自信と覚悟 エピソード6 卒業へのカウントダウン

鈴木 優

第6話

     自信と覚悟

                 鈴木 優   

      エピソード6 卒業へのカウントダウン

 誰かが言った 

 "人は、人生において突然に起こりえるハプニングには免疫がない!だから心構えが必要"

 

 あれから、約1年が過ぎようとしていた

 周りの人達は、両手をあげての了解が得られていた訳では無いが、特に反対も無く順調?に時間だけが流れていた

 今も相変わらず週末だけの触れ合い

 迎えに行き、家迄送って行く 以前のように食事をしたり、ドライブを楽しむ事も減っていた

 仕事疲れと言う事もあって俺は口数も少なくなっていた

 あーちゃんは、そんな俺の様子を察してか 喋り続け、微笑んでさえいてくれている

『有難うね また電話するからね バイバ〜い』

 バックミラーにあーちゃんの手を振る姿が映るのを見て正直、安堵と言うか ホッとしているのを感じている"無事に送り届けてよかった"

 と言う感情の物では無く、それは『開放感』に近い感覚に似ている

 先輩曰く『長く付き合ってりゃ〜そんな事位あるさ』マンネリと言う名の馴れ合い?

 今年の春、あーちゃんは卒業を迎える 俺も助手から運転手になる予定だ

 そんな気持ちのまま、また土曜を迎えていた

 でも今日は違っていた

『優君 私、卒業したら暫く会えなくなるかもしれない』以前から卒業したら親戚が営んでいるスーパーで暫く商売経験を積むよう言われていたからだ 実家が商売をしていると言う事もあり 経験?を詰めと言う所だろう

 ん?どう言う事 電話では何も言ってなかったのに...

『優君どう思う?多分、親達は試してんだと思う』

 そう言いながらあーちゃんは暫く外を見ていた

 言葉が見つからない 以前なら強引にでも引き止めていただろうし、そう言う言葉すら出てこない

『大丈夫だよ そんなに遠くないし、休みには会いに行くし』

 違うのに 心とは裏腹な言葉だった

 "本当に毎週末会いになんか行けるのか?それがいつまで続くのかわからない 自信は?気持ちは?"

 いつも通っている通い慣れた道、今日はやけに長く感じる 空港には最終便であろう飛行機が離陸の準備を待っている姿が目に入っていた

 途中、いつものP帯に車を停め自販機でコーヒーを買って戻ると、あーちゃんはうたた寝をしていた

 若さ故と言うか、首筋 胸元その姿を見ていると"男"の部分が目覚める 助手席のシートを倒し、抱きしめた

『辞めて!優君 最近そんな事ばかり 私、沢山話したい事、聞きたい事あったのに 優君何も聞こうとしてくれないじゃない』

 言う通りだった バツの悪さでタイヤが軋む程加速をし、音楽のボリュームを上げる 家まで無言状態をキメていた 

 その日のバックミラーには、あーちゃんの姿は無かった

 "駄目だなァ俺って"

 自分の事だけしか考えていなかったのだと思う きっとあーちゃんは、縋るような想いだったのだろう それを踏み躙ってしまっていた

 そんな事と仕事が忙しいと言う事を言い訳にして暫く連絡はとっていなかった でもいつも考えている 今何をしているのか?仕事をしていても、一日中

 簡単な事!電話さえすれば済むのだが、そして...

 そう言えば、来週の金曜日が卒業式だ それ迄には何とかしないと このままでは駄目だ

 そんな事を思いながら二人が好きな音楽を聞いていた

『お〜い電話だぞー』

 下から親父の声が聞こえて来た どうせ会社から明日の予定変更だろう位に思っていた

 ぶっきら棒な声で『はい、もしもし』

『優君 もう寝る所だった こんな時間に電話しごめんね 元気にしてた』

 例の如く、居間では返答だけの会話

『来週の土曜日、会えないかな?このままじゃ私 向こうに行けない』

 取り敢えず週末、仕事が終わったら連絡をする事だけを伝えた

"やっぱり、あーちゃんは行ってしまうんだ"

 二階に上がる脚が重く感じる

 あの言葉を思い出した

 "人生を送る上でのハプニングには免疫がない"

 俺には自信も覚悟も、オマケに甲斐性すら無かった事をつくづく痛感させられていた

 ベッドに横になり、好きな音楽を聞いてみても耳には入って来ない 少し開いているカーテン越しに見える夜空が今夜はやけに暗く見えていた

 

     

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自信と覚悟 エピソード6 卒業へのカウントダウン 鈴木 優 @Katsumi1209

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