっしょ? 店員さーん、とりあえず生で。人数分!」


 爽やかな笑顔で、注文をする新入り。


 なるほど、こういう「とりあえず」は、悪い気はしないか。

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