訪問


 どうやら死んだ人間を生き返らせてくれる、なんとか様だとかいうのがいるらしい。

 休日の朝っぱらからチャイムがしつこいので出たら人の良さそうなおばさんが教えてくれた。


 そりゃあいい、と思ってさっそく中までお通しした。我が家にはちょうど最近死んだばかりのバカがいるので、せっかくだからこいつを生き返らせてもらおうと思ったのだ。

 ほら。流石に人が死んでるとなると、後味が悪いからさ。


 だがおばさんは全く訳の分からない戯言を宣うばかりで、少しもお話しにならなかった。

 私はなんとか様のような力は無いので、と泣き始めるので、だったらそのなんとか様だとかを呼んでくれとお願いしてみた。


 尊き身であるなんとか様を呼びつけるだなんてとんでもない、のだそうだ。


 仕方がないのでバカと共になんとか様の家までお邪魔することにした。

 生肉も散歩したいみたいだからちょうどいいし。

 電車で三十分、そんでそこから二十分くらい歩いて、何処にでもありそうなマンションに着いた。


 したら、帰ってくださいってよ。

 なんとか様は貴方とはお会いになりませんってよ。


 一生懸命俺を勧誘した三村さん(おばさん)の苦労をなんだと思ってんだ。

 三村さんは本気で信じてんだぞ。

 その上俺にも幸福をお裾分けしようと思って親切に来てくれたんだぞ。

 ちょっとは報いてやろうと思わねえのか。


 お前みたいなのを信じて老後の為の金も全部溶かしてんだぞ。

 生き返るなら尚更人生二百年世代になっちまうから絶対に金が要るのに全部溶かしてんだぞ。

 せめて顔見せるくらいしろ。


 毛玉だらけのスウェットでお邪魔したのが不味かったのかもしれない。申し訳ない、普段はちゃんと死んだ目の社会人に擬態してるんですよ。

 後日改めて伺います、と言ったのだが、集会所の人間共に訳わからん泥をぶつけられてしまった。

 畜生。せっかくの休日になんでこんな目に。


 生き返れなくて悲しいのか、隣のバカも心なしか落ち込んでいたので、雑に慰めておいた。

 大丈夫大丈夫。

 どうせ三年後には潰れてるぜあんなん。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る