王子に婚約破棄されたので、義理の兄が激怒してこの国を滅ぼすと叫び出したんだけど……

古里(furusato)

第1話 婚約者の王子に卒業パーティーでエスコートできないと宣言されてしまいました

幾多の話しの中からこのお話を見つけて頂いてありがとうございます

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「エリーゼ・アルナス。3日後の卒業パーティーでお前のエスコートは出来ない」

この国の第一王子アンドレ・サンタル殿下から私ははっきりと言い渡されたのだ。


「えっ!」

私はその言葉に固まってしまった。


私、エリーゼ・アルナスはこの国の子爵令嬢でこの第一王子アンドレ殿下の婚約者だ。

3日後には通っている王立学園で私達3年生の卒業パーティーが行われる予定だった。普通は婚約者がいればその婚約者がエスコートする事になっており、私は殿下からの連絡を心待ちにしていたのだ。なのに、殿下は私のエスコートをしてくれないとはっきりと宣言してくれた。


確かに最近は私と殿下との間には交流がほとんど無かった。


でも、元々は帝国に居た私の元に、この国の王家からこの王子との婚約の依頼があったのだ。この国が母の母国だったこともあり、私は王家から度重なる熱心な依頼を受けたのだ。

ただ、最初は優しかったアンドレだが、この婚約に乗り気だった王太后殿下が病に倒れると、徐々に私と会うことも無くなってきて、最近は殆ど会ってもいなかった。


でも、久々に王子に呼ばれたから、私はてっきり、3日後に私をエスコートしてくれる打ち合わせだ、下手したら衣装も用意して頂けたのかもと喜んで来た私が馬鹿だったのだ。


「しかし、殿下、流石に明日は帝国からもお客様がいらっしゃると思いますし、私をエスコートして頂けないのは、流石にまずいのではないですか」

私は思わず言っていた。そう、それはこの国にとってまずいはずだ。


「何を言う、そもそも、この国の王子である私が、何故、子爵令嬢であるその方のエスコートをしなければならないのだ?」

「左様でございますわ、殿下。殿下にエスコートして頂くのは私のような公爵家の令嬢くらいでないと釣り合いが取れませんわ。あなたのおばあさまがどうやって帝国の力を借りてあなたを殿下の婚約者にしたのか知りませんけれど、爵位も子爵、容姿も平凡で地味。そんなあなたが見目麗しい殿下の横に立てるなどと本気で思っていらしたの?」

何故か横に居た公爵令嬢のセリーヌ・モンテローが私を見て笑ってくれたんだけど……


たしかに私は自分の母に比べたら平凡で地味顔よ。でも、あんたらも私のお母様やお義兄様達に比べたら地味顔でしょ! と思わず口に出しそうになった。



そもそも、この婚約を強引に推し進めてきたのはそちらの王太后様なのだ。仕方無しに乗ってあげたのは私の方なのに!

なんでその相手にそこまで言われなくてはいけないのよ! 私は余程そう言いたかった。





私の実の父は帝国でも名の知れた騎士だった。

しかし、反乱軍の鎮圧途中で敵の夜襲を受けて、味方を逃がすために盾となって戦死したそうだ。

私の小さい時の事で私は父の顔もよく覚えていない。


そして、3年後に私の母は今の義理の父と再婚した。

私が6歳の時だった。

義理の父も、再婚で私にはいきなり3人もの義理の兄が出来た。

兄弟の中で女の子が私だけということで、私は父も含めて義兄たちにはとても可愛がってもらえた。


そんな中、弟が生まれたのだ。

本当に可愛い弟で、私は懸命に世話をした。

私は両親と4人の兄弟に囲まれてとても幸せだった。



でも、その幸せも長くは続かなかった。

私が12歳の時に母が流行病で亡くなったのだ。

私はとても悲しかった。


そして、母が死んだ悲しみのショックの余り、前世の記憶が戻ったのだ。

凄まじい量の記憶が私の頭の中に蘇った。

お陰で母の死のショックと重なって私は3日間高熱を発して寝込んだ。


前世、私は普通の女子高生だった。

インフルエンザかコロナかさなかではないが、高熱を発して歩いている時にトラックに跳ねられたのだった。

それからの記憶がないからそこで死んでしまったのだろう。両親には悪いことをしたと思う。

何しろ両親よりも先に死んでしまったのだから。これほど親不孝なことは無いと思った。

それに比べたら今世は両親はもういないけれど、義理の父と兄弟、それに弟がいて私は幸せだった。


私が元気になると義理の父親や兄弟たちはほっとしたみたいだった。


しかし、兄たちは母の死のショックで暗くなっていた。特に弟が……


私がショックを受けて悲しんでいてはいけない。私は父や兄弟たちの前では気丈夫に振る舞うようにしたのだ。



そんな私が14歳になった時だ。母の実家のある国のサンタル王家より私宛に婚約の申込みがあったのだ。母の実家は公爵家でもなければ侯爵家でもない。なんと子爵家なのだ。その子爵家の孫に婚約の申込みをしてくるなんてどういうことなのだろう?

