閉店セール
近所にずっと閉店セールをしている店がある。あった、と言う方が正しい。
今は本当に閉店している。もう三年くらいずっと閉店セールをやり続けていたのだから、この先一生やり続けるんだろうとさえ思っていたのだが。商売というのはそう甘いものでは無いらしい。
店舗のガラス窓には閉店の文字がデカデカと書かれたポスターが並んでいたが、時折、その内側で何かが蠢くようになった。
まるで目隠しでもするように貼られたポスターの隙間から、薄暗い店内で這いずる何かが見える。
『いつもご来店いただきありがとうございます。
誠に勝手ながら、当店は諸般の事情により十月十日をもちまして閉店いたします。
長年のご愛顧、誠にありがとうございました』
張り紙の、乱れた字を思い出す。
どうやら大分、諸般が過ぎるタイプの事情だったらしい。
しばらくして。
ある夜、俺の前を歩いていたおっさんが、閉店した店の扉から伸びてきた腕に捕まった。
「あっ、これおいしー」「やっぱりよんじゅうだいくらいがねらいめだよ」「あははは、いきがいいね」「みぎあしちょうだい!」「あっはんぶんになっちゃった」
背後から、はしゃいだ女子学生みたいな声が響いている。
伸びてきた腕はちょっとした重機のアームくらいあった気がするが、鈴が転がるような笑い声は極めて、過度なほどに愛らしかった。
回れ右して別の道を通りながら、俺は眠気に負ける頭でぼんやり思い浮かべた。
回転寿司のレーンみたいなことかな、と。
回転人間。
あまり語呂は良くない。
とりあえず、生肉の散歩コースからは外しておくことにした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます