居酒屋

「ふんふん」

男は、コップに溢れんばかりに入った酒を口を尖らしちびりちびりと飲み相槌を打った。

俺は、ソレを横目で見ながら小さくため息を吐くようにして話す。

「あの時は半分も信じられませんでしたよ。どう見たってルナは生きている人間にしか見えない。本当に幽霊なのかって・・」

「でも本当だったんでしょう?」

「ええ。ルナが言うように次の日から、これまでの日常からは考えられない程の災難が降りかかりました。死ぬほどの事ではありませんでしたが、一歩間違えばという事ばかり。大きな災難にならなかったのもルナのお陰なんでしょうね」

口の片方を上げ自嘲気味に俺は笑う。

「例えばどんな事があったんです?」

男が頼んだもつ煮を不愛想な大将が「はいよ」と言って、カウンター越しに置く。味が染み込んでいる大根が美味そうだ。

「そうですねぇ・・例えば・・」

黒く煤けた天井を見上げた俺は、遠い過去を頭からほじくり返すように一つ一つ話始めた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る