創作怪談



 ネット上で創作怪談を語るのが趣味の人と話してきた。

 いつもの、ちょっとしたアルバイトである。


 三十代半ばの男は浦石と名乗った。

 SNSで創作怪談を語るのが趣味で、まあそこそこフォロワーも居るらしい。


 浦石さんは日常に紛れるちょっとした怪異について呟いていて、最近では夜寝る時に必ず手を握られる話を書いたそうだ。


 そんでそれ以来、毎日必ず手を握られるんだそうだ。


 浦石さんは怪談を書くのをやめた。

 でも、もったいなくてアカウントは消さなかった。


「いるんですよ」


「とにかくいっぱいいるんですよ」


「僕の話を遡ってて」


 人間の頭をしたねずみが家の中に住み着いていて、妻の死体を食べているんだそうだ。

 ちなみに浦石さんに妻はいない。本人が言ってた。


 いいじゃないっすか、奥さん手作りできるなんて。

 自給自足で結婚できるなんて素晴らしいですよ。


 と、思ってもないことを適当にほざいてみたが、浦石さんは納得しなかった。

 妻の顔には無数の穴が空いていて、そこから沢山の膿が出てきて止まらないからだそうだ。


 ねずみも妻も、いつまで経っても消えないんだと。

 あとは脚の代わりに人間の指が生えた蝉。

 知らない言葉を喋り続ける息子。

 呪われた石を飲み込んだ祖母。

 喋る神棚。

 その他もろもろ。


 とりあえず、病院に行った方がいいんじゃねーかな、と思った。

 この世にある大抵の怪異は病院で解決したり、しなかったりする。


 本当にそこにいたとしても、治療によって知覚出来なくなることはある。結局は感じる側の問題だからだ。

 感じられなくなったものに干渉出来るようなのは、そんなに多くはない。

 病院行って、薬もらうと良いっすよ。


 浦石さんはビミョーな顔をした。

 男ってなんか病院嫌い多いよな。

 まあ男に限らずか。

 ちなみに俺も嫌い。


 どうすればいいのか聞かれたので、ビタミンC摂るといいですよ、と言っておいた。


 除霊にはビタミンC! これぞ令和の常識!


 と力強く言っておいた。




 あとアカウント消せ。

 普通に。




 妻(妻にしたんだから、何だろうとそれは妻である)が食われ続けてんのに放置し続けてまでアカウント消さない理由って何?


 けーべつしますね。

 いやホントに。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る