第20話 強制召喚と竜の襲撃

リーシャから話を聞いた後、俺は色んなことを考えた───いや考えずにはいられなかった。


でも結局、策も相手の目的も、納得のいく答えを見つけることは出来なかった。


疲れているはずなのに、中々寝付けず、いつの間にか朝になっていた。


週明けの月曜日、普通に学校がある。


ここまで憂鬱な月曜日は始めてだ。


寝なかった自分が悪いんだが…………………。


布団から起きると、リーシャが朝ごはんを作ってくれていた。

俺はそれを食べた後、欠伸をしながら学校へ向かう準備をする。


メイドの件も、全て解決するにはマルクス王子に近づくか、城に行かなきゃ分からないな。

でもそんな事出来るのか?


「なぁリーシャ、王子に会うことって可能なのか?」


「正直に言うと相当厳しいですね。不可能というわけじゃないですけど」


「どういう場合なら可能なんだ?」


「例えば国の危機を救うほどの大きな功績を上げたり、最近だとS級冒険者になると会うことができますね」


「S級冒険者、何でだ?」


「あまり実感は無いと思いますが、今向こうの世界では人間と魔族が戦争をしてるんです。戦いを続けるには兵力の補充をしなければなりません。S級ともなれば、そこらの兵士よりも圧倒的に強いですし、一人でも戦況をひっくり返せるほどのポテンシャルを持っていますから。国が傭兵としてその人を雇おうとするんですよ」


「なるほど………………」


そういえば俺の目的って魔王を倒すことだったな。

ビルエイツが平和過ぎて完全に忘れてた。


それにしてもS級冒険者か、さすがに遠すぎるな。


別の案を考えるか………………。


家を出る時間となり、俺は玄関のドアを開けた。


「じゃあいってき───」


<召喚>が強制的に発動しました。


そんな通知が俺の前に現れた。


はっ?


状況が読めず、固まっていると10のカウントが始まった。


待て待て待て───。


俺は我に返り、直ぐに保管庫からローブを取りだし、リーシャに被せた。


「わっ!?何ですか?」


カウントが終わり、俺達は異世界に飛ばされた。


「………………デニム?アマネさん学校に行くんじゃなかったんですか?」


「うん………そのつもりだったんだけど。どうやら強制召喚されたみたい」


「そういえば言ってましたね。ずっと行かない訳にはいかないって。思えば三日ほど来てませんでしたね」


「確かに来てなかったよ…………来てなかったけど、三日って……………さすがに早すぎるだろ!!」


俺は心の底からそう叫んだ。


シェリアさん、さすがに早くない?俺今日学校なんだけど。


『そ、そう言われても決まりですので………………』


出たよ、決まり。


それでどうやったら帰れるの?


『討伐ミッションを最低一つクリアしてください。その後は一日こちらで過ごして貰えたら帰る条件は達成です』


一日いる意味ある?


『何が起きるか分かりませんからね。警備みたいなものと考えてください』


もっと早く帰る方法はないの?


『でしたら二回目以降の討伐ミッションはクリアする度、二時間短縮させていただきます』


二時間だけか………………。


こっちの世界の一日はだいたい20時間、移動や討伐の時間を考えたら直ぐに帰るのは無理か。


仕方ない。とりあえず言われた通りにするか。


俺はリーシャと共に冒険者ギルドに入った。


「おいおい、マジかよ。今日もミッションねぇじゃん」

「いつになったらコイツ居なくなるんだよ」


ギルドに入るなりそんな話し声が聞こえてき、冒険者達が掲示板を見つめながら残念そうな表情を浮かべていた。


「何だか雰囲気違いますね……………」


「だな」


俺も掲示板の方に移動し、何が起きてるのか確認する。


「嘘だろ………………タイミングどうなってんだよ」


今まで掲示板全体を埋め尽くすほどのミッションがあったのだが、今日はスカスカでほとんどミッションがない。

しかもあるのは薬草採取などの討伐以外のものばかりだ。

唯一ある討伐ミッションは竜討伐という難易度Sのものだ。


S級ミッションなんて始めて見たぞ。


このままだと帰れない………………。


俺は受付に行き、何が起きてるのか聞く事にした。


「どうして今日はあんなにミッションが少ないんですか?」


「それが…………数日前から近くの森で竜が住み始めてしまいまして、その影響で森に住む魔物たちが大人しくなってしまったんです」


「どうして竜が住むだけで魔物の動きが大人しくなるんですか?」


「竜は魔物の中でも最上位の存在です。他の魔物たちは竜の機嫌を損なわせないよう、竜の思うがままに動くようになるんです」


そう言いきった後、受付嬢は深くため息をついた。


「ギルドとしてはミッションが入ってこないので、すごく迷惑な話なんですよね。それに冒険者達は稼げないからピリピリして私たちに当たって来るんですよ………………はぁ〜〜早く居なくならないかなぁ………………」


