第35話 姉


「えぇ!? 大司祭候補って、結構な立ち場じゃないか!?」

「お静かに。ここは病院ですよ?」

「あっ……ご、ごめん。それでシアのお姉さんが大司祭候補って話本当?」


 俺は声を抑えながらも先程の話を続ける。


「えぇ。ディスティというわたくしの自慢の姉です。今は布教活動から帰ってきていて、新しい信者と共に大聖堂にいると思いますよ」

「その大聖堂はどこかな?」

「わたくしが直々に姉さんに頼んでみますので、お仲間と一緒に向かいましょうか」


 ミーアとアキも適切な治療を受けたおかげで傷は完璧に治っており、万全な状態で四人で大聖堂まで向かう。


「この人は信用しても大丈夫なんですか? リュージ様を追放した人なんですよね?」


 アキは道中シアに対して疑惑の目で見つめ、ずっと俺の側で歩く。

 前に俺がバニスのパーティーを追放されたことはアキも知っている。なのでその元一員である彼女を訝しく思ってしまっている。


「俺は信用する。アキやミーアにはそれを強要しないし、俺は俺が信じたいと思った人を信じて、助けるべき人を助けるだけだから」

「僕はリュージ様が信じるならそうしますけど……」


 シアは追放の件に関しては自分に非があると考えているのか、アキの不満を聞いても文句一つ言わない。


「過去にリュージと何があったかは関係ないわ。今彼が信用するっていうなら、私はあなたを信用するわ。よろしくねシア」


 ミーアは大人の対応で蟠りを水に流し手を差し出して握手を求める。


「はい。みんなで一丸となってエムスを捕まえましょう」


 シアはその求めに快く応え、道中話しているうちにアキともある程度打ち解けてくれる。

 世間話もそこそこに、俺達は雪が積もっている巨大な建物に辿り着く。


「大きいですね。僕何人分の高さがあるのでしょう?」


 アキが建物の頂点の金色の部分を見上げる。そのまま彼女が後ろに倒れてしまいそうなほど建物は大きく、それは反魔族教の勢力の強さを示している。


 あんまり人種で人を差別するのは好きじゃないけど、今はエムスを捕まえるための協力関係なんだからそういうのは忘れていこう。


 シアを先頭に俺達はその神聖な建物へ足を踏み入れる。

 中も外に劣らず綺麗で人の心を掴むもので、金色と青色……いやあれはどちらかといえば空色だろう。とにかくその二色をメインに添えた内装となっており、天井までビッシリと装飾が入っていて見上げた先には天井窓がついておりそこから日光が入り込んできている。


「姉さん!」


 シアの視線の先には彼女と同じ白髪の女性がお爺さんと話している。シアのお姉さんのディスティはお爺さんに頭を下げ話を切り上げてからこちらに来てくれる。

 揺れるその髪は今外で降り注いでいる雪のようで、シアをも超える美貌を、男を惑わせる妖艶な魅力を持ち合わせている。


「ふふっ。姉さんはとても美しいでしょう? 魔法もわたくしとは比較にならない程上達していて、わたくしの自慢の姉です」


 シアの瞳には嫉妬の念などは一切感じられず、そこにあったのは純粋な憧れと尊敬のみだ。


「人を過剰に持ち上げるのはやめなさい。それでそちらの方々は?」

「わたくしの知り合いでして、エムスに襲われた者達です。殿方がリュージさんで、紫髪の女性がミーアさん。そちらのお子さんがアキさんです。

 わたくし達と協力してエムスを捕らえたいらしく、全員騎士団の隊長以上の実力があることはわたくしが保証します」


 俺達の代わりにシアがスムーズに話を進めてくれる。


「ちょうどその件で大司祭様と話し合っていました。人手も欲しかったところですし構いませんよ。よろしくお願いいたしますね」


 宗教というものは排他的な性質があるものなのだが、思いの外ディスティは簡単に俺達を受け入れてくれる。

 やはり戦争の被害者達で構成されていることが影響して排他的性が他と比べ弱いのだろう。


「今大司祭様とエムスの対処について話し合っていまして、よろしければ貴方達の意見も聞かせてもらえないでしょうか?」

「俺達でよければ何でも協力させてもらうよ」


 そうして俺達はディスティと共に大司祭様の元まで行って作戦会議を始める。

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