三下冒険者は引き立て役の夢を見る。
LUNA
第1話 チンピラ適正〇
「うーん…この依頼、流石に厳しいかなぁ…?」
「そうねぇ、私達もまだAランクになったばかりだし、まだSランクのダンジョンは早いかも…」
「あぁ、そうだな。まだ若いのに無理をする必要もないだろう」
「そうですね。これでもし誰かが欠けてしまえばそれこそ本末転倒ですから、焦らなくても問題ないでしょう」
壁に貼られた掲示板の前で話男女四人組。
「かぁっ〜!やっぱり朝っぱらから飲む酒はうめぇや!」
「ちょっとお父さん…!またギルドで酒を飲んで…!!」
「うお!?アーラどうしてこんなところに!?」
「お母さんに様子を見てきてって言われたのよ!もう、言いつけるからね!」
「そ、それだけは勘弁してくれぇ…」
朝から酒を飲む父親を説教する娘。
「やばいわよ…」
「ええ、まずいわね…」
「どうしようかしら…」
深刻そうな顔で自分たちの所持金を確かめる女性達。
ここは、グローリアという街の冒険者ギルド。
そんな冒険者ギルドに、四人の男女が現れる。
「へぇ…ここがグローリアの冒険者ギルドか。王都に比べると随分とみすぼらしいな?」
「ね〜こんな古臭いギルド、やになっちゃう〜」
「イキリ様がどうしてこんなところに…」
「受ける任務間違えちゃいました?」
入ってきて早々にそんなことを言うイキリと、馬鹿にするように嘲笑を浮かべる女性三人。
そんな様子をなんだなんだと周りの者たちは観察する。
「人のことをジロジロ見るなんて、僕の装備に嫉妬しているのかな?これだからこんなギルドで働いてるような奴らは…」
「もしかして私達、狙われてるんじゃないですか!?私達かわいいから…」
「やーんっ、こわい〜!守ってイキリ様ぁ〜!」
そんな意味不明な会話をしながら彼らは受付に向かう。
「この依頼を受けて来た。早くギルドマスターを呼べ」
依頼書を取り出し、受付に叩きつけるように出す。
「えーっと…はい。Bランク冒険者のイキリ様ですね?」
「あぁ、早く呼んでこい」
「あ…申し訳ありませんが、ギルド長室まで…」
「はぁ!?なんで私達がわざわざ行かなきゃならないのよ?お願いしてる立場なんだから、そっちが出迎えるべきでしょ?」
「え?いえ、ですが決まりですので…」
そう説明する受付嬢に、ヒステリックに騒ぎ出す女。その様子に困っていた受付嬢だったが、意外なところから助けが現れる。
「……いや、そうだね。僕達が向かおうじゃないか」
「え?でも…」
「だけど!条件がある。僕と一緒に王都に行かないかい?君のような美しい女性は、こんな古臭いギルドには似合わない!」
「え?私ですか?」
突然ナンパを受け、困惑する受付嬢。
「うん。君も知っていると思うが、僕の名前はイキリ。王都で最も早くBランクに昇格した冒険者だ。王都のギルドとも多少のコネがあってね?君なら簡単に王都のギルドで合格できるはずだ。だから僕と…」
「あの…すみませんが仕事中ですので…」
「いやいや、もう辞めるんだからそんなこと気にしなくてもいいんだよ?僕と一緒に…」
「ちょっ、ちょっと、離してください!」
そのままイキリは受付嬢の手を掴む。その様子を見かねた周りの者たちが口を開こうとする。
「おいおいおい!何だこのクソガキはよォ!?」
「はっ?」
すると、冒険者ギルドの入り口からそんな怒声が上がった。
イキリが声の方を見ると、そこには乱暴に扉を開けギルドに入ってくる銀色の髪の男がいた。
年齢は20代前半くらい、顔に大きな傷の入った目つきがとても鋭い青年だ。背中には大きな戦斧を背負っている。
「なんだ君は?今は僕と彼女が話をしているんだ。邪魔をしないでくれないかな?」
「はァ?いい度胸だなァおい?俺の女に手出してんじゃねェぞ!」
「俺の女?こんな美しい女性が君みたいな粗暴な男のガールフレンドだって?そんなわけ無いだろう。ね?」
「あっ…えっと…その…付き、あってます…」
「……そうか、君はこの男に脅されてるんだね?」
「え?」
「その言いづらそうな表情、この男から逃れるように顔を逸らして表情を隠す様子…君は脅されているんだろう!?それなら任せてくれたまえ!このBランク冒険者である僕が、君をこの悪党から助け出してくれよう!」
そう言い受付嬢から手を離したイキリは腰に差した剣を抜く。
「…おい、てめェ何してんのかわかってんのか?冒険者同士の喧嘩は御法度だぜ?」
「ふん。彼女を救うためならそのくらいの罰は受けて立とう。彼女を君の魔の手から解放して、君は街の兵士にでも引き渡すさ」
「ハッ…イイぜェ?相手になってやるよ」
イキリの言葉を聞いた青年は、イキリに向けて指をクイクイと煽るように動かす。
「生身で僕に勝てると思っているのか?そうだとしたら本当に君は愚かだね!このBランク冒険者であるイキリに」
「ゴチャゴチャ言わずに掛かってきな、クソガキィ」
「……いいだろう!後悔しても遅いぞ!」
イキリは剣を振り上げ男に斬りかかる。
「シッっ!」
目にも止まらぬ程早い音速の一撃。その一撃は一切の反応も示さない青年の首に迫り…
「なっ!?」
ガキンっという音とともに、剣は根本からへし折れた。
「それじゃ、歯ァ食いしばりな」
それがあまりにも衝撃的だったのか、口をポカンと開けて驚くイキリに、青年はそう言い、振りかぶった拳を力任せに振るった。
「がボギュッッッッッッ!!!!?」
その拳を受けたイキリは、まるで紙のように吹き飛ばされギルドの壁に穴を開けて転がる。
「「「イキリ様ぁ!!?」」」
その様子を近くで伺っていた三人は同時に悲鳴を上げる。
「てめェら、そのガキ持ってさっさと帰りな。一度だけは許してやるが…次はねェぞ」
「っはいぃぃ…!!」
そして彼女たちは、そのままイキリを担ぎ逃げるように去っていった。
「───あ、ありがとうございます!!」
受付嬢がそうお礼を言った途端、周りからは賞賛の嵐が巻き起こる。
「君は本当に…冒険者同士でも遠慮がないな…」
「やるぅ!!流石はコザト!」
「うぅ…修繕費が……!」
そんな賞賛を受けたコザトと呼ばれる男は…
「……うぐ…」
まるで苦味を噛み潰したような顔をしていたのであった。
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