幸せ
幸せをなくしちゃって、と道を這っている人を見かけた。
分かる分かる。
幸せってすぐにどっか行くよな。
ワイヤレスイヤホン並みにどっか行く。
特に片方だけ。
幸せの片方ってなんだろな。
幸せを探してる野郎は、縦に裂けた口をカチカチ鳴らしながら夜道を這って進む。
どうにも幸せを見つけないと家に帰れないらしい。
暇だったので(嘘)、一緒に探してやることにした。
幸せを見つけるのってすごく大変だもんな。
一人だと特に。
しばらく歩いていると、ショルダーバッグを提げた妊婦さんとすれ違った。
途端に、目のない幸せ野郎が、
幸せ、幸せ、幸せ、と這っていくので、
とりあえず後頭部を蹴り飛ばしておいた。
妊婦さんは逃げていった。
不味い。通報されるかもしれん。
道で突然虚空に向かって暴れ出す成人男性、かなりヤバいもんな。
でも妊婦さん見て涎垂らしまくってるこいつのがヤバくないですか?
どうですか? どうなんですか? どうも証明できなくないですか?
仕方がないので警察が来る前に全てを片付けた。
穴の出番である。
抱えた生肉に赤子の物真似をさせつつ、「あ! 赤ちゃんだ!」とふざけた台詞で野郎を誘導した。
あとは腹を空かせたマンホールにシュートして終了である。
街中で奇怪な発言を繰り返して駆ける男はまず間違いなく通報案件なので、俺は出来うる限り迅速に逃げた。
スーツ着てたからギリセーフかもしれん。現代社会は限界社会人の巣窟だからな。
ところで。
生肉お前、赤ん坊の泣き真似うまいな。
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