第17話 助けられなかった子達
「これ相部屋にしないといけないわね」
宿の入り口でミーアが徐に口を開く。
「もしかして部屋が取れない?」
「そうなのよね。時間も時間だし」
辺りはすっかり真っ暗になってしまっており、アキにいたってはもう眠ってしまっている。その件に関しては俺が敢えてなるべく揺らさず衝撃を与えずに運んでいたという理由もあるだろうが。
「んぅ……?」
部屋をどうするか話し合っているうちにその声でアキが起きてしまい、大きな欠伸をして辺りを見渡す。
「起きちゃったのね。気にしないで。宿の部屋をどうするか話し合ってるだけだから」
「部屋……? なら僕はリュージ様と一緒がいいです……」
寝ぼけながらもミーアの声に反応して、おっとりとした遅い声で返事をする。
「アキは随分とリュージに懐いてるようね。じゃあ任せてもいいかしら?」
「いいよ。じゃあ部屋に行こっか」
俺達は宿に入り、部屋の前でミーアと別れ俺は自分の部屋に入る。
「降ろすよ?」
「ふぁい……」
半分眠っているアキを慎重に、丁寧にベッドへ降ろし寝かせる。
まだ子供のアキは眠気に耐えられずそのまますぐに眠りについてしまう。
「さて……俺は床で寝るか」
少々寝心地が悪かったが、生憎俺はどこでも、たとえ洞窟の中でも十分寝られるという特技があるので何事もなくそのまま床に寝転がる。
それにしてもこんな小さな子がクリスタル集めに参加させらてしまったのか……
流石に数秒では寝ることはできないので、考え事を始める。
横で気持ち良さそうに寝ているアキを見て、この世界の理不尽さを痛感する。
ここに来る前にもいっぱい見てきたんだよな……子供なのに無理矢理戦わされる子達を。
国や大人の事情で無理矢理自由を奪われて……
俺の脳内に、平和活動の一環でとある中東の国まで行った時のことがフラッシュバックする。
黒人のちょうどアキくらいの背丈の男の子だったか、銃を持たされ出撃させられていた。その子は戦争が始まる前に仲良くなった子で、最後出兵する前に俺に一声かけてくれた。
"今までありがとう"と。
「アキ……今度こそ俺は……」
彼女の幸せそうに眠る顔を見て、自然と声が漏れ出てしまう。
そして決意する。この世界でこそはこのクリスタルの力を使い子供を、世界を争いから救ってみせると。
その揺るぎない信念と広がる欲望を胸にまた明日に向けて俺も眠る。
☆☆☆
俺は窓から差し込む太陽の光を目覚まし代わりに目を覚ます。
「ふぁぁぁ……朝か」
アキはまだぐっすりと眠っている。
腕を毛布から出しており、骨さえ見えるほど細い腕が露わとなっている。
恐らく奴隷時代にろくに食べさせてもらえなかったのだろう。
「あ、そういえば……」
俺は先日野宿した時に手に入れた木の実をまだ持っていることを思い出す。小さくあまり腹は満たされないが、ないよりかはマシだろう。
俺は起きたらこれを食べさせてあげようと木の実を取り出しベッドに置いておこうとする。
「いただきまぁす……」
しかしアキが置こうとした俺の手を掴み、そのまま俺の手ごと木の実を口の中に放り込む。
「痛たたたた!」
木の実ごと俺を食べようとするせいで、噛みつかれ一噛みごとに痛みが全身を駆け巡る。
「あれ……?」
叫び声を上げてしまったせいでアキは目を覚ましてくれて、一旦噛むのを止めてくれる。
「お、おはようアキ」
木の実だけを口内に残して手を引っこ抜く。指には噛み跡がついてしまっており、ヒリヒリと痛む。
「あ、す、すみません! その食べ物の匂いがしたので本能的に口に入れてしまって……」
「気にしないで。お腹が空いてたんなら仕方ないよ。空腹や飢餓は思考を鈍らせてしまうし」
「すみません……拾われた身分なのに……奴隷なのに……」
「それは違うよ!」
罪悪感に駆られたじろく彼女を落ち着かせ諭す。
身分や立場から自分のことを謙遜する彼女を見ていられなかった。
「アキは俺にとって奴隷でも何でもない。一人の人間なんだ。だからそんな自分を卑下する必要もないし、もっと親しく接していいんだよ」
彼女の不安を和らげてあげるためだったら指の傷などどうでもよい。
それよりも今身分や立場などを気にして本当の自分を出せない彼女を見ている方がよっぽど辛く重大な問題だ。
だから俺はアキに対して友人に接するように、いや妹を世話する時のような態度で接する。
「リュージ様……僕お腹が空きました」
「じゃあミーアも誘ってここの食堂に食べに行こうか」
自然に接そうとして出た言葉なのか、それが本心だと裏付けるようにアキはグウゥゥという可愛らしい腹の音を鳴らす。
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