首狩りウサギのダンジョン配信 ~罰ゲーム企画『ダンジョン料理』~
真偽ゆらり
料理していくウサぺこピョンだラビ
「今日はトリあえず、材料はあの鳥ぺこウサ」
ダンジョン配信者『卯佐美・ラビットソン』が第一声と共に指差した先、配信画面に映るは鳥型の魔物。
空を飛べぬ鳥――鶏を人間の子供サイズまで巨大化させたような風貌。目の片側には星形の模様があり、鶏冠は棘の様に長く尖っている。エナメル皮っぽい光沢を帯びた黒い羽毛を持つ魔物の名は『ロックバード/パンク種』。
ダンジョン探索の配信が一般的になった昨今ではその原種やその他の派生種を含めよく見かけるポピュラーな魔物である。出現する魔物の系統が固定されていないダンジョンであれば二~三種は必ず出てくる程に。
「まずは一匹絞めるラビ」
若干のウサギ要素が込められた装備を纏う彼女がロックバードへと向かう背が画面に映る中、視聴者のコメントが流れていく。
//相変わらず語尾が迷子
//初見です
//鳥だから一羽では?
「あ、初見さんいらっしゃいだピョン」
卯佐美がコメントに返事をすると同時にロックバードの首が飛ぶ。
//え、首が
//出た! ウサミンの首狩り
//ああ、早すぎる首狩り。俺でなくても見逃しちゃうね
//そもそもドローンのフレームレートが追いついてない
「ちまちま首を絞めてたらストレスで味が落ちちゃうかもだから仕方ないぺこ」
//いやいやいやまだ動いてる!?
別に首が飛んだロックバードがゾンビ化したわけではない。
「あれは死んだ事に気付いてないだけラビ。あれだけ生きがいいと血抜きが楽でいいぺこだな」
卯佐美がロックバードの脚を持って拾い上げる頃にはロックバードの死体にはほとんど血が残っていなかった。
「うん、全部出切ったピョンな……あ! 血抜きをやると当然血の匂いに釣られて肉食系の魔物が寄って来るから血抜きの時間は経験値稼ぎもできるウサぺこ」
首の無いロックバードを片手に集まって来た魔物たちをサイコロステーキに変えていく卯佐美。
//できるか!
//あ、ここは首狩りじゃないんだ
//何が起きてるんだ……
「あと内臓はやべぇかもだから血抜きついでに捨てていくのも忘れちゃダメらびピョンだな」
一瞬ロックバードの首無し死体が宙に浮いたかと思えばナニカに引きずり出されるようにモザイク処理されるモノが出てくる。
「やっべ、グロ映像処理掛けてたっけ」
//大丈夫だったよ~
//ウサミン、語尾! 語尾忘れてるよ!
//ガチ恋距離たすかる
「あ……ぺこ?」
//おそい
//おそいよ
//おそいですね
「まぁ、気を取り直して次の工程にいくウサ」
そう言って卯佐美が虚空に手をかざすと宙に黒い穴が開いた。
//アイテムボックスだ
//ダンジョン配信者の必須スキル
//いや配信者じゃなくても必須
//これが誰でも取れるスキルになってからの法改正は早かったよね
「内臓を取ったら羽毛を剥ぐぺこ」
//なんか鳥の丸焼きの焼く前みたいなの出てきた
//これはアレだ、料理番組でよくある
「と、いうわけで羽毛やら毛やらを取ったのがこちらになりますですラビ~」
黒い穴に放り込まれたロックバードの首無し死体と入れ替わる様に取り出された鶏肉。もう魔物だった面影は大きさぐらいしかない。
「あ、でも此処で料理するには木とか色んなもんがじゃまだなぁ」
//此処で料理?
//ゑ?
//まさかのキャンプ飯だった?
//いやまてこれは……ウサミンのアレが来るぞ
//アレ?
//まさか――アレですか!?
//やばいやばいやばい何処のだんじょんだけえ
//タイプミスする程の慌てよう……これから何が起こるんですか
急に慌ただしくなるコメント欄。
「やっちゃうか、アレ」
//きてぃあぁぁぁ
//まじか
//いくら時間経過で復活するとはいえ
//だからいいんじゃねぇか!