それも相手はなんと継承権第1位の第一王子だと言うんだけど……


サンタル王国はこの帝国の属国扱いになっているとはいえ、一応独立国だ。帝国に比べて領土は小さいとはいえ、四国くらいの大きさで、古くからある由緒ある国だ。小さくても王家から私に婚約の依頼が来るなんて思ってもいなかった。

それは確かに私の血の中には帝国の公爵家の血が混じっているけれど、決して本流ではない。父は母と結婚する時に公爵からは勘当されてたのだ。だから私は平民のはずだった。王家とは全然釣り合わないのだ。


義理の父や兄たちは、そんな辺境のちっぽけな国の王族なんかに私をやれないとか言ってくれるけれど、そもそも、私じゃ全然釣り合わないのだ。


私は当然、冷やかしか何かに違いないと思って無視していたんだけど、それから一ヶ月くらいして今度は私の祖母すなわち母の母が、お願いにわざわざ帝国までやって来たのだった。


でも、私と祖母は血は繋がっているが、今まで会ったこともなかった。祖母と母とは母が一度目の結婚をする時に、意見の相違で喧嘩してそれ以来ほとんど交流はなかったのだ。まあ帝都とサンタル王国との間は距離が離れているというのもあったし、母の葬儀の時も祖母は来なかった。

私からしたら冷たいようだが、赤の他人みたいな感じしかなかった。だから祖母から頼まれたって、それがどうしたという感じだった。

母からは母がしたように好きな人と結婚したらよいと言われていたし……



しかし、そんな私の心とは裏腹に、祖母は私を見るなり亡き母にそっくりだと言って泣き出したのだ。母には本当に申し訳ないことをしたと祖母は泣いて私に詫びたのだ。


私は泣き崩れる祖母をただ抱きしめるしか出来なかった。


前世の母もこんな感じで突然死んだ私のことを泣いてくれたんだろうか……そう思うと他人事とは思えなくなったのだ。


そういうふうに感じだした私に祖母は言ってくれたのだ。


「あなたのお母さんは、私が知らない所で本当にサンタル王国の為に礎になってくれていたんだね。

私はそれを知らなかったんだ。いや、知ろうともしなかった。そんなお母さんに我が子爵家に帰ってこいと言ってしまったんだ。愚かな祖母を笑っておくれ」

祖母は泣いて詫びてくれた。


「まあ、おばあさま。そこまでご自身を責められることではないかと」

母が母国のために実の父と結婚したかと言うとけっしてそういうわけはないような気もする。母は単に父が好きで結婚しただけだ。

今の義理の父との結婚もお互いの連れ合いを無くして悲しんでいる時にお互いが同じ境遇だったということも大きいと思う。一番の理由は私が今の義理の兄達と仲良くなったからというのもあると思う。

私はまだ小さかったから怖い物知らずで地位の高い兄達に平然と絡んでいったのだ。たしか最初は一番上の義理の兄に「お馬さんになって!」と頼んで馬をさせたような気がする。後で聞いたのだが、周りの人たちが青くなっていたそうな。本当に私の黒歴史だ。



「ただ、そこまであの子がやってくれたのに、あの子が亡くなった途端にサンタル王国が無くなればあの子に合わせる顔がないのよ」

そう言って泣かれると私としても答えようが無かった。

確かに母は母国サンタル王国のことを無下にはしていなかった。母国から来た人間には偶に会っていたような気もする。

確かに無くなってしまえば母も悲しむだろう。


その事がストンと私の胸に落ちたのだ。


その時、私は思ってしまったのだ。お母さんのために、私の人生を費やしてもいいかって……


幸いなことに下の弟もその時には9歳になっていた。


私はまだ婚約者がいなかったし、実の父は騎士爵だったから、母の実家を継げて子爵になれるのは私にとって良い話だと思うのだ。このままここにいたら義理の父達は何かと手は尽くしてくれると思うのだが、私と義理の父との間には私の弟とは違い血は繋がっていないのだ。私は単なる母の連れ子に過ぎない。義理の父に余り無理はさせたくなかった。


相手の方も小さいとは言え一国の王子様でいずれは国王陛下になられる方だ。そうなれば私は王妃になれるのだ。平民の身としてはこれ以上望めない程の良い縁談なのだ。

そう、祖母に言われるとその通りだと思えたのだ。


王妃ともなれば多少なりとも下の弟の支えになるのではないかと思いもした。


一番反対しそうな上の兄は丁度隣の大国に留学していてここにはいなかった。


父を説得するのは骨だったが、母の意志を継ぎたいと泣きながら言えば義理の父は泣く泣く認めてくれたのだ。


取り敢えず、サンタル王国の王立学園に3年間留学するのは認めると。

王子が嫌になったらいつでも帰ってきて良いと言われて私は次の年の3月にサンタル王国に旅立ったのだった。

「エリーゼ・アルナス、アルナスってなんかどこかで聞いたことがあるのよね。」

行きの馬車のなかで私は新しい名前を唱えていた。私はとりあえず、この国、アルナス子爵家の当主になったのだ。当主になんかなりたくなかったのだけど、義理の父が許してくれなかったのだ。そうでなかったら、帝国の伯爵位を持っていけとか訳のわからない事を言ってくれたんだけど……


エリーゼ、エリーゼ・アルナス

「ああああ! 思い出した!」

そう、エリーゼ・アルナスはゲームの中の悪役令嬢だったことを思い出したのだ。

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ここまで読んで頂いて有難うございます。

すみません。長い説明会になってしまいました。次からはもっとテンポよくなっていくのでお許しを!

今日は後二話更新します。


フォローして頂けたら嬉しいです(*ᴗ͈ˬᴗ͈)⁾⁾

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