第18話 取り締まる二人
「パトカーに乗るなんて初めてですよ」
「ハハハッ、乗ったことある方がおかしいぞ」
運転席にいる店長が鼻で笑いながらそう言った。
なぜショッピングモールにいたのか?それと───いつから魔法が使えるのか、など俺達に色々話を聞きたいらしい。
今思えば、リーシャが車に乗ったのって初めてだよな。
「(乗り心地はどうだ?)」
俺はリーシャの耳元で小さくそう言った。
「(電車とは全然違いますね。こっちも悪くないです)」
とリーシャも耳元でそう言った。
「(それは良かった)」
「旬くんその子は君の恋人なのかい?」
車のルームミラーからニヤリとした顔を俺に向けそう言う店長。
「こ、恋ッ!?」
顔を真っ赤にさせるリーシャ。
「ち、違いますよ!!」
「そうなのか?私には恋人にしか見えないが……………美波もそう思うだろ?」
「さぁ……………最近の子のことは私にはわかりませんよ……………」
「最近の子って、美波はまだ若いだろ…………」
助手席に座るポニーテールの女性。
俺がお腹を思いっきり殴ったせいで少しげっそりしている。
名前は
「あの……………柊さんお腹は大丈夫ですか?怒り任せで大分強く殴っちゃったんですけど…………………」
「大丈夫よ、これくらい……………」
そう言って俺の方を振り向く柊さん。
「えっと…………顔色悪いですけどほんとに大丈夫ですか?」
「ウッ…………ほんとに大丈夫よ………………」
少し気分が悪そうな柊さんを心配しながらも俺たちは警察署へと向かった。
※
取り調べ室にでも連れて行かれると思っていたが、意外にもそうではなく、応接室へと通された。
「あまり緊張するな。旬くん達が何もやってないのはわかっているから」
そう言い俺たちの前にコーヒーを置き、藤崎さんは向かい側に座った。
「ありがとうございます」
隣でコーヒーを見つめながら苦そうな表情を浮かべるリーシャ。
「あっ、すみません店長、砂糖とミルクを貰っていいですか?」
「……………ああ、悪かった。それと旬くん、今は店長じゃないぞ」
「あっ、すみません……………」
店長───藤崎さんとはバイト先でしか会わないので店長呼びで定着していた。
「アマネさん、よくコーヒーそのまま飲めますね。苦くないんですか?」
「確かに苦いけど、美味しいよ」
「そうなんですか。私は甘くしないと飲めません」
「リーシャ、甘いもの好きだもんな」
「へぇ〜その子はリーシャちゃんって言うのか」
「あっ………………!?」
ニヤリとした表情をこちらに向けそう言う藤崎さん。
「その髪色と名前───」
まずいもうバレたのか?確かに冒険者ギルドに指名手配の紙はられてたけど。
リーシャも焦った顔してるし………………。
「さては留学生だな」
「そうです。向こうの世界の人間です!」
覚悟を決め、リーシャは自分からそう言った。
だが藤崎さんは全く違う回答をした。
「えっ?向こうの世界の人間?もしかしてビルエイツ王国に住んでるってことかい?」
「あっ、えっ…………ちがっ…………いや違くないですけど……………」
自分から白状してしまった後だが、リーシャは藤崎さんが気づいてなかった事を知り、どうにか言い訳をしようと頭を抱えた。
「紗枝さん、気づかなかったんですか?冒険者ギルドで指名手配の張り紙されてたでしょ、その子の事ですよ。どうしてこっちにいるのかは知りませんけど」
リーシャを指さし、そう言う柊さん。
「指名手配…………そういえばあったなそんな張り紙」
そう言って視線をリーシャに向ける藤崎さん。
「つまり君は指名手配犯って事か」
二人からの視線にリーシャは萎縮し、暗い表情を浮かべた。
あまりこの話をするのは良くないな。
「あの藤崎さん、そんな話より、俺に聞きたい事ってなんですか?」
「ああ、えっとだな……………旬くんが魔法を使えるようになったのはいつぐらいかな?」
切り替えが早いな。
こんなすぐに話題が変わるとは思ってなかった。
「だいたい…………2、3週間前ですね」
「ショッピングモールでは何があった?」
「突然爆発が起きて───」
その後も色々と質問をされ、俺はそれに真剣に答えた。
どうやらあの爆発を起こした犯人はこの間起きたショッピングモールの爆発事故の犯人だったらしい。
空を飛ぶスキルを持つ厄介な相手で中々捕まえることが出来なかったそうだ。
「……………なるほど、藤崎さんの本業はコンビニ店長じゃなかったんですね」