随分お疲れのようで………………。


「あの、どれくらい待てば元に戻るんですか?」


「分かりません。竜は自由な性格で明確な目的を持って行動することが少ないんですよ。それに強すぎて討伐すること自体難しいですし、


その発言大丈夫?すごく嫌な予感がするんだけど……………。


ていうか、気まぐれで街滅ぼすとかおっかねぇやつだな。


ドン。


突然、一人の男が冒険者ギルドのドアを勢い開けて中に入ってきた。

ハァハァ、と息が上がっており、焦った様子の男。


「街の外から魔物の集団が押し寄せて来てる!!しかも…………竜もいたんだ……………!!」


えぇ……………光の速度でフラグ回収するじゃん。


「そんな……………ほんとに竜が来るなんて………………」


顔を真っ青にしてそう言う受付嬢。


ギルド内は一瞬にして慌ただしくなった。


隣にいるリーシャも緊迫した表情を浮かべていた。


どうやらそれほど強い存在のようだ。


「お前ら!ここに居てもやられるだけだ!どうにか食い止めに行くぞ!」


「「「おー!!」」」


さすが冒険者と言うべきか、肝が座っていると言うべきか、俺の住む世界と違い誰一人パニックにはならず、全員が武器を持ち、ギルドを飛び出して行った。


強制召喚のせいで俺の意思では現実世界に帰る事が出来ないこの状況での竜襲撃。


まさかシェリア、狙って俺を召喚したんじゃないよな?


『えっ……………いや、そんなわけないじゃないですか……………』


その反応…………絶対嘘だろ!!


『す、すみません……………!でも仕方なかったんですよ!今集まってる人達じゃ竜は倒せません!アマネ様なら召喚しても許して貰えるかな、と思ってやったんですよ!私も必死なんですよ!』


わかった。わかったから落ち着いてくれ!


でも俺に竜なんか倒せるのかよ………………。


「アマネさん私たちも行きますよ!このままだと街どころか国が危ないです!」


そう言って俺の手を引くリーシャ。


そうだよな。迷ってる暇なんて今は無いんだ。


「悪い。ちょっとビビってた」


「えっ!?アマネさんってビビることあったんですか!」


「そんな驚くこと?普通にあるよ……………」


リーシャにとって俺はどういう存在に見えてるのか、すごい気になってきた。


そうして街の外へ向かうと多くの冒険者たち集まっていた。その中にはミサの姿もあった。


俺たちもその集団に合流し、どういう状況なのかを確認する。


っ!?


何だよあの量───。


視線の先を埋め尽くすほどの魔物の群れ。


その上を大きな翼を広げ飛ぶ、巨大な竜。

立派な角にゴツゴツとした皮膚、鋭い目付き、口から飛び出る鋭い牙。

見ただけで分かる、こいつは今までの魔物と比べられないほどに強いと。


「竜は周りの魔物に対して指示を出すことが出来るんです。従わないと殺されてしまいます。勝てないとわかっている魔物たちは大人しくその指示に従うんです」


つまり押し寄せてきている魔物たちはみんな竜の指示に従っているわけか。


気まぐれにしては随分だな……………。


俺は一度ミサの方に行き、話しかける。


「ミサも居たんだな」


「アマネ…………」


俺の顔を見て何故か安心したような表情を浮かべるミサ。


「アマネが居るなら安心だね……………」


「えっ………………」


おいおい、やめてくれ。

なんか負けたらダメって、プレッシャーになるから。

確かにミサからしたら俺は救世主みたいなのかもしれないけど。


「あっ、でも怪我したら私のところに来てね。すぐに治すから……………」


「ああ、わかった……………」


「期待してるぜ嬢ちゃん。治癒魔法が使えるのはあんたしか居ねぇからよ!」


冒険者の一人がミサに向かってそう言った。


「が、頑張る…………!!」


とやる気満々なミサ。


なんか前よりたくましくなったような………………。


何か変化があったのか?


「ギァァァァァァ───!!」


突然、竜が耳を劈くほど大きな雄叫びを上げた。


その後、口から巨大な火の玉を吹いた。


「避けろ!!」


着弾点にいる冒険者達が一斉にその場から離れる。


ドォォォン!!


地面にぶつかった炎の玉は大爆発を起こし、地面を抉った。


マジか……………直撃したら終わる。


「お前ら!まずは魔物の群れを片付けるぞ!」


武器を持つ冒険者達が一斉に前へと詰め始めた。


「リーシャ、俺達も行くぞ!」


「はい!」


俺はこの時、何故か思ってしまったことがある。


今、すごくどうでもいいことだ。


制服で竜と戦うやつ俺以外いるのかな。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る