帰り道
居酒屋を出た俺は、男が歩くまま一緒に歩く。
深夜の街中は、いつもならまだ酔っ払いがぐだをまいていたり喧嘩をしていたりと騒がしいのだが、雪が積もっているからだろうか。誰の姿も見えない。流石に大通りはちらほらと車が走っているが、雪道なのでいつもの勢いはなく安全運転だ。
真っ白い世界を街灯たちが照らし、キラキラとした光を暗闇に照らし出している。
「過去にそんな酷いことがあったんですねぇ。あ、そこの駐車場に車を停めているんです」
数メートル先のコインパーキングを指さし男は言った。
「ええ。耳を疑いましたよ。今じゃ考えられない事です」
俺の言葉にうなずきながら、男は車のカギを開け「どうぞ」と声をかける。
「少しだけドライブになりますが、きっと私の家は貴方にとってゆっくりと出来る場所だと思いますよ」
男はかけていたサングラスを外しダッシュボードの上に置くと車を発進させる。流石に夜の運転では外すらしい。
窓外に見える木々に装飾された色とりどりのネオンや、24時間営業の店で働く人たちが見える。
普段の俺なら、この時間はアパートで夢の中にいる。テーブルには空になったコンビニ弁当の入れ物。その傍らには脱ぎっぱなしのワイシャツと靴下。エアコンをお休みモードにして快適な温度の中、ミヨと布団の中で眠る。ミヨの小さな心臓の鼓動を感じながら。
「ミヨは・・・」
喋るつもりじゃなかったのに、自然に口が動きミヨの名前を口にする。
「はい?」
視線は前を見ながら、男は俺の話に耳を傾けるように顔を少し寄せる。
「・・・いえ・・・さっきの話の続きですが、俺は未帰橋に行きました。トキ子さんの言う通りしっかりと調べてやろうと思ったんです」
「はい。どうでしたか?」
「・・・・・」
自分から話し出したにも関わらず、中々口が開かない。
俺はまた視線を窓外に戻し、高いビルが少なくなっていく景色を目で追った。
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