俺の中で一番気になっていた問題に藤崎さんは答えてくれた。
どうやらコンビニの店長をしていた理由は魔法使いによる窃盗を防ぐためだったらしい。
ここ最近───異世界に行ける人物が増えてきてから窃盗被害が急激に増加しているようだ。
確かに能力を使えば盗みなんて簡単に出来る。
その対策のために柊さんは見回りをし、藤崎さんは実際に店長となって犯人をおびき出そうとしているらしい。
なので藤崎さん達の本業は公務員のようだ。
「私たちの世界において魔法は絶対的な脅威だ。どんな犯罪を犯そうと早々捕まえられるような相手じゃない。特に銃も撃てない日本の警察官なんて相手にならん。だから取り締まる側にも魔法使いが必要なんだ」
「だけど人材不足すぎて、全てを取り締まるのは現状不可能なのよ」
「だからお二人とも眠そうな顔してるんですね」
俺の言葉に二人は何故か暗い顔をした。
もしかしたら俺は言ってはいけないことを言ったのかもしれない。
「確かに目元のクマはいつまでたっても消えんな……………。もう三十手前なのに忙しすぎて出会いもないし」
「私もやる仕事間違えたってたまに思うわ」
「お二人とも大変ですね………………」
これが社会人なのかぁ……………なりたくなくなってきた。
「そこでだ、旬くん、リーシャちゃん。二人にも少し手伝ってもらいたいんだ」
「えっ……………?」
俺達は露骨に嫌な表情を浮かべた。
「そんな顔するな。別に私たちみたいなことをしろとは言ってない。まず未成年の子達を危険に晒すほど私たちはクズじゃないぞ。ただ少し周りを見ていて欲しいんだ。それとコンビニの仕事をもう少し頼みたい………………」
「そっちが本音ですね?」
「仕方ないだろ、窃盗犯気にしながら仕事するの結構疲れるんだ」
「まぁいいですよ。さすがにそのクマみてると心配になってくるので、というか俺も魔法使えますし、藤崎さん休み増やしたらどうですか?」
「旬くんはとてつもなく優しいな。惚れてしまいそうだよ」
「冗談言わないでくださいよ」
「ハハハッ…………バレたか」
「冗談だったんですか……………」
そう言ってため息をつくリーシャ。
藤崎さん達は多分正義感の強い人なんだろう。
言っちゃ悪いが、普通はこんな貧乏くじ自分から引かない。
俺も出来ることだけやっとくか………………。
もしかしたら自分の命に関わる可能性だってあるしな。
「今日は二人とも疲れてるところ付き合ってくれてありがとう」
「いえ、お役に立てたなら良かったです」
「じゃあ紗枝さん、二人を家まで送ってきます」
そうして俺たちは車に乗り込んだ。
運転中、柊さんから色々質問をされた。
「天音くんはその子のことを信用していのよね?」
「はい」
「それって何か確証があっての事なの?」
「いえ、確証も何も無いですよ。ただ俺にはリーシャが犯罪を犯したとは思えないんです。だから最後までリーシャを信じるつもりです」
「アマネさん………………」
本人がいる前で言うのなんか恥ずかしいな……………。
「………………そうか」
それから数十分、マンションについた。
「送って頂いてありがとうございました」
「ありがとうございました」
俺たちは柊さんにお礼を言って、エントランスの方に足を向けた。
「天音くん、少し待て」
そう言って柊さんが俺の手を握った。
リーシャと少し距離が開けてから話を切り出してきたので、俺にしか聞いて欲しくない内容なのだろう。
「天音くん、リーシャさんの事を信用して住ませてあげてるのはいいけど、一つだけ助言しておくわ。彼女を信じすぎない方がいい」
「っ!?どうしてですか…………?」
「……………別に深い理由はないわ。もし裏切られた時、ダメージが大きいからよ。ただそれだけ」
「そうですか………………」
それだけ言って柊さんは俺達から去っていった。
「アマネさん?何話してたんですか?」
「…………いや、なんでもない」
「そうですか……………」
───信じすぎない方が良い。
確かに裏切られた時のダメージは大きいだろう。
でも俺はリーシャを本気で信用してるし、信じている。
今更そんなことを言われても出来るはずがないし、するつもりもない。
でも何故だ?何で柊さんにああ言われた時、そうした方がいいって、一瞬思ったんだ?
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