カクヨム徒然日記

かしこまりこ

第1話 アフガニスタンと聞くと

 どんなイメージが湧きますか? 


 私は真っ先にタリバン政権が思い浮かびます。2021年8月にアメリカ軍が撤退した際、カブール空港が大混乱に陥った時の映像は、まだ記憶に新しいです。


 今年の3月に57kmのハイキングに挑戦した時、チームメイトの一人(仮にサフィーヤさんとします)がアフガニスタン出身でした。同じ職場の同僚です。


 14週間のトレーニング中に、何十時間も一緒に歩いたので、自然といろんな話をしました。その時まで、彼女がアフガニスタン出身って知らなかったんですよ。


 現在オーストラリアに住む人口のほぼ30%が国外生まれなので、日本で「どこの県出身?」と聞くのと同じようなノリで、「どこの国出身?」という会話になることがあります。


 そんなとき、例えばイタリアのようにポピュラーな国出身であれば「イタリアのどこ?」ともっとつっこんだ話になりますし、ヨルダンみたいに観光地として比較的マイナーな国でも「死海があるとこよね」と話題が広がります。


 今のご時世、「ロシア」や「イスラエル」と言われると、一瞬「うっ」と困るんですよね。悲しいニュースばかり流れているので。それでも、「モスクワの美しい街並みを一度は歩いてみたい」とか「イスラエルのビーチって最高なんでしょ?」とか、政治的なこと以外の話題があります。


 ここへ来て「アフガニスタン」。一瞬どころか、三秒くらい「うっ」と困ってしまいました。私ったら、タリバン政権以外のことを何も知らない……。


 しかも、オーストラリアに移住してきてまだ数年だと言うので、どう考えてもタリバン政権から亡命してきてそう。


 これってつっこんで聞いていい話題なのかしら。

 ただ出身地を答えただけなのに、それだけで「大変な過去のある人」認定するのって、とても失礼なのでは。


 なんてことをゴチャゴチャ考えたあげく、かろうじて「アフガニスタンって文化的にはペルシアだっけ?」と遠い昔に仕入れた危うい知識を出してみたら、「そうそう、私イラン系よ〜」みたいな感じでなんとか会話がつながりました。


 国連の通訳をしてたというインテリなサフィーヤさん、やはりタリバン政権に命を狙われて避難してきたとのこと。その時の体験談は、辛い思い出かもしれないと思ってあんまり詳しく聞かなかったのですが、その代わり、私が知らなかったアフガニスタンの文化や暮らしについて、いろいろ教わりました。


 今の職場が、4月の初めからいよいよ週4日勤務になるのですが、「アフガニスタンでは週6日勤務だったんだよね」とサフィーヤさん。


「みんな金曜日がお休みなの。週休は1日だけだったけど、時間がないと感じることはほとんどなかったよ。金曜日は毎週みんなでハイキングやピクニックに行って、まとめて洗濯や買い出しする時間も十分にあったし」


 サフィーヤさんがそう言うので「えー! だったら、週休が3日もあったら退屈しそう?」と聞いてみたら


「オーストラリアの生活はあくせくしてるから、お休みが3日でちょうどいいかも」という答え。


 サフィーヤさんいわく、オーストラリアの生活はペースが早くて常にストレスを感じるそう。


 比べて、アフガニスタンの生活はのんびりしていて、いつも家族や友達と一緒に行動するので、寂しさやストレスを感じることがとても少なかったそうです。なので、もっと休暇が欲しいと思ったことがないと言っていました。


「友達に会うのに、こっちだといちいち事前に連絡しないといけないでしょ? アフガニスタンだと、友達に会いたかったら、ただ家に行けばよかったの。もし友達がちょうど外出してても、友達のお母さんとお茶をして、おしゃべりしてるうちに友達が帰ってくるから。オーストラリアだとみんな忙しいから、人に会うだけでも大変。アフガニスタン人の友達だってそうよ。こっちに住んでたら、こっちの文化に慣れちゃうのよ」とこぼしていました。


 さらには、予定は「10時半」とかじゃなくて「午前」や「午後」など大雑把。時々「朝に来客の約束だったのに、夕方来ちゃった」なんてこともあったりして、別にそれで問題なかったそうです。


 今の会社では、週4日勤務に備えて「いかにして効率を上げるか」に頭を絞っているところなのですが、効率や生産性を追求するやり方が、人間の幸せにとって必ずしもいいとは限らないよなぁって目から鱗でした。


 サフィーヤさんのお母さんは無類の動物好きで、ニワトリと七面鳥とヤギ(+その他いろんな動物)を飼っていて、七面鳥の卵をニワトリに温めてもらって孵すことに成功したり、ヤギにかわいいヘアカットを施しては喜んでいたそうです。


 庭にはアーモンドやアプリコットの木があって、春になると花がとてもきれいだったと言っていました。サフィーヤさんから見せてもらった故郷の写真は、雄大で「うわー」と息をのむほど美しかったです。


 戦争や貧困など、過酷な困難を抱えている国は、そのことばかりがニュースで取り上げられて、ふつうの暮らしや文化などは、国外の人にはほとんど知られないことが、ままあるかと思います。


 私がもしそんな国の出身だったら、国外の人が抱く自国のイメージと、自分が知っている母国の思い出の乖離に、やるせなさや憤りを覚えるだろうな、と想像します。


 例えば「日本って貧しくて危険な国なんでしょ? 逃げて来れてよかったね」とか言われちゃったら、本当に貧困や命の危険から逃れて来ていたとしても、とても悲しい気持ちになりそうです。「日本ってどこ? どんな国?」と聞かれるほうがよほどマシかも。


 ニュースで報道されることはほんの一部ですし、ニュースの性質として、ニュースに取り上げられることは、悪いことが大半なんですよね。一般市民が体験しているリアリティって、ほとんどの場合、ニュースで報じられる映像とはぜんぜん違うものじゃないかなと思います。


 どんな国にも長い歴史と豊かな文化があり、その国ならではの優れた部分があるということを、忘れないでいようと思ったのでした。


追記:エッセイ第四弾、一話目から創作とは全く関係のない話になりましたが(笑)、今後ともよろしくお願いします♡

 

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