髪の長い女


 夜道に髪の長い女が座り込んでいる。

 あまりにも髪が長いので地面についていた。汚い。


 こういう時に限って、誰一人この道を通っていないのだ。

 無視して傍らを通り過ぎようとしたら、髪の毛が足に絡みついてきた。


 面倒なのでそのまま歩いた。

 こういう、態度で示すだけでまともに会話をしようとしない存在って最悪だよな。

 なんで巻き込まれてる俺の方が察してやらなきゃなんねえんだよ。くたばれ。


 勝手に「綺麗?」とか聞いてきて勝手にキレ出す口裂け女の方がマシである。


 片足が異常に重かったが、そのまま歩いた。

 お前今何時だと思ってんだ。もう終電もないぞ。

 俺は帰って風呂入って寝たいんだよ。

 出るなら休日の昼とかにしろ。クソが。


 悪態をつきながら進むことしばらく、地蔵の前を通ったら、足が若干軽くなった。

 ただ、絡みついた髪の毛の感触は消えていない。


 振り返ると、女の首が捩じ切られたようにして外れていた。

 崩れ落ちた体も、外れた首の方も、もうぐったりとしていて少しも動かない。


 軽く蹴っ飛ばしてみたが動く気配はなかったので、これ幸いと髪を解いていった。

 なんかベタベタすんだが? 最悪。面倒臭い。眠い。


 少し首のずれた地蔵は、いつも通りの笑顔で佇んでいた。

 手を合わせてから、コンビニに寄ってスパイシーチリのポテチを供えておいた。


 地蔵さまは辛めの味付けが好みである。


 どうも。助かりました。

 今度あのバカに磨かせておきますんで。

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