ラティナの旅

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第1章 永遠の少女とニセモノ勇者

第1話 永遠の少女

 ピラザの中央にそびえ立つ巨大な塔、雲にも届くそれは不定期にあるモノを打ち上げている。幸運なことにラティナがピラザに到着した日は打ち上げ日らしい。


 塔の内部の制御室。

 白衣を着た開発者は太い葉巻を咥えると、人差し指で火をつけようとするしたが、指先でボッと火花が散るだけで燃焼しない。


「もう、火魔法ですらここまで弱まってるのか……」


「じゃなきゃ機工学なんて発展しませんよ、博士」


 横に座る助手はそう言いながら自分のライターをそっと差し出す。博士はいつも通りため息を吐きながらも受け取ったライターで葉巻に火をつける。

 煙を深く吸って吐き出すと、博士は発射レバーに手を置いた。


「信じられんな……コレが千年前の勇者の再現にすぎないなんて」


 制御室で待機する百人を超える研究員は全員準備が整った。待機ランプを確認した博士は発射レバーを力強く下げた。


 次の瞬間、巨塔の発射台に刻まれた国家級の炎魔法は機械によって起動されて、百人を乗せた箱舟を宇宙に打ち上げた。

 最上級の障壁魔法に包まれた箱舟は重力と熱の影響を受けることなく地球から抜け出て、月の奥に停泊している真大陸へ向かう。


 勇者の居ない世界はもう安息の地ではなくなった。

 とめどなく出現する魔物に抗い続けることは不可能と悟った人々は、はるか昔勇者が作り出したとされる真大陸へ移住することにした。

 これはピラザに限った話ではなく、現在も世界各地の街で不定期に人々を打ち上げている。


 巨塔から放たれた熱風に額とその黄金色の長髪を煽られながら、ラティナは街一番の宿屋に入って行った。

 受付窓口前に着いたラティナは受付の机に両手を置いて、大声で案内人に話しかける。


「あのー! 討伐のお仕事と機工技師を探してるんですけどー!」


「そんな大声上げなくても聞こえますから……」


「あ、ごめんごめん〜 前の街は空気の震動が弱かったから、つい声張っちゃった」


 迷惑客が来たと勘違いした受付嬢は最初こそ嫌な表情を浮かべたが、すぐに謝罪して微笑むラティナを見て改めていつもの態度で質問に答えた。


「機工技師は東中央通りに行けばお店がたくさんありますから、必要に応じてご自身で店舗を選んでください……それで討伐依頼ですが……」


 受付嬢は手元のツボから輝く砂を少し取ってラティナに振りかけると、光る砂はラティナに付着することなく弾かれてしまう。


「お客様……やっぱり成人してなかったんですね。申し訳ありませんが、未成年者に討伐依頼を案内してはいけないと決められてるのでほかの仕事を探してください」


「えぇ〜〜 私の実年齢多分100超えてるけど、ダメ?」


「……からかうのやめてください」


「からかってないし、理由わかんないけど大人になれない体質なの!」


「そうでしたら一生案内できませんね」


 受付嬢はラティナが背負っている戦斧をチラッと見て彼女の職業を予測する。


「外の街では立派なアックスファイターをされてるかもしれませんが、ピラザにはピラザの法律がありますので」


「ちぇー……じゃあ、空いてる部屋一つください」


 受付嬢から鍵を受け取ると、ラティナは銀貨2枚を適当に放り投げて自室へ向かった。銀貨は何故か重力に引っ張られて落ちることなく、微かな風に乗って不思議な軌道を描きながら受付嬢の両手に飛んでいく。


 これだけ旅しても未だに勘違いされることに対して、ラティナは小さく怒った。


「アックスファイターじゃないし……魔法使い、なんですけど」



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