河川敷


 反省を踏まえて、生肉の散歩には河川敷を選ぶことにした。

 深夜に歩けばそうそう人なんぞ居ないからである。


 と、思ったのだが、この日は橋の下に人影が立っていた。

 まだまだ遠かったが、月が明るいおかげか抜けた先がよく見えるので、成人男性であることは分かった。


 真っ黒い人影は、運動前の準備でもしてるのか、ずっと首を回している。

 ずっとだ。

 ぐるぐるぐねぐねと、直立不動で頭だけが動いている。


 行き止まりの水門まで辿り着いて、これからちょうど戻るところだったので、どう頑張ってもあの橋の下を通らないとならない。

 黒い人影の首はゆっくりと、ぐるぐるぐねぐね揺れていて、終わりが見えなかった。


 生肉はなんだかやる気がなさそうに地面を引っ掻いている。ここ数日はずっとそうだ。

 あのバカが居なくなったくらいで、何がそんなに寂しいもんかね。


 さて。

 明日も仕事だ。

 帰らねばならない。


 首を左右に曲げ続けている人影を視界の端に捉えつつ、俺は出来る限り、なんも気にしてませんよ、という態度でその傍らを通り抜けた。

 まあ、不審者への対応と概ね同じである。


 人影には腕がなく、首から上だけが鯉の集合体だった。

 振り落とそうともがいているところ悪いが、じきに全部鯉になりそうだった。


 なるほどな。

 確かに最近、やたらと鯉が多いなと思ったんだよ。

 なるほどな。




 せっかく散歩してやったのに、生肉はしょぼくれたままだった。

 なんだお前。

 俺がせっかく。

 せっかくさあ。

 頑張ってやったってのに。


 全く。

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