//え、E? なにが始まるんでせう
//まぁ見てろって、飛ぶぞ
//いや飛びはしないから
「来い! 名を分け与えた我が忠実なる僕、我が配信を妨げる一切合切を粉砕するのだぁぁぁ! 『ラビットソン』召喚!!」
//出た! ウサミンの全てを破壊しながら突き進むバッファローの群れ
//群体バッファロー!? あれってテイムできたのか……
//かなりの偶然だったけどな
//アーカイブにあるから気になったら見てみるといいよ
//ああ、牛乳を口に含みながら見るのを忘れずにな
卯佐美の突き出した手から展開された魔方陣から大量のバッファロー型の魔物が召喚され、特に配信を妨げると思えない岩や大木等が突き進む群れに呑み込まれていった。残ったのは踏みなされて整地された剝き出しの地面だけ。
召喚されし魔物は『群体バッファロー』と呼ばれる魔物で、あの群れ一つでテイム枠一つ分という破格の魔物である。
角がバイクのハンドルっぽいと言う理由からテイムしようと調伏したバッファロー型の魔物に従魔契約を済ませる前に名前を付けてネームド進化して再調伏する羽目になった回のアーカイブはファン必見だ。
「この階層に卯佐美以外のヒトはいないから安心するぺこだピョン」
//………………
//安心?
//うちのクソ上司ごと会社を吹っ飛ばしてください
//これだ、この爽快感があるからウサミンの配信を見るのをやめらんないぜ
//切り抜き師、仕事の時間だよ
「あ~破壊し過ぎてかまど作る用の石が無い……」
//そら(あれだけのバッファロー型の魔物が通ったら)そう(なるのも当然)よ
//生活魔法を使えば済むのでは?
//拳で地面に穴を空けてかまどにしよう
「それウサ!」
//やめて、地面のライフはもうゼロよ
//草
//そうだな草生やさないとのな
//コメント欄だけでも
「いや、地面に拳の方じゃなくて……できなくもねーけど。あと、コメント欄に草を生やしまくるんじゃねーラビぺこ」
//武器って何使ってるんですか?
//草だ草を生やせ
//草が武器!?
「なんで卯佐美の武器が草になるピョン。普通に糸だウサ」
配信に映る卯佐美の手を良く目を凝らして見ると薄っすらと細い糸が伸びているのが見えるかもしれない。
//そうだウサミンの武器は普通に糸だぞ
//ダンジョンに潜る時に武器は糸が普通だよな
//え? え?
「こ~ら~新規のヒトが着いてこれないネタはヤメナ~縛って吊るすぞ」
//たすかる
//ぜひ頼む
//え!? 縛ってもらえるんですか!
//悲報 新参は既にこちら側だった
//朗報では?
「そうだったお前らを縛るのは逆効果だったの忘れてた」
//ウサミン語尾、語尾!
//素が出てるよ
「ま~いまさらラビだな。かまどもできたし解体したロックバードも焼いていくウサ。あ、煮た方がいいぺこかな」
//まさかレシピが無い?
//はははそんなまさか、羽を毟ったロックバードを用意していながら? ありえる
//ウサミンならやりかねん
「おい、卯佐美のことなんだと思ってるピョン。ちゃんと調理済みを用意してあるラビだから問題ないぺこだし」
と、言うわけで焼くなり煮るなりしたモノがただいま卯佐美がアイテムボックスから取り出したコチラになります。
//すでに完成してね?
//いやまだだ、きっとドレッシングとか
「あ、いっけねコレ完成品だったわ」
色とりどりの野菜が敷き詰められたサラダの上に焼くなり煮るなりして火が通ったロックバードの肉が鎮座する一皿。
//料……理……?
//ちゃんと火が通ってるし料理か
//サラダだって料理だろ! 手で千切ったっぽいけど
//推しが素手で千切って作ったサラダ――ご馳走では!?
//お前、天才か!?
//朗報、天才現る
//でもウサミンだぞ?
//すまない、どうやら俺は天才じゃなかった
//ウサミン、料理する前に手洗った?
「ちゃんと洗ったぺこですけど!?」
ドレッシングやら特製ソースの類は無い。なぜなら卯佐美はから揚げに一声もかけずにレモンを掛ける奴が許せないのと同じようにサラダへ勝手にドレッシングを掛けられるのも許せないからだ。卯佐美はドレッシングは好きなヤツを掛けて食べたい。故に食べる人が自由にドレッシングを掛けて食べられるようにしているのだ。
「決してドレッシングを作るのが面倒なわけじゃねーラビ……いや、ドレッシング作んのって面倒だった気がするウサ。うん、ドレッシングは市販のシーザーでいいか」
//ウサミン、料理名ってある?
//いるか?
//素サラダ~火の通ったロックバード肉を添えて~
「いや最初に言ったウサだけど、料理名は『トリ
首狩りウサギのダンジョン配信 ~罰ゲーム企画『ダンジョン料理』~ 真偽ゆらり @Silvanote
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